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四章 5 『・・・恥』


 今日は天気も良いので人通りも賑やかだ。老若男女問わずたくさんの人々が行き交っている。その中に進藤達の姿もあった。


 「見て見て!アイリスちゃん!これ可愛いと思わない?」

 「本当だ!すっごい可愛い!」


 露店に並べられた雑貨をセシリアとアイリスが楽しそうに眺めている。最初は緊張していたアイリスだったがどうやらセシリアと打ち解けてくれたらしい。今ではまるで本当の姉妹のように見える。


 「進藤さん・・・改めてお礼を言わさせてください。今のセシリアお嬢様のあの笑顔があるのもあなたのおかげです」


 雑貨を楽しそうに眺めているセシリア達を少し後ろで見ていたルイズが横にいた進藤に言った。


 「俺は大したことはしてないよ。上手くいったのはリチャードさん達の支えがあったおかげだし、セシリアを危険な目に合わせちゃったしな・・・でも、あんな風にまた元気な姿を見られて良かったと思うのはルイズと同じ気持ちだよ」

 「あれ以来セシリアお嬢様は笑顔が増えました。今のお嬢様は毎日を充実して過ごしておられるみたいです。それも全部あなたに出会えたおかげです。進藤さん、本当にありがとうございます」

 「そ、そんな言われ方するとこっちが恐縮しちゃうって!でも・・・まあ、楽しそうに過ごしているのなら安心したよ。セシリアもそうだしルイズも元気になってくれて良かったよ」

 「わ、私ですか・・・!?」


 意表を突かれたようにルイズが驚く。


 「え?うん。だってセシリアの屋敷で見た時は――」

 「や、やめてください!あの時の私を思い出さないでください・・・!あの時の私はボロボロでとても人様に見せられる状態ではなかったのですから!」


 進藤の言葉を遮るように口を慌てて両手で押さえるルイズ。顔を真っ赤にしている。どうやら屋敷に捕らわれていた時の話はタブーのようだ。進藤はもうこの話はしないと口を押えられた状態で縦に頷く。


 「ルイズ・・・?何してるの?」

 「い、いえ!これは何でもありません!」


 セシリアに声をかけられて慌ててルイズが進藤の口から手を離した。 


 「何やってんだか・・・それよりもちょっとこっちに来て!」


 セシリアがルイズの露店の方に腕を引っ張って行った。


 「え!?セシリアお嬢様・・・!?」

 「はい!これ・・・!」

 「・・・え?」


 セシリアがルイズの紺色の髪に髪飾りを付けた。紺色の髪の中に赤い花が一輪咲いているようだ。


 「ほら!やっぱりよく似合う!一目見た時にルイズにピッタリだと思ったのよね!」

 「本当だ!ルイズさんよく似合ってるよ!」

 「これは一体なんなのでしょうか・・・?」


 髪飾りを付けたルイズを見てご満悦の様子のセシリア達。ルイズは状況がよく呑み込めていないようだった。


 「何って、私からのプレゼントよ。ルイズったらお洒落したら可愛いのにいつもメイド服だしこういう小物あんまり持ってないでしょ?だから有難く受け取りなさいよ」

 「セシリアお嬢様・・・」

 「良かったねルイズさんっ!私の髪飾りと似てるねっ!」

 

