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布団

 数日が経った。

 鈴の情報によると、攻略はそこそこ進んでいるらしい。別に昨日今日始まったゲームなわけでもなし、以前からある程度は攻略されていたのだろう。

 しかし僕たち、特にレベル1の初期装備ヒーラーである僕と、レベル1の初期装備マジシャンのサミーは、レベル上げをすることもなく、ただただ、このゲームが攻略されるのを待っている。正直なところ、一生懸命に攻略に励んでいる人たちには申し訳なく思っているのだが、今さら、今からレベルを上げたところで攻略に参加できるわけでもく、それこそ無意味。

 HPが0になった瞬間の恐怖と闘いながら、敵と戦うなんて、正気の沙汰ではない。だから任せておけばいいのだ。


「暇だな、サミー」


「そうねえ……」


 しかしこのゲーム、通称赤貝は敵と戦い、レベルを上げるというのが基本的な遊び方である。それをしなくなった今、僕たちは死ぬほど暇なのである。

 いちおう暇つぶしのようなことは一通りやった。街中を探索してみたり、帝国騎士団本部に無断で潜入してみたり、お店を冷やかしたりと。しかしそれらのことでつぶせた暇は、ほんの僅かだった。

 だからこうやって、ギルドルームでふたりして寝転がっているわけなのだが。

 ちなみに鈴は、攻略にたまに参加しているらしく、今も外出中だ。


「そういえばカク、あまり詳しいことを聞いていなかったけど……、確かモグラとシラタキ、だったかしら? カクからアイテムを奪ったっていう」


「土竜と白滝じゃなくて、竜士と白竜だ!」


 せっかくの格好良い名前が台無しの間違いだ。


「マスターが笑いあり涙あり、みたいなことを言っていたけど……」


「血も涙もない、だ! 映画のうたい文句みたいに言うな!」


 オモシロ兄弟みたいになってんぞ、竜兄弟。


「そんなことはどうでもいいのよ。私が言いたいのは、眠るときに少しだけ寂しいってことよ」


「ホームシックか?」


 えらい話が飛んだが。


「そうじゃなくて、布団がないと寂しいでしょ。私はこのローブがあるし、マスターは羽に丸まって寝ているけど、カクはなにも無しで寝ているじゃない? だから布団が欲しいのよ」


「まあ、確かに」


 眠るときに寒いということはないが、物足りないと感じていたのも事実だ。


「でもだからって、布団なんてそうそう手に入るものでもないだろ。僕たちは500ポロリしか持ってないから、買う訳にもいかないし」


 そう、とサミーは頷く。


「だから作ればいいのよ。フィールドにいるヒヨピーをいくらか狩れば、布団が出来るって聞いたわ。しかもついでに焼き鳥の素材も手に入るらしい」


「ヒヨピーか……」


「ヒヨピーならこちらが攻撃を受ける心配も無いし、安全にアイテムを手に入れることが出来る。取りあえず行きましょう」


 と言って、サミーは立ち上がり、僕に手を差し伸べた。まあ、ヒヨピーが居る場所なら街へと続く門からも近いし、PKされる心配はないだろう、そう思いサミーの手を握った。

 かつてヒヨピーを狩ることに嫌悪感を持っていた僕だが、もうそんな気持ちは持っていない。なぜなら攻撃してこないといっても、ヒヨピーはまさしくモンスターだからだ。攻撃してくるモンスターであろうとなかろうと、敵なのだ。モンスターという位置づけというだけで、こちらは攻撃の理由が成り立つ。

 デスゲームとなって初めて僕は、ヒヨピーを敵と認識できるようになったというわけだ。

 フィールドに出るとすぐに大量のヒヨピーを見つけた。今日もぴよぴよとやかましくわめいている。


「それじゃあ行くわ!」


「待て、サミー」


 杖を振りまわしながらヒヨピーに突っ込んでいくサミーを呼びとめて、パーティー申請をする。別にわざわざそんなことをする必要もないが、こっちのほうがオンライゲームっぽい。数日間にわたってギルドルームに閉じ込められていた僕は、そういったことに飢えていた。


