三章 21 『新しい戦いの予感・・・?』
足元にあった建物が消失したおかげで空中に投げ出された進藤達。あとは重力に引っ張られて落ちるだけだ。
「うわぁああ!!」
この状況にはガウェンも冷静ではいられない様子で叫んでいた。このまま落ちれば地面に叩きつけられ死ぬだけだ。
落ち着け・・・!何度も練習しただろ!ここで失敗したら死んじまう!
進藤は危険な賭けに出ていた。落ち行く中で冷静さを保ち迅速に脳内で作りたいものを想像する。このシミュレーションだけは何回もした。想像して、創造して・・・その繰り返しで出現スピードは破格の早さだった。
「ぐっ・・・!」
次の瞬間進藤の体は何かに引っ張られるように空中で止まった。その高さは地面まであと5メートルといった距離だった。進藤はしっかりセシリアを力強く抱いていた。
「・・・はぁ・・・良かった・・・なんとか成功したようだな」
この結果に安堵する進藤。見るとその近くでガウェンも同じように空中でぶら下がっており白目をむいてプラプラしていた。どうやら気を失っているようだ。
「フッ・・・さすがにあの高さから落ちたら普通は気を失うわな」
その様子を見て進藤は少し笑った。
「良し!ゆっくり降ろすぞ!!絶対に手順を間違うな!」
聞こえてくるリチャードの叫び声。見上げると大勢の人で進藤達をぶら下げているワイヤーを操作して進藤たちを地面に降ろす作業をしていた。進藤達の体がゆっくりと地面に近づいていく。
進藤が落下の最中に作り出したのは転落防止や墜落防止の為に工事現場で作られる安全帯というものだった。フルハーネス型の安全帯と呼ばれる装置を作り出して地面に直撃するのを阻止したのだった。
体に巻き付けられた帯のようなものでつり上げられている状態だ。それを建物同士の間を繋いだワイヤーに引っ掛けていた。
「・・・進藤さん」
「っ!?セシリアさん!?」
抱きしめていたセシリアが口を開いた。
「意識が戻ったんですか!?」
「ええ・・・どうやらあの男が気を失ったおかげで私も正気を取り戻せたようです」
「そっか!ガウェン自身が気を失っても催眠効果は切れたのか・・・」
だったらこんな危険な真似しなくてもぶん殴って気を失わせる手もあったな。これは盲点だった。
「進藤さん・・・私、なんてお礼を言ったらいいのか」
「へへ、良いんですよ、お礼なんて。俺は自分のしたいように行動したんだからさ。それより怖い思いをさせてすいませんでした。操られている状態の時でも起こったことは覚えているんですよね?」
「ええ。でも・・・怖くなんてありませんでしたよ!私は進藤さんを信じていましたからね!」
セシリアは笑顔で答えた。明るい笑顔だ。まるで子供が絶叫マシンを楽しんだ後のような笑顔を見せる。
良かったいつものセシリアだ。
進藤はセシリアの笑顔を見て胸を撫で下ろした。
「ハハ、そっか!それは良かったよ!」
「ええ・・・全部覚えていますよ。絶対に忘れたりしません・・・」
セシリアは進藤に捕まっていた手をぎゅっと握って小さく呟いた。
「え?セシリアさん今なんて・・・?」
「フフフ、なんでもありませんよ!こんな体験が出来るなんて思っても見ませんでした!やっぱりあなたを一緒にいると楽しいですわ!」
「ハハ・・・俺はこんな一か八かの怖い思いはもうしたくありませんけどね」
「あら、それは残念ですね♪」
悪戯っぽく笑うセシリア。
「勘弁してくださいよ・・・さあそろそろ地面に降りますよ」
進藤の足が地面に着いた。あらためて胸を撫で下ろす進藤。
「ふぅ・・・良かった。リチャードさん達のおかげで無事戻ってこれたや」
「進藤君!無事か!?」
「あ、リチャードさん!デミウスさんも!」
心配そうな顔でリチャード達が進藤の元に駆け寄って来た。
「大丈夫か!?どこも怪我はないかね!?」
「ええ。おかげさまで無事に降りられましたよ。皆さんのおかげです!」
「まったく・・・無茶をするよ。まさか本当に大聖堂をあの短期間で建て直していたとはな。君には驚かさせてばかりだな」
「まあ、建物の大きさは大きいですが造りは比較的シンプルですからね。慣れればそこまで難しいことではありませんでしたよ」
