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逃亡幼女とライオンハート ~若返りし亡国の王女、敵国最強の公爵に拾われて~  作者: 山下 六月
第三章 ライオンハート

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第12話 空中回廊にて



「……そんな感じで、セドリックさまがぜんぜん休んでくれなくて。図書室に連れて行けば、居眠りしてくれると思ったんだけど、うとうとする前に、クロードが乱入しちゃったし……」


 数日後。

 私はいつものように着せ替え人形となりながら、アマンダと他愛もない会話を交わしていた。

 話題は、セドリックさまの働きづめ問題について。

 

 図書館でのやりとりから、それが心理的な問題でもあることが認識出来ただけ良かったけれど、かといって私に出来ることなんて、たかが知れてもいて。

 そんなわけで、私はアマンダがコルセットを取り付けやすいよう横に腕を伸ばしつつ、はふぅーとため息をついてしまっていた。


「セドリック様らしいと言えばらしいですが……周りで肝を冷やしている人々の気持ちも、もう少し汲んでくださればよいのですけれど。昨日もあまり睡眠を取らないまま、本城へ向かったとお聞きしましたし……」


 アマンダもまたため息をつきつつ、最後にドレスを着せてくれる。

 ……その絢爛豪華な装飾と、いかにも動きにくそうな布地を見て、私はふと思ったことを口にしてしまっていた。


「ところで、話は変わるのだけど。服って、こんなフリフリなものしかないの? 本や書き物の時、袖が邪魔になったりするんだけど……」


 ――今日の衣装は、これまた派手だった。等間隔で並ぶ可愛らしい薔薇のコサージュ、胸元を飾る柔らかなリボンに、細やかなレース。

 袖口のフリルは幾重にも重なり、ひらひらなスカートの丈も相まって、私を見目麗しく飾ってはくれる。

 けれど裏を返せばそれらは、本当にうっとうしくもあった。

 なんだか花束にでもなったかのようなデザインのドレスを着させられ、私はなんとも言えない表情を浮かべてしまう。

 

 ……確かに、ガーリーで可愛らしいし、厨房にいた頃の服装と比べたら雲泥の差でもある。ただそれでもこういった服の煩わしさは、積もり積もってストレスへとなってゆくものでもあって。

 王女時代は自分で着るものをある程度選べたから、なおさらである。


 だからこそつい口をついて出てしまったその不満に、これまたアマンダは苦笑を返してくる。


「もちろん、もっと簡素な服もございますよ。ただ身なりというものは、権威や待遇の指標になりえます。マドレーヌさんが賓客扱いであることを城の者たちに知らしめる為にも、きちんとした服を着させるようにと、セドリック様から言いつけられておりますので」

「……」

「とはいえ、出歩いたりする予定の無い日は、着飾る必要もございませんし、もっと簡素な服装でも問題はないでしょうけれど。……ちなみにマドレーヌさんは、どのような服をご所望ですか?」


 要望を最大限くみ取ろうと、アマンダはそんな伺いを立ててくる。

 なので私は顎に指を当てながら、必死にその答えを考えていった。


「ええと、動きやすくて、袖もちゃんと止まってて……そう、アマンダが着ているような服装なら、ものすごく勝手が良いのだけれど」

「メイド服、ですか。確かに、幼少期から奉公するもののために、子供用のものも一応用意はしておりますが……」


 そこでふと、握りこぶしを口元に当てるアマンダ。その後、その拳をぽんと手のひらに落とす。


「そうだ。メイド服を着るだけでなく、そのまま少しばかり侍女のまねごとをして、セドリック様をおもてなししてみるのは如何ですか? それこそお疲れのセドリック様をねぎらう事も出来ますし、一石二鳥ですよ」

