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四章 1 『女心と乙女心』


 セシリアとガウェンの婚約騒動から一週間ほどが過ぎた。騒動から数日はずっと進藤はバタバタと忙しい日々を送っていた。作戦の為に消した大聖堂の復元やガウェンを捕えるための防音室の作成など王都で後始末に追われていた。


 しかしそれも一段落してようやくアイリス達の待つ家に帰ることが出来た。帰って来たのは何時ぶりだろうか・・・ずいぶんと懐かしい気がする。何も言わずに長いこと留守にしていたのにアイリス達は怒ることもなく「おかえり」の一言で進藤を迎えてくれた。


 この言葉が嬉しかった。やっと落ち着ける場所に返ってこれたのだと実感した。留守にしていた間を挽回するべく家事に精を出す進藤だった。


 「なんだかこうやって進藤お兄ちゃんと一緒にお手伝いするの久しぶりだね!」

 

 庭の草むしりをしていたアイリスが笑顔で言った。


 「そうだな。長いこと留守にしちゃっていたからな、だからその分精一杯働くぞ!」 

 「アハハ!進藤お兄ちゃん張り切りすぎだよ!」

 「アイリスにもたくさん迷惑かけたな。そうだ、サラスの方はどうだい?」

 「うん!ちゃんとお供え物持って言ってるよ!その度いっぱいお話してるの!なんだかお姉ちゃんが出来たみたいなの!」

 「そっか。どうやら随分仲良しになったみたいで良かったよ。俺も怒られないうちに行っとくか・・・」


 アイリスにサラスを紹介しておいて正解だった。こんなに長いことほったらかしにしていたら間違いなく水道の加護は消滅していただろう・・・ある意味水道料金を払うよりも手間のかかる。これでは何時止められるかビクビクしなきゃならない。


 「うん!それが良いよ!サラスお姉ちゃんも進藤お兄ちゃんの事気にしてたみたいだもん!・・・あれ?お客さんかな?」

 「ん?本当だ。誰だろ・・・?」


 見るとアイリスの家の側に馬車が一台止まっていた。馬車の扉が開き中から人影が二人出てきた。


 「あっ!進藤さん!」

 「っ!?セシリアさん!?それとルイズさんも・・・!?」

 「進藤お兄ちゃんの知り合いなの・・・?」

 

 馬車から出てきたのはセシリアとルイズの二人だった。出会った時と同じようなピンクの服とルイズはお馴染みのメイド服で進藤の姿を確認して小走りでセシリアが駆け寄って来た。


 「お嬢様、走ると危ないですよ・・・!」

 「これくらい大丈夫よ!さあルイズも急いで!」

 「あ!ちょっと・・・」


 セシリアがルイズの手を引っ張って走っている。二人とも相変わらずの様子だった。どうやらすっかり元気になっているようだった。


 「おひさしぶりね!」

 「どうしてここに・・・?」

 「ここにあなたが住んでるってリチャードさんに聞いて遊びに来たの!突然来ちゃって迷惑だったかしら・・・?」

 「い、いや!迷惑だなんてことは無いですよ!ただ突然のことで驚いちゃって・・・」

 「だから事前にご連絡した方が良いと言ったんですよセシリアお嬢様・・・」

 「えー?それじゃあビックリさせられないじゃない!驚かせたかったんですもん!」

 「進藤お兄ちゃん・・・この人達は?」


 突然現れたセシリア達に驚いたアイリスが進藤の袖を引っ張って聞いた。


 「あ、そうだった。アイリスは初めてだったかな。この二人はセシリアさんとルイズさんだ。二人ともちょっと王都で知り合ってね」

 「王都で・・・?」

 「あら?可愛い子ね!もしかしてあなたの妹さん・・・!?それにしてはあんまり似てないような?」

 「この子はアイリスって言うんだ。俺はここに居候として住まわせてもらってるんだ」

 「アイリスちゃんね!私セシリアって言うの!こっちがルイズよ!宜しくね!」


 セシリアがアイリスの目線に合わせてかがんで笑顔を見せた。ルイズはセシリアの後ろで頭を下げていた。


 「あ、はい!アイリスです・・・!よ、よろしくお願いします!」

 

