No.3-3 爆弾
「─ッざけんな!! 解除方法は!!?」
縛り上げた男の襟首を鷲掴みにして、力任せに引き寄せる。
鼻先が触れるほどの距離。それでも男は、黄ばんだ歯を剥いて嗤うだけで、口を閉ざしたままだった。
「答えろ!! 爆弾はどうすりゃ止まる!!」
その額へ、思い切り頭突きを叩き込んだ。
ごっ、と鈍い音が、頭蓋の芯まで響く。
「ッ、ぐ…赤い線を切ればいい…!!」
男が、唾を飛ばしながらまくし立てる。
「赤い、線」
俺は、その四文字を奥歯で噛み潰した。
世界が白と黒でしか映らないこの目には、どれが解除する線なのか、見分ける術がない。
俺にとっては、全て等しくただの線でしかなかった。
「解除は俺に任せぇ」
すると、ヤブは得意げに懐から、小さめの鋏を取り出して、こちらに見せていた。
「くそ…くそっ、お前らなんか全員死ねっ!!」
立場は圧倒的に悪いくせに、それでも吠えてくる男に、俺はいっそ呆れを通り越して感心する。
情報は手に入った。もう一度黙らせるか、と向き直った、その時。
横から、すっと別の手が伸びてきた。
「とりあえず、追い注射しとこ」
「うぐぁっ……!!」
針が、男の首筋へ深々と沈む。
「おい、それ……大丈夫なのかよ」
「用法用量は守っとるよぉ」
にへら、と口角を上げて、ヤブが注射器を掲げてみせる。
筒の中身は、どろりと粘ついて、嫌に重たそうに揺れていた。
見なかったことにしよう。
触らぬヤブに祟りなしだ。
「とにかく、敵の全体は、大体わかった」
「目的は、先頭車両やな」
ヤブが鋏を懐に戻しながら、鞄の中をごそごそと探る。
引き出してきたのは、座席に備え付けの、急行の案内パンフレットだった。
「車両は後方から──客室三両、貨物庫二両、機関室の、並びやね」
「了解」
「んで、街に着く前に、谷底の大滝を渡るんやって。橋の上から滝を見下ろせるらしくてな、車窓いっぱいに虹が広がる名所らしいで」
「観光案内すんな」
ぴしゃりと撥ねつけても、ヤブはパンフを片手に、目をきらきらさせていた。
俺は息を吐いて、前方の車両へ目を向ける。
「先頭まで突っ切って、全員ボコして、爆弾抱えた親玉を潰す」
「覚えやすい作戦で、助かるわ」
「というか、ヤブさんは、前出なくていいよ」
よく言えば、こいつを守るために。
悪く言えば──足手まといだからだ。
確かに、不意さえ突ければ、ヤブの薬品で一人くらいは沈められる。
だが、これから相手取るのは、戦闘態勢でこっちを待ち構えている連中のほうが多いはずだ。
さっきのように、うまくはいかない。
この狭い通路で、間合いを詰められたら終わる。
戦力として数えるには、こいつはあまりにも心もとない。
だが、そんな気遣いも露知らず。
ヤブは得意げに、にっこりと笑みを浮かべた。
「俺にも秘密兵器があるから、任せとき!」
「……なに、それ」
「秘密兵器は秘密やから、秘密の兵器なんよ」
だから大丈夫、足手まといにはならんから──と、朗らかにピースサインを突きつけてくる始末。
「……心配だ」
敵が。
敵の、明日の未来が心配だ。
きっとこの前開発していた新薬の、検体にでもされるんだろう。
あるいは、こいつのポケットから訳の分からん医療器具が飛び出して、火でも吹くのかもしれない。
「それじゃ、行こか」
「…はいはい」
短剣の柄を握り直し、前方の扉へと足を向ける。
手のひらに馴染んだ重みが、これから始まることを教えてくる。
「なぁ、兄ちゃんたち、一体……何者なんだ?」
すると、乗客のひとりが、おそるおそる訊いてきた。
確かに、こんな状況で、妙に張り切ってる二人組なんて、不気味なだけだろう。
「あー……」
答えを探して、俺は隣を見た。
ヤブが、にっと笑う。
「通りすがりの、ヤブ医者だよ」
俺は短剣の切っ先を扉へ向ける。
「さ──クソどもを殲滅するか」