 アイリスが進藤に買ってもらった髪飾りを嬉しそうに見せた。


 「本当ね!アイリスとルイズでおそろいの髪飾りつけてるみたいよ!二人とも同い年みたいだしお似合いよ!」

 「良かったなルイズ。セシリア達の言うとおり似合ってるよ!」

 「・・・ありがとうございます。大事にします」


 ルイズは少し気恥ずかしそうに髪飾りに触れた。


 「フフフ・・・それじゃあ健一に私に似合いそうな物を選んでもらおうかしら?」

 「俺が!?俺が選ぶのか!?」

 「何そんなに驚いてるのよ?せっかく一緒に来てるんだし記念に何か選んでよ」

 「選んでって言われてもなぁ・・・俺そういうセンスに自信ないんだが。セシリアの欲しい物は何かないのか!?」

 「やだ♪教えなーい!健一に選んでもらったものが欲しいのよっ!」


 セシリアが小悪魔っぽく舌を出す。


 これは難題だ・・・女性への贈り物を選んだ経験など皆無だ。進藤は露店に並べられた雑貨を隅々まで吟味する。


 「ムムム・・・・」

 「アハハ、進藤お兄ちゃん頑張れー!」


 無邪気なアイリスの声援。しかし進藤の耳には届いていない。今は全力でセシリアへの贈り物を選ぶのに思考回路をフル回転させている。


 露店に並べられた小物の数は半端ではない。この中からたった一つ選ぶとなると・・・ダメだ!決めきれない!変なのを選んでガッカリされたらどうしようと思ってしまう。


 「ちょっと健一・・・?大丈夫?」


 考え込んでしまって無言の進藤をセシリアが心配している。


 落ち着け・・・よく考えろ、大丈夫だ。そうそう変な物でなければ嫌な顔もされないだろう。そうだな、あのイヤリングなんて良いじゃないだろうか?なんかキラキラしてるし、デザインも無難な感じだろう。良し決めた!アレだ! 


 進藤は並べられた雑貨の中から耳に付けるイヤリングを選択した。それを手に取ろうと手を伸ばす。


 「決めた!これだ!」

 「おっと兄ちゃんごめんよっ・・・!」

  

 進藤が手を伸ばすと同時に他の客である中年の男が進藤にぶつかって来た。ぶつかられた拍子に進藤の伸ばした手が思ったところと別の所に伸びた。

 

 「イテッ・・・!」

 

 進藤の手には何かを握っている感覚があった。しかしどうやらイヤリングではない。何か柔らかい布生地のようなものを握っているようだ。


 「あら?決まったの!?一体何を選んでくれたのか・・・し・・・ら」

 「・・・」

 「・・・」


 一同に何故か言葉を選びかねているようだった。


 「え?これは一体なんだ・・・?」


 手に取ったものを改めて確認する進藤。触り心地はかなり良い。これはなんだろう?伸縮性はあるみたいだ。両手で左右に伸ばしてみる。なんだか生地は透けているようだ。


 「よっ!兄ちゃんやるねぇ!それはまさに男を一瞬で悩殺する女物の下着だよ!それを選ぶとはアンタも物好きだねぇ!」

 

 店のおばちゃんの声が響き渡る。


 今なんて・・・?女物の下着?これが?っていうかなんでそんなもんがあるんだよ!


 「・・・はい?」

 「健一・・・確かに選んでって言ったけど、さすがに私それを身に着けるのは抵抗が・・・」


 恥ずかしそうにセシリアが言う。ここで状況を理解する進藤。


 「ち、違う!これは違うんだ!これは誤解だ!これは間違って取ってしまったんだ!」

 「進藤さん・・・そういう趣味をお持ちだったとは・・・」

 「進藤お兄ちゃん・・・アイリス恥ずかしいよ」 


 やめて!そんな憐れむような目で俺を見るのはやめてくれ!


 「だから違うんだって・・・!俺が選ぼうとしたのはこっち!このイヤリングだよ!ってあれ!?イヤリングは・・・!?」

 

 進藤は慌てて本来選ぶはずだったイヤリングを手に取ろうとした。しかしいくら探せど見つからない。まさか今のわずかな間に別の人間が買ってしまったのか?


 「い、いいのよ?健一が選んでくれたのなら私はなんでも受け取るわよ・・・?それが良いのなら・・・」

 「だから違うってば!本当にこれは事故なんだよ!頼むから信じてくれぇー!!」


 進藤の切実な嘆きの声が王都に響き渡った・・・ような気がした。 

   

 


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