「……。確かに、給仕をするという名目なら、こんな服なんて着ていられないものね」

「ええ。それに紅茶の煎れ方や焼き菓子の作り方を学び、ちゃんと振る舞うことが出来れば、セドリック様にもきっと喜んで貰えると思いますし」

「……! それ、良いアイデアかも!」


 思わず、その提案に飛びつく。

 ……というのも。実は先の背信行為が、やっぱりずっと心の中にトゲとして刺さっていて。もちろん打ち明ける事も謝罪することも出来ないけれど、それでも何かしらで罪滅ぼしが出来ればと、最近ずっと思っていたからだった。このねぎらいが成功すれば、誰にも打ち明けられない自分の中の罪悪感を、ある程度洗い流してくれる気もする。

 それから……あくまでこれは、ついでではあるけれど。


「ねね、マドレーヌの作り方とか、教えて貰える? お菓子の方の……!」


 ……そう。好物を合法的な手段で口にも出来るはず。

 そんな魂胆をすぐさまくみ取ったのか、アマンダはくつくつと笑いながら、それに首肯を返してくる。


「ええ、もちろんです。実は私はここ最近、保存食やスコーンなどを作る仕事をしていますから。今もマドレーヌさんのお世話をする傍らで、ケーキを焼いたりもしているんですよ?」

「じゃあ……!」

「はい。まさに本職として、そのノウハウを余すことなくお教え致しますね」


 そうして腕まくりしてみせるアマンダに、私は思わず抱きつく。

 アマンダはそれに、柔らかな笑みを浮かべ、応じてくれたのだった。



+++



 その後私はアマンダと、セドリックさまに向けてどんなおもてなしが出来るか、具体的に話し合っていった。

 そしてお菓子作りだけでなく、アフタヌーンティー全般の給仕に挑戦することを決め、その練習の約束まで取り付けたのだけれど……。そんな企みも、まずはセドリックさまに話を通しておかなければ始まらない。

 なんせセドリックさまは多忙な身。ちゃんとアポを取っておかないと、色々と準備しても、きっと空振りに終わってしまうはず。


 ただタイミングが悪いことに、セドリックさまは昨日から帝国本城へと赴いていた。

 夕方には戻るとの事だったので、私はそわそわしながら、その帰りを待っていた。

 ……しかし。



 夕暮れ時。

 一度は城のものに出迎えられながら帰城したはずのセドリックさまは、私が声を掛けるより先に――なぜか忽然と、城から姿を消してしまっていた。


「……セドリックさまー? どちらにおられますかー!?」


 そんなわけで私は今、長い長い廊下を歩きつつ、時たまこうして声を張り上げていた。

 耳を澄ませばあちらこちらから、同じようにセドリックさまを呼ぶ声が聞こえてくる。


「ああマドレーヌさん。セドリック様は見つかりましたか?」


 遠目で私を視認したクロードが、小走りで駆け寄ってきた。

 私は静かに首を振る。


「そうですか。……困りましたね、本城から直々にお越しになられた方だというのに……」


 口元に手を当て、そうごちるクロード。


 ――そう。間が悪いことに、セドリックさまの失踪と同時に、皇帝からの使者が来訪してもいて。

 こうなってしまえば、個人的に通しておきたかった話など、完全に二の次。

 私も城の者たちと一緒になって、セドリックさまを捜索するしかなかった。


「……そもそもだけど。今日セドリックさまは、その本城に呼ばれていたんじゃなかったの?」


 ふと疑問に思ったことをそのまま口にすると、よほど必死なのか、クロードは珍しく私の質問にちゃんと答えてくれる。


「ええ、そうなのです。どうやら皇帝陛下直々の招集だったとかで、久々に登城なされておりまして。私は別件がありまして、同行が叶わなかったのですが……」

「うーん……なら何故、帰ってきた直後に本城から使者が? 忘れ物とか?」

「いえ、セドリック様に限って、そういうミスをするとは思えませんし……むしろ陛下側が、何か伝え忘れたとかなのかも知れません」

「……なるほど」


 ひとまず納得は出来たので、ちゃんと協力するため、改めて話を聞いてゆく。


「……セドリックさまは、こうしていなくなる事が、よくあったりするの?」

「その……たまに、ですね。大体が、戦や協議で遠方に出かけ、お帰りになった直後……でしょうか」

「……どれくらいの期間?」

「長くても数時間です。大体夕食時までには、姿をお見せになりますから」


 ……となると、城の外に出ている線は薄いはず。

 ただ城の中にいるのなら、これだけ手分けして探しても見つからないなんて事、本当にあるのだろうか……?


