三章 20 『決死』
「はぁ・・・はぁ・・・もう少しだっ!」
セシリアを抱きかかえて息を切らしながら大聖堂の中を駆け上がっていく進藤。
「馬鹿な奴だ!自分から逃げ場のない場所に行くとはな!その先は行き止まりだ!」
下からガウェンが迫ってきていた。
「今のうちに言ってろよ・・・!」
進藤は階段を上った先にある壁の扉を開けて外に出た。そこは大聖堂の最も高い場所に位置する展望所のような場所だった。かなりの高さで下を見ると人の姿が小さくしか見えず顔が認識できないほどだった。
「やっぱり結構な高さだな・・・」
高さを確認する進藤。
「悪いなセシリアさん・・・もう少し俺の無茶に付き合ってくれよ」
抱きかかえたセシリアに向けて呟く進藤。セシリアの反応はない。
「フン・・・どうやらもう追いかけっこは終わりのようだな。もはや逃げ場はないぞ!」
「やっと追い付いてきたか・・・貴族育ちにしてはなかなか体力あるじゃないか」
「どこまでも生意気な口を・・・!さあ覚悟はいいか?お前のような立場をわきまえない人間が私は大嫌いなんだよ!」
「そうかい・・・気が合うな?俺もお前のようななんでもかんでも自分の思い通りになるって勘違いしてるやつが嫌いなんだよ!」
「このぉ・・・!」
進藤の挑発的な言葉に怒りをあらわにするガウェン。
「答えろガウェン。お前がシルヴェーヌ家と・・・セシリアと結婚しようとした目的はなんだ!?」
「今更なんだ?そんなものをお前が聞いてどうする?」
「良いから答えろよ・・・!」
「ふん・・・まあいいだろう。これからお前は一生操り人形として過ごすのだからな、せめてもの慈悲だ。教えておいてやろう」
ガウェンは余裕の表情を見せて勝ち誇ったように言った。
「そりゃあ、ありがたいね・・・」
「私の目的はシルヴェーヌ家の・・・その女が所持するギフトだ!」
「セシリアのギフト・・・?」
「そうだ!その女の持つギフトの力は運命すらも操る力なのだ!」
「運命を操るだと・・・!?」
「ふん・・・お前らのような下等な存在は知らないだろうな。実際その女も自身のギフトの力を『幸福の香り』なんてものと勘違いしていたしな。本来シルヴェーヌ家に代々伝わるギフトは『運命調律』と呼ばれるものだ!このギフトの本来の力は全ての運命の結果を自分に都合よく改変できるというモノなのだよ!」
ガウェンが高らかに言った。
「そんな力が・・・!そうか、だからシルヴェーヌ家と結ばれた一族は滅ぶことのない富と名声を得るなんて話が言い伝えられていたのか」
「しかし、このギフトはその強力さゆえに満足に力を発揮できない人間もいた。だがそのセシリアは違う!その女こそギフトの力を完全に発揮できる存在なのだよ!」
「だからセシリアと結婚して自分の思うとおりにギフトを使うつもりだったのか・・・!?」
「ああ、そうだよ。でなければ私がこんな女と結婚などするか!すべては私の為だ!いいか?私がその女の力を操ればなこの世の全ての人間を平伏せさせることが出来るのだ!所詮私以外の人間は、私の踏み台としての存在価値しかないのだよ!わかったか!?」
「本当すがすがしいほどのクソ野郎だなお前・・・それがお前の、リーリッヒ家当主ガウェンとしての考えなんだな?」
「ふん・・・今更なんだ。その通りだ!このガウェンこそがこの世界を統べるにふさわしい人間なのだよ!」
悦に入ったようにガウェンは言った。まさに自分に心酔しているようだ。
「さて・・・もういいだろう。これ以上のおしゃべりは無駄だ。私も忙しい身でね、ここでお前を始末してすぐにでも婚約の儀を再開しなければならないのだよ」
「ああ・・・そうだな。十分すぎるほどの証拠はそろったよ!お前が自分のくだらない欲望の為だけの結婚をしようとしてるって証拠がな!」
「なんだと・・・?」
「悪いけど、お前の今の言葉は俺以外の人間・・・この大聖堂の周りにいる全ての人間が聞いてたんだよ!その拡声器を通じてな!」
そういって進藤は傍に仕込ませてあったマイクを見せる。
「拡声器だと・・・?」なんだそれは?」
「まあお前は知らないだろうな!これはそのマイクで拾った声を別の場所にも聞かせられる便利な物なんだよ!」
「馬鹿な!そんなことが出来るわけがない!」
「別に信じなくても良いけどよ。俺がここにお前をおびき出したのはこれの前でお前の本心を語らせるためだったんだよ!これでもう俺がお前の婚約の儀を阻止する大義名分が揃ったぜ!」
「ふん・・・だから何だというのだ!仮にお前の話が本当だろうと関係ないんだよ!私に反旗を翻す人間は一人残らず私のギフトで操ればいいだけの話だ!」
ガウェンは進藤の言葉にも動じることは無かった。
「いいかガウェン。これは最終通告だ!今すぐにセシリアの催眠を解け!そして二度とその力を悪用しないと誓え!」
「ふざけるな!お前が私に命令できる立場だと思っているのか!私に命令できる人間などいない!存在しないのだ!」
「はぁ・・・まあ無駄とは思っていたがな。いいか?お前は今から死ぬほど怖い思いをすることになるぞ?」
ため息をつきながらも進藤はガウェンを睨みつけ言い放った。その目に躊躇いの様子はない。
「もういい!全てを終わらせる!なんだお前は!?その女を救って英雄にでもなるつもりか!?」
「英雄だと?そんな大そうなものになるつもりはねえよ!俺はなお前のような奴のせいで悲しむ人が!辛い思いをしている人がいるのが許せねーんだよ!」
「詭弁を・・・!所詮すべての人間は自分の欲の為に生きる人間なのだよ!」
「俺は英雄になんかならなくてもいい・・・!ただ目の前で、困っている人に手を差し伸べられる人間になれれば良いんだ!俺はこの世界でそれの有難さを身をもって知ったんだ!お前のように自分勝手な人ばっかりじゃないんだよ!」
「黙れぇ!!」
激昂するガウェン。進藤の方に近づいてきた。
「そうか・・・なら俺も覚悟決めるよ。セシリアさん、今から少し怖い思いをするけど・・・俺のことを信じてくれ!」
抱きかかえているセシリアに語りかける進藤。
表情は虚ろなセシリア。しかし進藤の言葉を理解したのかセシリアはコクっと小さく頷いた。
「セシリアさん・・・!」
「馬鹿な!私のギフトの力の下で他の人間の言うことを聞くだと!?」
これにはガウェンも驚いた様子だった。
「見たかガウェン!誰もがお前の思い通りに操られるような人ばっかりじゃないんだよ!」
「くッ・・・!そんなのは再び押さえつければ良いだけだ!私に歯向かう人間は一人残らず粛清してやる!」
ガウェンが進藤に襲い掛かろうしてきた。
進藤はセシリアを力強く抱きしめてゆっくりと後ろに倒れながら叫んだ。
「行くぞ!!あとは・・・任せたよ!!」
次の瞬間、進藤たちの立っていた大聖堂はその姿の全てを跡形もなく綺麗に消した。
セシリアを抱いた進藤とガウェンは宙に投げ出されていた。