進藤はリチャードの屋敷を飛び出してからの数日をかけてこの大聖堂を進藤のギフトを使ってすべて建て直していた。そのおかげで自由に床を操作して牢を出現させたり壁に階段をつくったり、最終的に大聖堂の全てを消失させることが出来たのだった。進藤がガウェンを引き付けている間にリチャード達が大聖堂の中の人間の避難をしてもらっていた。
「でもまさかあの大きさの建物が一瞬で消えちゃうんなんて驚いたよ!ロマリス大聖堂が消えちゃったね!」
デミウスが驚いたように消えた大聖堂のほうを見上げていた。
「大丈夫だよ。またちゃんと建て直すからさ。今度は一度立ててるからね。もっと時間はかからずに出来るはずだよ」
「ホント規格外の人間だね君は・・・」
「しかし無事なら良かった!君のおかげでガウェンの悪事も明るみになった。これで奴の企みを阻止することが出来るよ!本当にありがとう!君のおかげだ!」
嬉しそうにリチャードが言った。
「それは良かったです。それでこれからガウェンはどうなるんですか?」
「そうだな。とりあえずは捕まるのは確実だろうな。しかしあの厄介な能力をどうにかしなければ脱獄も容易にされてしまう・・・どう対応するかはこれから考えなければな」
「それなんですが・・・俺に一つ良い考えがあるんですが」
「考え?」
「ええ。あの男は俺が特別に作る部屋の収容しましょう。完璧な防音室に閉じ込めておけばガウェンの声を聞くことなく対応できますよ」
「そうか!確かに君になら可能だな!わかった!すぐに準備をしよう!」
そう言ってリチャードは慌ただしく白目を向いて倒れているガウェンの方に走って行った。
「それじゃあ僕も父さんの手伝いがあるからさ行くね!それで進藤君さ、いつまでそうしてるつもりなんだい?」
デミウスが進藤にからかうように言い残して去って行った。。
「え?あっ!す、すいません!いつまでも降ろさなくて!」
抱きかかえていたセシリアを慌てて地面に降ろした。
「あら・・・もっとして頂いても良かったのに」
「もうセシリアさん、からかうのはやめてくださいよ・・・」
「フフ、ごめんなさいね。でも進藤さん、改めて・・・私を助けてくれてありがとうございます。このご恩は一生忘れられません」
セシリアは進藤に対して頭を下げた。
「や、やめてください!そんなこと!さっきも言いましたが俺が勝手にやったことなんです・・・だからセシリアさんが気にすることじゃありませんよ」
「いいえ、それでも私が感謝しているのは事実です。もし進藤さんが助けてくれなかったらと思うと・・・」
セシリアの手が小さく震えていた。
「セシリアさん・・・」
「ですから!私に出来ることがあるのなら何でも言ってください!何か恩返しがしたいんです!」
「そんな恩返しだなんて・・・」
「ダメです!何でもいいから言ってください!じゃないと私・・・」
申し訳なさそうなセシリア。
「そうですね・・・そこまで言うなら今度また俺と一緒に王都に行きましょ!ルイズさんも一緒に三人で!」
「王都に・・・?」
「ええ。セシリアさんが無事に戻ってきたらまた三人で王都に行こうってルイズさんとも話したんですよ」
「ルイズと・・・?あの子がそんなことを・・・?」
「そうです。それに今回のこともルイズさんが俺の所に相談に来てくれたんですよ。だからお礼ならルイズさんに言ってあげてください」
「そうだったんですね。今回のことであの子にもたくさん心配かけてしまいましたわ・・・きっとまた怒られちゃうわね」
「・・・セシリア様!!」
聞こえてきたのはルイズの叫び声。
「え?ルイズ・・・?っ!?」
セシリアの胸元に飛び込むルイズ。
「セシリア様!ご無事だったんですね・・・!良かった!本当に良かった・・・!」
セシリアの胸で涙を流すルイズ。
「ル、ルイズ・・・?どうしたの?どうしてそんなにボロボロなの?一体何が・・・」
突然のことに戸惑っている様子のセシリア。
「私のことはどうでも良いんです!!本当に無事で良かった!わぁあああん!!」
「あらあらこの子ったら・・・子供みたいに泣いちゃって。でも心配させちゃってごめんなさいね。もう大丈夫だから、ね?だから泣かないで・・・」