 どうやら緊張している様子のアイリス。進藤の後ろからひょこっと顔を出して答えた。


 「ハハハ・・・それでセシリアさん達は本当に遊びに来ただけなんですか?」

 「うん!そうよ!やっと落ち着いてきたから王都の外にも出られるようになったし!まだちゃんとお礼も言ってなかったしね!」

 「そんなお礼だなんて。別にいいのに・・・セシリアさん達が気にする――っ!?」


 進藤の口にセシリアが人差し指で触れて遮った。

 

 「もう、さん付けなんて他人行儀な呼び方しなくてもいいじゃない?あの時は呼び捨てで呼んでくれたじゃない?」


 悪戯っぽく笑って見せるセシリア。どうやらガウェンに操られていた時の記憶はあるらしい。たしかに大聖堂に入る時呼び捨てにしたような気がする。


 「あ、あれは!その勢いで!その・・・!」


 慌てて弁明する進藤。


 「ウフフ、わかってるわよ。でもやっぱりセシリアって呼んでほしいわ。ね?呼んでみてくれない?」

 「はぁ・・・それじゃあ・・・セ、セシリア?」

 「はいっ!なにかしら?・・・なんてね!」


 満面の笑顔で答えるセシリア。女の人を呼び捨てで呼ぶなんてあまり慣れていないのでなんだかむず痒い感じだ。


 「ちょ、ちょっとルイズさん!セシリアが何だか意地悪なんですが・・・!」


 後ろで立っているルイズに助けを求めた。


 「・・・ルイズ」

 「はい・・・?」

 「私の事もルイズとお呼びください・・・でなければ返事は出来かねます」

 

 そう言ってそっぽ向くルイズ。


 「えー・・・どういうこと?」


 なぜかルイズもセシリアと同じようなことを言い出した。何だこの状況・・・?


 「えっと・・・その・・・ルイズ・・・?」

 「はい。なんでしょうか?」

 「いえ・・・なんでもありません・・・ハハハ」

 「あらあら、ルイズも同じみたいね!それじゃあ進藤さん・・・じゃない。私達にもあなたのお名前教えてもらえるかしら?それとも進藤ってフルネームなのかしら?」

 「え?あ、俺の名前は進藤 健一(ケンイチ)っていうんだ。だから名前は健一だ」


 今更ながらの自己紹介である。


 「そう!健一ね!それじゃあ私も健一って呼ぶわ!良いわよね!?」

 「う、うん。それは別に良いけど・・・」

 「ルイズも同じよね!?」

 「いえ・・・私はこれまで通り進藤さんとお呼びします」

 「あら?そう?もうルイズったら恥ずかしがり屋さんね・・・私だって恥ずかしいのに・・・」

 

 小さく呟くセシリア。


 「どうしたんですか?セシリア?」 

 「え!?いえ!な、何でもないわ!あ!そういえばお土産にお菓子を買って来たのよ!良かったらみんなで食べて!」

 

 そう言って紙袋に入ったお菓子を取り出した。気のせいかセシリアの顔が少し赤い。


 「そ、そっか・・・良かったなアイリス。お土産だってさ!」

 「・・・進藤お兄ちゃん。王都でいつの間にこんなに綺麗な人達と知り合ったの?」

 「あれ?なんかアイリス怒ってる・・・?」

 「しーらない。私、お母さんたちと一緒にお茶の用意してくるね・・・!」


 そう言ってアイリスはそそくさと家の中に走って行った。


 「アイリス・・・?一体どうしたんだ?」

 

 訳の分からない進藤は呆然としていた。


 「あらあら、もしかしてアイリスちゃんを怒らせちゃったかしら?」

 「セシリアお嬢様・・・どうやら簡単には行かないようですね」

 「そうね。これは手ごわそうな感じだわ・・・!」

 「ん?二人とも何をぶつぶつ言ってるんですか・・・?」

 「こっちの話よ!」

 「こちらの話です!」

 「そ、そうですか・・・」


 シンクロして言われそれ以上は何も聞けなかった。


 やっと訪れた平穏の日々もそう長くは続きそうも・・・ないかも?

 

 


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