サミーとの出会い
僕のMPはいつの間にか全て回復して、満タンの状態だった。HPは自然回復しないが、MPは自然回復してしまうという、MP消費の激しいマジシャンやヒーラーのクラスに対して、割と優しさあふれる設定だ。
僕は回復してあげるために、そのHPが1になったおバカなマジシャンに近づく。
この心理はヒーラー独特のものではないかと思う。
一度も話したことのないプレイヤーであろうと、なぜかHPが減っているのを見たら回復してあげたくなってしまう。
制服効果と同じようなことなのかもしれない。僕はヒーラーというクラスを演じているからこそ、こういった考えに至る。誰かを救う能力を持っているのなら、それを使いたいと思わない筈が無いのだ。
だからこそ。
だからこそ、攻撃主体の人の気持ちも理解できたような気がする。攻撃してもいい対象がいて、攻撃できるほどの力を持っていて、攻撃すべき理由が存在する。これでは攻撃しないほうがおかしい。
たとえ相手が、無抵抗で殺されたとしても。
それにはそれなりに理由があるはずだったのだ。
殺す理由と殺される理由。いや、これではどちらも同じことか。
殺す理由と殺されるべき理由。うん、これだ。
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」
ヒールの四連発をかまして、一気に全回復してあげた。
気分がいい。自尊心が満たされる感じだ。
するとマジシャンは、驚いたようにこちらを向いて――
「thanks」
と言った。
「Oh……」
と言い返してしまった。
なぜに英語。
「ああ、ごめんなさい。私アメリカ人だから、ついうっかり英語がでちゃうのよ」
「Oh……」
アメリカ人とな。これは今までで一番驚きのエンカウントだ。
「私の名前はサマンサ。サミーって呼んでね――それで、あなたのお名前は?」
「えー、こほん。カクって言います。見ての通りヒーラーで、1時間ほど前にこのゲームを始めたばかりの新人です」
そうなの? と、歓喜の声を上げるサミー。見れば彼女も初期装備のものだった。
「じゃあさ、私とパーティー組んで、狩りに行かない? このゲームって基本的にはパーティー組んでいかないと厳しいらしいし。どう?」
「お、おお。いいぞ。回復しか出来ないけど、組んでくれると言うのなら、ありがたい」
そう言うと、彼女からパーティー申請が来た。許可を押すと、サミーは待ちきれんとばかりに、門を潜る。その背中に迷いはなかった。
「ちょっと待てって。まさかヒヨピーを狩るつもりじゃないだろうな」
僕はサミーに追いすがって、そう問いただした。
ヒヨピーを狩る狩らない議論において、僕は完全なる負けを喫したわけだが、それでも僕はヒヨピーを狩ることに対して疑問があるのだ。
もっと時間をかけてヒヨピーのことを考えて再び議論すれば、あんな容易く論破されなかっただろう。
とにかく僕には、ヒヨピーのことを考える時間が必要なのだ。
「このゲームの真骨頂はPKよ」
平原に出た僕たちは、手頃な草むらにしゃがみ込んで隠れた。ここからは門が見えて、その門を出入りするプレイヤーもばっちり見える。
そして彼女は続ける。
「高価そうな装備を身につけているプレイヤーを見つけて、二人がかりで襲いかかるの。ぶち殺したプレイヤーから装備品とお金を剥ぎとって、そしてさらに経験値も入るという、かなりお買い得なシステムよ」
おいおい、確かこのゲーム、ほのぼの系オンライゲームとかって銘打っていなかったか?
横に座って隠れているサミーの顔は、アニメのタッチで描かれているが、凶悪な笑みは隠し切れていない。ある種、ホラーとも言える惨状だ。
「ちょっと待てって。そんなことしたら不味いって……!」
「なに? なにか問題あるの?」
またそれかよ。理由だの問題だの。そもそも僕はモンスターであるヒヨピーを狩ることすら嫌悪感を覚えると言うのに、他のプレイヤーを狩れ、とはいかがなものか。
「このゲームはPKを容認しているの。ということはこのゲームをプレイしているプレイヤーは、PKをすることもされることも、ある程度は容認しているってことになるでしょ? あなたは嫌がっているようだけれど、その発想はこのゲームの中の常識ではないのよ」
「でも、このゲームの中だって現実世界の延長線上のものだし。だから現実世界の常識が通用しないなんてのは、到底容認できない」
「確かにこのゲームは現実世界の延長線上のものね。それは紛れもない事実よ。でも、現実世界にPKなんてものが存在するかしら?」
「それは……」
そんなものは存在しない。人を殺すこととPKは、似たようなものであっても、決定的に違う。
「ここは現実世界の延長線上であっても、それとはまったく別のルールで動いている。日本とアメリカの法律や常識が違うように、ここも現実世界とは別のそれらが存在しているの。ほとんどのプレイヤーが同じ日本人だとしても、ここは完全に日本ではない。だからこそ――」
彼女は言う。
「あなたの今の発言は、常識外れで的外れよ」
なかなか手厳しい言葉だった。
よくわからないけど、もうこうなったらPKするしかない。常識外れの人間だと思われるのは嫌だから。
「……しかしサミー。PKするのはいいとして」
「なに?」
「キミは本当にアメリカ人か? 異様に日本語が達者なんだけど」
「あ、当たり前よ。私はほんのリトル、ジャパンで過ごしたことがあって、その時にジャパニーズのポップカルチャーに触れて、それでジャパンをラブするようになったんだから」
「いやそれ、英語を勉強し始めた男子中学生がよくやるヤツだから!」
「え? ルーでしょ。トゥギャザーしましょ」
「その知識は完全に日本人のものだ!」