「ともかく、使者の方をあまり待たせてしまうと、巡り巡って皇帝陛下のお怒りを買ってしまうかも知れません。申し訳ありませんが、引き続き協力して貰えますか?」


 クロードのその頼みに、私は一も二もなく頷いて返す。

 するとクロードは余裕が欠片もない様子で、また慌ただしく走り去って行ったのだった。


「……」


 そうして、その去って行った方向をぼうっと眺めていると。

 ふと視界の隅の方で、見慣れた人影が映り込む。


 ――周囲に溶け込みつつ、私だけが気づくように姿を晒しているということは、とうぜん普通の庭師などではなく……。


「何かあったの? まさか……貴方たちが手を掛けたなんて、言わないわよね?」


 いつもしているように、単なる知り合いへ話しかけるかのような動作でもって、私はダミアンへ声を掛けていた。

 ――彼がこうして姿を見せていると言うことは、何かしら伝えたいことがあるという意思表示。

 事実、ダミアンは作業の手を止めながら、世間話の体で口火を切ってくる。


「いえ、流石に城のど真ん中で暗殺などすれば、事態が混迷を極め、貴方様にも危険が及びかねません。ただ……それでも何かお考えがあるのなら、我々は喜んで、任務を遂行する所存ではあります」

「余計なことは止めて。そんな命令、さらさら出すつもりもない。……なら、何の用?」

「どうやら、かの公爵を探されているようでしたので……差し出がましくはあるのですが、ご助言をと思いまして」

「……! どこにいるか、知っているの?」

「場所の特定までは。ですがどこを通ったかという情報ならば、幸いにも持ち合わせてはおります」

「……」


 ――確かに、潜入している者たちにとって一番の関心事は、もちろんセドリックさまの動静だろう。

 そう考えれば確かに、誰も知り得ない情報を握っていてもおかしくない。

 

