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私ってば、欲張りさんね

猛暑極みの中、みなさんご無事でしょうか?

ちょこっとは無事ダウンしています(∩´∀`)∩アチー

秋が恋しい……

「あら、おはようございます。リタさん」


 食堂で隣り合わせ座ったお淑やかなお嬢さんに、至極丁寧な挨拶を頂いて、私も出来るだけ丁寧に返す。


「おはようございます。グレイス様」


「まぁ、様付けは不要だと何度も申し上げましたのに。ここでは、みな等しく神に使える身。私も、アムリタさんも平等ですわ」


 そう、お上品に微笑むのは、私より一回りは若い子爵家のお嬢さん。平等という時にうっすらと恍惚な表情が見て取れて、若い頃特有の妄信的な陶酔に内心一歩身を引く。


「そうですね、申し訳ありません。中々慣れなくて。少しずつ改善していけると思いますので、どうか見守って下さいまし、先輩」


「ふふっ、宜しくてよ。いつでも私は歓迎ですわ。ぜひ、お友達として平民の生活を教えて頂きたいんですの」


 ……悪い子ではない。親切に色々とココでの事を教えてくれる。一回りも年上のとっくに選定の時期なんて過ぎたと明白な私へ、訳アリなのは明らかなのに無理に聞き出そうとはしない。


 が、お育ちというものはその根底へこびりついて、本人さえ気付かないでいるようだなと思った。


 すぐに、皆が揃って食前の祈りを捧げ、静かに食事を頂く。


 あぁ、何もしなくても座っているだけで食事が出てくるだなんて、本当になんて贅沢なのかしら。そう、一口一口噛みしめる。勿論、ココの食事がお貴族の子女向けで質が良いというのもある。修道院でこんなに豪華な食事が出てくるのもココくらいのものだろう。


 豆かトウモロコシなんかの冷製スープに、肉か魚が日替わりで、パンも固い黒パンではなく柔らかな白パン。食後には果物か、夜には冷たい菓子が出る事もある。飲むのは勿論ただの水だけではなくて、葡萄のジュースもあった。


 美味しい。とにかく美味しい。初めての日はテーブルマナーが分からなくて、一番最後に食べた。まずは、みんながどんな風に食べるのかを見て、見様見真似で食べていたからだ。だけど、今では一番に食べ終わりそうな勢いだ。……おかわりも、してしまう時がある。いえ、その、優しい配膳係の方が、多めに作られているスープなんかをさり気なくおかわりしてくれたりする。嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいです。


 そうして、食事を終えると、礼拝堂で祈ったり、聖女としての雑多な事を先輩修道女の方々から教えて頂いたり。そんなこんなで昼食に。

 昼食後は、大体みんな自由にしている。楽器の練習をする人もいれば、刺繍をしたり、慰問で街の孤児院を訪れたり。


 そんな時間に、グリムワルド伯爵は私を訪ねて来られる事が多い。たまに、午前中に礼拝を離れて見ていらっしゃる事もあるけれど。二三言会話して行かれるので、きっとお忙しい日なのだろうと思っている。


 そういえば、キャンディールはあれから見ていない。私をここへ連れてきてくれてから、王城へ連れ戻されてしまった。伯爵から聞いた当代の聖女(偽)の事を思い返す。


「酷い目に合ってないといいけれど」


 自室で一人、ぽつりと呟いた言葉は空中に霧散した。孤児院の開くバザーで売る為に、ハンカチへ刺繍を刺していく。刺繍なんてやった事無かったけれど、繕い物ならずっとやっていた。綺麗な絵を描くのは難しいけれど楽しい。こんな、何かをゆっくり楽しむ時間も、随分と無かったものだわ。


 少し目が疲れて、休憩しようと針を片付ける。修道院の中で育てているハーブから、二三枚葉を頂いてお茶にしようかと、部屋を後にした。





「ああ、丁度良かった。今いいかな?」


 院内の菜園の片隅へと向かう途中で、グリムワルド伯爵とお会いした。今日もスッキリとした出で立ちで、オールバックに撫でつけられた髪は一糸の乱れもない。ピンと張りつめた結弦のように姿勢良い振舞いに、思わず私の姿勢もピンとなる。


「はい。こんにちは、伯爵様」


「いい、そう畏まるな。といっても、すぐには慣れぬか」


「すみません。あの、気を付けます」


「余計に固くさせてしまったか。いや、叱っている訳では無いと、それは分かって欲しい。君を委縮させるのは不本意なのだと」


 お会いする度に、穏やかになられる視線が心地よい。夜の闇も、安息の闇なのだと思うようになった。恐ろしい深淵では無く、安らかにその身を休ませられる夜の優しさなのだと。


「あの、不作法な真似をしてしまわないかと、私が勝手に緊張してしまうのです。伯爵様とお会い出来るのは私にとって、嬉しい事です。優しいお言葉をかけて頂けるのも、愛らしい贈り物を頂けるのも……良いのかと気は引けますが」


 私が固くなってしまうせいで、優しい夜の瞳が憂いを帯びるのは悲しい。もう訪れて下さらなくなったら、悲しい。そう、必死に言い訳する私を、少しだけ驚いたように見下ろして、細められた。


「そうか。ならば良い。今日はあまり時間が無くてな、これを渡しに来た。少し探して会えなければ、言付けて行こうと思っていたのだ。一目、会えて良かった」


 私の手に小さな可愛い籠を持たせると、一呼吸程の間、黙って私を見下ろしていらっしゃった。


「グリムワルド伯爵様?」


 どうなさったのかと、声を上げた私に、ハッと瞳を見開いて手を離す。大きくてゴツゴツとした手が、私の手から離れて行った。


「いや、では、またな」


 伯爵の立ち去る後ろ姿に、いつもつけてらっしゃる香水の香りが切なく残って、私は後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。


 ああ、私ってば、なんて欲張りさんなのかしら。


 もっと、お話したい。もっと、見つめてほしい。もっと、もっと……


 そこで、自分の浅ましさに息をのんだ。恥ずかしい。何のために今ここにいるのか。学ぶ事がたくさんある筈だし、もしも聖女と認められたらきっと忙しくなる筈なのに。遊びにきたんじゃないのよ。


 そう自分に言い聞かせながらも、欲張りなこの手は、先程の温もりを何度も思い返していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 降って湧いたような幸せには不安になるし、これ以上求めてはいけないという気にもなりますよね。
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