セシリアが優しくルイズの頭を撫でた。
「・・・ヒック・・・グス・・・な、泣いてなんかいません・・・!」
「フフ・・・それでこそルイズだわ」
微笑むセシリア。ルイズの姿を見てセシリアも嬉しそうだった。
「・・・グス・・・進藤さん。セシリア様を助けてくれて、本当に・・・ありがとうございます」
目を真っ赤にしているルイズ。
「まぁ・・・その、約束したしな。でも二人とも無事で本当に良かったよ!」
「ええ、全部あなたのおかげです。どんな言葉でこの気持ちを伝えればいいか・・・」
「気にしないで良いって!それよりもさ!さっきもセシリアさんに言ったけど、また三人で王都に遊びに行こうな!」
「そうですね、約束でしたもんね。必ずまた行きましょう・・・!」
笑顔を見せたルイズ。
「そうだな・・・あれ?なんだか安心したら急に眠気が・・・あ・・・!」
「進藤さん!?」
ふらつき倒れる進藤を慌てて受け止めるセシリアとルイズ。見ると進藤は寝息を立てていた。
どうやらこれまで無理が限界を迎えたようだ。なにしろほぼ一週間寝ずに作業を続けて今日を迎えたのだ。無事なセシリアとルイズの姿を見たら気が抜けてしまった。
「あら・・・眠っているみたいね。良かったわ。きっと私たちの為に精一杯動いてくれていたのね」
「そうですね。全部進藤さんのおかげでです」
寝息を立てている進藤の顔を覗き込んで微笑む二人。
「ルイズ・・・私、本当に進藤さんに出会えて良かったわ」
「そうですね。進藤さんがいてくれたおかげですもんね」
「ええ・・・どうしようルイズ。私・・・進藤さんのことが・・・」
顔を赤らめているセシリア。
「セシリア様・・・まさか・・・進藤さんのことを」
「わからないの・・・でもずっと胸の鼓動が早くて・・・こんなこと初めてで・・・!」
「セシリア様・・・私はセシリア様のことを応援していますよ!きっとお嬢様の判断は正しいです」
「ルイズ・・・あなたは本当にそれでいいの?」
「っ!?セ、セシリア様!?一体それはどういう・・・!?」
セシリアに聞かれルイズも顔を赤らめて慌てた。
「私とルイズの付き合いがどれだけのもとと思っているの?あなたの気持ちに気づかないほど鈍感じゃなくってよ?」
「そ、そんな!私はただお嬢様に幸せになってほしいだけなんです・・・それだけです・・・」
赤らめた顔を逸らすルイズの頭を撫でるセシリア。
「ルイズ・・・私はルイズと一緒に幸せになりたいのよ。私一人だけの幸せなんていらない・・・あなたと一緒にこれから先も嬉しいことも悲しいことも一緒に全部過ごしていきたいの。」
「セシリア様・・・」
「だからこれからも私の隣にいてね。そして正直な気持ちで私と付き合っていってね?あなたは私にとって一番の大切な友人なんだから」
「ええ・・・!わかっていますよ。だいたい私がいないとお嬢様は何も出来ないじゃありませんか。これからもしっかり面倒見てあげますからね!覚悟してくださいね?」
「フフ・・・それでこそルイズよ」
見つめあって笑いあうセシリアとルイズ。
「私、自分のギフトの本当の力を知ったの。でもその力は使わないわ!自分の運命は自分で切り開いていかないとね?だからこの想いも自分の力で叶えて見せるわ。だから私とあなたは対等な条件よ?」
「セシリアお嬢様・・・良いんですか?そんなこと言って?後悔しても知りませんよ?」
「大丈夫よ。自分の思うようにやっての結果なら後悔しないわ。私は後悔しない生き方をしたいのよ!」
「そうですか・・・やっぱりあなたに仕えていて良かったです。でもそれとこれは別ですからね?私も遠慮しませんよ?」
「フフ、望む所よ!・・・それにしても本当に気持ちよさそうに寝てるわね」
「そうですね、人の気も知らずに嬉しそうな寝顔ですね」
「もうっ、あなたのせいでこうなったんだぞ?責任とってよね?」
セシリアはそう言って笑いながら寝息を立てている進藤の鼻先を軽く突いた。
「・・・むにゃ・・・むにゃ・・・腹減ったな・・・」
傍でどんな話をしているかも知らずに呑気な寝言を言っている進藤だった。
こうして無事に進藤はセシリアの婚約を阻止することが出来たのであった。




