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一件落着

「びっくりした……」


 無事アイテムを回収し、セレスとふたりして帝国騎士団本部へと戻ろうとしていたとき、彼女はぽつりとつぶやいた。


「今回の剣は貸しとくって……、全然解決してないじゃん! って思ったわ」


「今回の剣じゃなくて、今回の件な。話の流れで分かってほしかった」


「というか、わたし別に居なくてもよかったじゃん」


 セレスは少しだけいじけたように頬を膨らませた。


「いや、竜兄弟と対等に交渉できたのも、アイテムを回収できたのも、セレスが傍にいてくれているたから出来たことだ。感謝してるよ」


 僕がそう言うとセレスは顔を下に向けて、しかし頬を膨らませたままだった。


「…………」


 今の僕の発言、すごい際どくない!?

 めっちゃ気障っぽかった!?

 今のはただ、帝国騎士団という後ろ盾があるからこそ、強気な交渉ができたというだけのことなんだけど……。

 まあいいや。いまさら否定するのもなんかアレだし。


「とにかく早いところツンケン剣とペッソペを大団長さまに持っていこう」


 いまそれらのアイテムはセレスに預けているが、そもそも預かったアイテムなので、できれば素早く届けに行きたい。襲われる心配も盗まれる心配もないだろうが、こういうのは精神的な問題なのだ。


「そうね、急ぎましょう」


 そして羽をはためかせて飛んで行くセレス。街中では高く飛ぶことはできないらしいので、低空飛行になるのだが、それでもヒーラーが走るよりはずっと早い。なんとか遅れないようにバタバタと走り、しかし帝国騎士団本部に着くころには、なぜか汗だくになった上に、気分が悪くなってしまった。思い返してみれば、僕はこのゲームの中で、一度も戦闘らしい戦闘を経験していなかった。だから、そもそも激しい運動には慣れていないのだ。ていうか、普段から装備している魔道書、すごい邪魔だな。剣の類なら腰にぶら下げられるし、杖なら杖として使えるけど、魔道書は大きいくせに、常に手で持っていないと駄目だから、どうしても運動性能が落ちているような気がする。ランドセル的なものが欲しいところだな……。


「セレスです。入ります」


 いつぞやの会議室の扉を、返事を待たずして入るセレスに、ぜえぜえと喘ぎながら続く。


「アイテム、問題なく回収してきました」


 その部屋には、また大団長さましかいなかった。僕は彼女ら以外の騎士団員を見たことがないのだが、他の人たちは攻略を頑張っているのか、それとも治安維持にあたっているのか、いずれにしろ、ジャスティスブレイカーの面々とは違い、どこかでなにかしらの仕事をしているのだろう。

 セレスがそう報告すると、どっかりと背もたれに体を預けた。どうやら大団長さまはなにか作業をしていたらしい。


「そうですか。なら、そのアイテムはデッドロックに返して来てください」


「……はい」


 僕は大団長さまの発言に驚いたのだが、しかしセレスは予想していたらしく、素直に返事をし、こちらをちらりと見て、そのまま出て行ってしまった。デッドロックにアイテムを返却しに行ったのだろう。


 そして残されたのは僕と大団長さま。


「今回の件、セレスが迷惑をかけましたね」


「ああ、いや。僕も帝国騎士団に迷惑をかけたし……」


 今回の件は、僕とセレスの不甲斐なさが起こしたものだったのだ。

 アイテムをどうするかについて大団長さまに預けたのは正解だったが、そのアイテムを僕に預けたのがセレスの間違いであり、そのアイテムを簡単に奪われてしまったのが僕の間違い。

 それに鈴にも……。


「鈴に迷惑をかけたと思っているのなら、それは見当違いですよ」


「そうかなあ……」


 僕は鼻の頭をぽりぽりと掻く。


「上の立場の人間が下の立場の人間の面倒を見るのは当然のことです。それに、鈴自身も言っていましたしね」


 なにを、と僕は俯き加減だった顔を上げる。彼女のにっこりと笑った顔が見えた。


「出来の悪い弟が出来たみたいだ、って」


「…………」


 なんか微妙。

 いきなりフィールドで素振りを始めたり、ぼっちと言われて半ギレになった挙句、涙目になった人にそう思われるのは、すごい微妙だ。

 でも――不思議と悪い気分じゃない。


「わたしも」


 と、彼女は言う。


「出来の悪い妹が出来たみたいで、なんだか楽しいです」


 多分だけど、それをセレスが訊いたら本当に微妙な顔をすると思う。

 そもそもその評価自体が微妙だ。


「って言っても、帝国騎士団の団員はみんな、大団長さまの妹や弟みたいなもんじゃないのか?」


「まさか。わたしよりも年上の人もいるのに、そんなこと思えませんよ」


 ……なるほど、ギルドマスターの立場も微妙というわけか。

 なぜギルドマスターなのかというと、それはギルドの中で一番強いからでもなく、一番年上だからでもなく、ただ単に設立したときにギルドマスターだったから、というだけなのだ。ギルドが大きくなっていけば、自分がギルドマスターに相応しいか、なんてことを考えてしまうのだろう。


「でもまあ、帝国騎士団は文句なしに最強ギルドなわけだし。全プレイヤーが出来の悪い妹や弟みたいなもんだろ?」


「意味が分かりませんけど……?」


 大団長さまの表情――どうやら本当の困惑しているらしい。確かに脈絡のない話ではあったが。


「それはそうと、なんで帝国騎士団は最強なんだ? レベルのせいなのか、はたまたクラスのせいなのか。人数的には中堅クラスなんだろ?」


「最強と呼ばれているから、最強なのでしょう、ね」


「…………?」


 最強と思われているから最強ということか?

 最強だから最強と思われるのではなく。

 単なる言葉遊びだと思うんだけど。しかもいずれにしろ、最強であることには変わりない。

 そしておそらく、最強であろうとするからこそ、最強なのだろう。だから最強だと思われている。

 しかし大団長さま、なにやら触れてほしくなさそうな声音。話を変えるか。


「アイテム。デッドロックに返却でよかったのか?」


「ええ、あなたの判断が正しかった」


 この人ならば、この決断を下すと思っていた。


「セレスは特隊のことを知らなかったのです。だから不当なアイテムだと思ってしまった。まあ、不当であるかそうでないかと問われれば間違いなく不当であるのでしょうけど、それが通ってしまうようなゲームなのです」


「ふーん」


 もし仮に、僕が特隊のことを大団長さまに聞いていなかったら、セレスと同じような考え方を持ったのだろうか。

 ……それはない。


「セレスは少し、性格が強気すぎる。一緒にいてはらはらするくらいだ。そこのところを直すように言っておいてほしいんだけど……」


「なぜ、あなたがそのようなことを?」


「PKされちゃうかもしれないだろ。いくらレベルが高いからって、集団で襲われたら手も足も出ない。友達が死ぬのは死んでもごめんだ」


 そんなわけだから、と言って、大団長さまの返事を待たずに体を反転させる。

 鈴に謝罪と感謝を言えば、一件落着だ。


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