 ダミアンのその申し出を受け、一旦はその気遣いにあやかろうと、口を開きかける。

 ……ただ考えれば考えるほど、あまり得策ではないようにも思えてくる。


「……気持ちはありがたく貰っておく。でも今日は長いあいだ部屋にいたし、あなたが渡そうとしている情報は、本来私には知り得ないことだと思うけれど」


 そうして懸念を口にすると、ダミアンもまた思案顔を浮かべ始めた。


「確かに……そうですね。おっしゃる通りかも知れません」

「こんな事で足がついたりしたら、とんだお笑いぐさだもの。いちおう確認するのだけれど、城外に出てはいないのよね?」

「ええ」

「なら、今はそれを聞けただけで十分。……ありがとう」


 そう端的に礼を述べ、私はそのままダミアンから距離を置く。

 ……他人にばれるわけにはいかない関係だからこそ、世辞も挨拶も最小限。

 ダミアンもそれを分かってか、それ以上何かを言ってくることもなく、庭師としての仕事に戻っていった。


 しかし……セドリックさまは、本当にどこに行ってしまったのやら。

 執務室も訓練場にもいないのは、既にクロードが把握済み。特に用事があるわけでもないみたいだし、本当に行方知れずといった状態だ。


 と、そんな時。

 どうしてだか分からないけれど、私の脳裏にふと、以前街に案内されたときの出来事が浮かんだ。

 あの時のセドリックさまは、街の活気や、あるいは治水を施した川を、誇らしげに眺めていて――。


 ……。

 ……それらを一望できる方角は……。


 私はその直感に従って、城の上層を目指し始めた。



+++



「……こんなところで、何をしてるんですか?」


 ――尖塔の頂上へと続く、長い長い螺旋階段。

 その中腹付近でふと現れる踊り場の、寂れた扉を開けた先。

 空中回廊とでも言うべき通路の突き当たりで……セドリックさまは胸壁に手をかけ、ぼうっとたそがれていた。


 背中越しにふとそんな声を掛ければ、セドリックさまは驚いた様子で振り返り、そしてぎこちない笑みを浮かべる。


「マドレーヌか。……どうしてここに?」

「以前街や川を案内して貰った時、なんだか思惑げな様子でしたから。それらを眺められる場所が、お気に入りではないかと思って……」

「……本当に聡い子だな、君は」


 そう言ってかぶりをふった後、セドリックさまは繕いを捨てて真顔に戻ると、またも眼下の光景へと目を向けた。

 私もまた何も言わず、その横に立って身を乗り出し、壁の隙間越しに景色を見下ろす。


 ……思った通りだった。ここからなら川も街並みも、それから整備された街道や、手入れの行き届いた畑なども望むことが出来る。

 尖塔の影に隠れ薄暗いこちら側とは違い、夕日に照らされたそれらは、何だかまぶしいくらいに輝いてもいた。


「……何か、あったんですか?」


 そんな景色を眺めたまま、私はふと、そう切り出す。

 するとしばしの沈黙が流れた後、セドリックさまはぽつりと一言だけ口にした。


「……なんてことはない。少し、風に当たりたかっただけだ」

「……」


 そんなことはないだろうと、私はじっとセドリックさまの横顔を見つめる。

 ……白旗が上がるのは、案外すぐだった。


「……。諌めたんだ、皇帝陛下を」

「……!」

「ブランシャールをあっさり滅ぼせてからというもの、陛下は今に至るまで、ずっと舞い上がったままだ。あれやこれやと理由をつけては、酒池肉林の宴を開き続けている」

「……広大な土地を奪い取った今こそ、本来は率先して働かなければならないはずなのに、ですか」

「ああ。……戦勝会と称して何度も開かれている遊宴は、その実ブランシャールの民たちが蓄えた食糧を浪費しつつ、その不幸を嗤い、蔑むだけのものだ。……正直、悪趣味きわまりなくてな。だからこそつい、しなくてもいいことをしてしまったんだ」

「……。それで、どうなったんですか……?」

「当然、不興を買ったさ。罵詈雑言にくわえ、占領地の統治の遅れという痛い腹を、これでもかと弄られた」


 回廊を吹き抜ける風に、セドリックさまはため息を溶かしてゆく。

 ただ、それでもすぐに私の方へと顔を向けた。


「ただそれでも、私は処断されなかった。厄介払いすれば、ライオネルナイツをも切り捨てることになるからな」

「……ライオネルナイツは、帝国が持つ武力の、その最たる象徴ですからね」

「ああ。諸外国への抑止力の一つにもなっている存在を、自らの感情だけで手放すほど、陛下も愚かではない。しかしそれでも、嫌がらせならいくらでも出来るからな。ねちねちと憂さ晴らしをされた」


 肩をすくめ、おどけるセドリックさま。しかしすぐに、伏し目がちになる。


「陛下は……ブランシャールはおろか、自国領を統べる心構えすら足りてはいない。だが打てども打てども、あの方には何も響かない」

「……」

「私では、この国を何も変えられない。……そんな現実が、少々口惜しくてな。それでこうして、たそがれてた、ということだ」


 そうして自虐的な笑みを浮かべ、セドリックさまはまた、景色に目を向けてしまった。

 その悲しそうな横顔に、私はかすかな声量でもって、問いを投げかける。


「いつも、ここに来るんですか?」

「……。……ああ。こういうことがあったら、いつも来ることにしている。そうして今までの成果を眺めて、少しでも自分がやってきた……いや、もがき苦しみながら、なんとか成し得てきたものの数々を見て、自らが正しいということを再認識してるんだ。でないと……」