「…………」


 しかしサミーはパーティー申請のウィンドウを見つめたまま動かない。


「あ、いや。別にパーティーを組みたくないって言うんだったらそれでもいいけど……」


「ん、許可」


 少しだけ考えた素振りを見せたが、それでも許可してくれた。もしかしたら経験値の配分が均等にされてしまうのが嫌だったのだろうか。同じレベル1とはいえ、彼女はマジシャンのクラスであり、ヒーラーである僕よりも多くのヒヨピーを狩ることができる。だからこの場合、サミーは僕とパーティーを組むメリットが全くないと言っていい。

 しかしサミーはそのまま何も言うことなくヒヨピーの元へといそいそと近づき、超近距離でのファイアボールを放った。杖の先から大きな火の玉が現れて、そのままヒヨピーの体へとぶつかる。だが、どうやら一撃では倒せないようでヒヨピーは逃げまどうが、その背中に向けて再びファイアボールを放つと、火の玉が勝手にヒヨピーを追いかけて命中した。そしてヒヨピーはあとかたも無く消え去った。

 そこでどうやらMPが尽きたらしく、杖をバットのように持って、近くのヒヨピーを無慈悲に殴りつけた。ぴぎゃあ、と聞くに堪えない鳴き声を上げながら逃げ惑うヒヨピーを、サミーが無表情で追い詰める。これはかなりショッキングな映像だ。ホラー映画でも見ているみたいだ。

 そしてようやく叩き殺し終えたサミーがこちらを向く。


「カクも見てないで、ヒヨピー狩ってよ。魔道書で叩けば十分殺せるから」


「お、おう」


 自分の持っている大きくて分厚い魔道書を見る。

 どうやって殴ればいいのだろうか。

 やはり大きな面積を持つ平面で叩くのが一番楽なのだが、角で叩いた方が威力は強そうだ。しかしそれらの攻撃方法は持ち方に問題がある。なまじ思いきり叩けるから、その威力が手に伝わってどうしても魔道書を離してしまうのだ。だから、ここでひとつの提案があるのだが、突き、というのを実践してみたいと思う。辞書で人を叩く時のことを思い浮かべてくれれば分かると思うが(?)、割と突き、というのがコンスタントにダメージを与えることができる。こちらにもダメージが少ない。しかしなぜ辞書での突きが普及しないのか――それは辞書自体がぼろぼろになってしまうからだ。だが、ここはゲーム内であり、装備品は壊れたりしない。だから僕は、ヒヨピーを突く!


「あちょ――!」


 奇声を発しながらヒヨピーを突く。魔道書を押し出して、ヒヨピーにダメージ、そして引く!

 さしずめ、賞状を渡しているような感じだろうか。両手で魔道書の端を持ち、それを突きだす。

 時には威力を上げるために回転加えつつ、といっても半回転くらいしかできないのだが、十数回突き続けることによって、ようやくヒヨピーを倒すことが出来た。


「…………」


 時間と労力がかかり過ぎだ。

 こんなにもヒーラーは戦闘面で不遇の扱いを受けているのか。


「なあサミー。そろそろいいんじゃないか?」


 なにがどういいのかは知らないが、これ以上ヒヨピーを倒し続けるのは体力的に無理だ。ヒヨピーは序盤の敵らしくしっかりとした弱さを持っているが、それ以上にヒーラーが、いや、僕がしょぼいのだ。

 精根果てて座りこんで、僕のことを無視して戦い続けているサミーを見る。一撃目の杖の攻撃は簡単に当てられるようだが、しかし二撃目は外れる。なぜならわりとヒヨピーの動きが早く攻撃を受けた瞬間に一目散に逃げ出し、そして足の遅いマジシャンのクラスはそれについていけないからだ。結果、ダメージを与えたヒヨピーは、他のヒヨピーのところまで逃げて、どれがダメージを与えたヒヨピーか分からなくなる。

 そんなことを繰り返すサミーを僕は、どこか優しい目で見ていた。



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