「でないと……?」


 思わず聞き返せば、セドリックさまはその切れ長の瞳を、見惚れるくらい整った顔を……見たこともないぐらい曇らせながら、告げてきた。


「――善きライオンであり続けられなくなりそうで、不安になるんだ」


 ――先日図書室で読んだ、あの絵本がすぐに頭をよぎる。

 無辜の民たちに気づかされた、上に立つものの心得……その内容と、セドリックさまの悲しげな表情とが線で繋がり、思わず息を呑む。


 ……セドリックさまは、帝国主義と優しい心根とで、いつも板挟み状態だ。

 そうしてすり切れそうになっている心を、いつもここに来ることで、何とか保ってきていたんだろう。



「……セドリックさまは、十分すぎるほど、良くやっていると思います」



 ――だからこそ。

 私は思いの丈を伝えるべく、じっとその瞳を見つめ、そう告げていた。

 あんなことをしでかしておきながら、どの口が言っているのかと自嘲したくもなるけれど。それでも……それでも今だけは、私はこの人に寄り添い、背中を押してあげるべきだと、そう感じたから。


「……え?」

「セドリックさまは、本当に立派に務めを果たしていると思います。むしろ……その責任感に、いつか押しつぶされてしまうのではないかと、不安になるほどに」

「……」

「だから、気に病まないでください。……ブランシャールのためを思い、愚鈍な輩に諫言をしてくれただけでも、救われた気持ちです。ありがとうございます、セドリックさま」

「……。そうか」


 私の感謝の言葉に、セドリックさまは極めて端的に応じる。

 だがその表情は、ほんの少しだけではあるが、柔らかいものにはなっていた。


「……実は私、日々頑張っているセドリックさまをねぎらいたくて、それで探していたんです。先日雨が降ったときみたいに、ぽっかり時間が空いたら、ぜひ私に教えて下さい。その時まで私も頑張って、腕を上げますから」

「腕を、上げる? ……何をするつもりなんだ?」

「……内緒です」


 そうして私は人差し指を立てて、少しおどけてみせる。


 ……と、ちょうどその時。

 遠くの……恐らくは回廊の下あたりからだろうか。かすかにセドリックさまを探す声が聞こえてきた。


「セドリック様ー!? いらっしゃいませんかー!?」


 ……そうだった、今はセドリックさまへのフォローよりも何よりも、使者への対応だ。

 これ以上皇帝の不興を買わないためにも、それが何より優先させるべきことのはず。


「セドリックさま。……実は先程、その皇帝から使者がやって来てまして」

「……! そうか。それでマドレーヌは、私を探していたんだな」

「はい。……ごめんなさい。何より先に、それをお伝えすべきでした」


 申し訳ないとばかりにうなだれるが、セドリックさまは気にするなと首を振ってくれた。

 そしてすぐに顔を引き締め……これまでの為政者然としたオーラと気品を纏いだす。


「……使者は応接室で待たせているのか?」

「はい。螺旋階段を降りれば、誰かを捕まえられると思います」


 セドリックさまはそれに何度か頷き、踵を返した。

 だが、そうして踊り場の扉を開けた後。セドリックさまはふと振り返ってくる。


「そうだ、マドレーヌ。……この場所のこと、それから今の話、出来れば口外しないでもらえると助かるんだが」

「……! はい、分かりました」


 しっかりと頷いて返せば、セドリックさまもそれに応じて、ふと口角を上げてくれた。

 ……先ほどの消え入りそうな様子はもう完全に霧散しており、私は内心胸をなで下ろす。


 そうしてセドリックさまは再度身体を翻すと、今度こそ足取り軽く、螺旋階段を降りていったのだった。




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