三章 19 『走れ』
突然現れた進藤の姿を見て大聖堂の中がざわつき始める。
「おや?これはまた・・・確かに君に招待状は出したが、少しばかりマナーがなってないんじゃないかな?一体これはどういうつもりなんだい?」
ガウェンは取り乱す様子もなく言った。
「別にお前からの招待状なんて関係ねーよ。こちとらとっくに怒りのボルテージは振り切ってんだよ。その余裕こいた顔が出来るのも今の内だぞ?」
「フッ・・・ずいぶん物騒な物言いだね?私たちの式を邪魔してタダで済むと思っているのかね?」
「その言葉そのまま返してやるよ・・・ここまでの事しといてタダで済まさねーからな!セシリアは返してもらう!」
余裕な様子のガウェンに一歩も怯まない様子の進藤。
「返してもらう・・・?まるで私が奪いとったとでも言わんばかりの言い方だな」
「ああ、その通りだよ。お前はセシリアをルイズから・・・セシリアのことを大事に思っている人間から奪い取ったんだ!俺は約束したんだ!必ずお前からセシリアを連れて帰るってな!」
「フッ・・・もういい。君の戯言に付き合う時間はないんだ。さあ、この無礼な男をさっさと取り押さえろ!」
呆れた様子のガウェンが指示を出す。その瞬間に大聖堂の外から武装した騎士達が進藤を取り押さえようとなだれ込んできた。来賓客たちは慌てて席から逃げ出していった。
「君の話はあとで牢獄の中で続けると良いよ・・・壁にでも向かって一人でね!」
「フン・・・悪いけど何の準備もなしに来るほどこっちも間抜けじゃねーんだよ!ほらよ!」
進藤がそう叫んだ瞬間、騎士達を囲むように地面が隆起して鉄格子の牢が出来上がり騎士たちの身動きを封じてしまった。
「なんだ・・・これは!?」
これにはさすがのガウェンも驚きを隠せない様子だった。
「どうだ!この大聖堂はもう俺の自由に出来るんだよ!」
「ここを自由にだと?何を妄言を・・・!神父!連れて今すぐここを離れるんだ!これは命令だ!!」
「・・・承知しました」
ガウェンの言葉を聞いた神父が生気を失ったような表情になりセシリアを連れて部屋を後にした。
「また能力を使って操りやがったな・・・!」
「所詮下民の戯言だと思って多めに見ていたが、もう容赦はしない!お前には私に楯突いたことを死ぬほど後悔させてやる!」
さっきまでの好青年を演じていたガウェンの姿はもうない。激昂して叫んでいた。
「やっと本性現したか・・・それでこそぶっ飛ばし甲斐があるってもんだよ!」
「ぬかせっ!さあ!お前も私の言いなりにしてやろう!今スグに私に平伏――」
「おっと、その言葉を聞くつもりはねーんだよ!オラ!」
ガウェンが言葉を言い切る前に進藤とガウェンの間に二人を遮るように強大な石の壁が出現した。完全に部屋の中を分断してしまっている。
「なんだと・・・!?」
目の前に現れた壁を見上げ驚くガウェン。そしてすぐに進藤の作り出した石の壁はその姿を消した。
「ふぅ・・・やっぱりお前のその力、どうやら相手を完全に操るにはその言葉をすべて聞かせないと効果が無いようだな?」
「なんだお前のその力は・・・!?まさかギフトなのか!?こんなギフト聞いたこともないぞ!?」
「本当はこんな使い方するための力じゃないんだけどな・・・!」
「何を訳の分からないことを・・・!まあいい、だったらお前が私の言葉をすべて聞くまで何度でも繰り返すまでだ!」
「それはどうかな?やれるもんならやって見ろよ・・・!」
そう言って進藤は身を翻し部屋から飛び出した。
「くっ・・・!逃げるつもりか!?」
「なんでもかんでもお前の思い通りになると思うなよ?悔しかったら追いかけてこいよ」
「馬鹿が・・・!私をなめるなよ!」
ガウェンも進藤を追いかけ部屋を出た。
「どこに行った!?」
「こっちだよ!間抜け!」
見るとそこには壁沿いに出来た階段を駆け上る進藤の姿があった。
「なんだこの階段は!?こんなものさっきまでは無かったぞ・・・!?」
突然現れた階段に戸惑いながらもガウェンも進藤の上った階段を追いかけ始めた。
「よし・・・とりあえずは作戦通りだ。あとはセシリアを見つけないとな」
そう言いながら進藤は胸元から黒い小さなあるものを取り出した。
小さな黒いものはトランシーバーだった。同じものをリチャード達にも渡していた。横にあるスイッチを押して話しだす進藤。
「まずは第一作戦成功です、今からセシリアを探してガウェンと共に約束の場所に向かいます!」
「・・・ザー・・・ザー・・・」
向こうからの返事はない。進藤の作り出した機械は進藤以外には操作できない・・・だからトランシーバーの発信は進藤側からしか行えない。それでも進藤は向こうが聞いているということを信じて行動するしかなかった。
ある程度階段を上った先で再び大聖堂の中に入る進藤。さっきのセシリアを連れて行った神父の姿を探す。
「さっきの神父の走った方向から察するに・・・行くとしたらこっちの方だな!」
ある理由によって建物の中の構造を熟知している進藤。考えられる行動を予測して神父の行きそうな場所を探した。
「・・・ヨシッ!完璧だぜ!」
見ると少し上の方の廊下を神父が花嫁姿のセシリアを連れて走っているのが見えた。進藤もそれを急ぎ追いかけた。
人間を一人を連れて逃げているのでそこまで速さはない。すぐに進藤も追い付くことが出来た。
「アンタに恨みはないけど、少しばかり強引な手段を取らせてもらうぜ!」
進藤は走っている神父を転がしてセシリアを取り返した。
「セシリアさん!俺です!進藤です!わかりますか!?」
「・・・・・・」
しかし返事はない。リチャードの時と同じように虚ろな表情をしている。
「やっぱりだめか!やっぱり強い衝撃を与えるしか・・・って俺がセシリアを殴るって言うのか?」
そこで進藤は考える。
俺がセシリアを目を覚ますために殴るのか!?こんな綺麗な顔したセシリアを!?あんなデミウスみたいに容赦なく!?
そんなの無理に決まっている!女の人の顔を殴るなんて進藤には到底出来なかった。
「・・・無理だ!ごめんセシリアさん!今は俺に着いてきてくれ!」
進藤はセシリアぼ手を握り強引に走ろうとした。しかしセシリアは思うように走れないようでこのままではガウェンにすぐに追いつかれてしまう。
「しょうがない・・・!これしか思いつかねーよ!ごめん!」
そう言って進藤はセシリアを抱きかかえた。それは完全なお姫様抱っこだ。両手でセシリアを抱きかかえた。
「そこかぁ!この愚民がぁ!!私の手を煩わせるなぁ!!」
ガウェンの叫び声が聞こえてくる。
「ちっ!追い付いてきやがったか・・・!もう少しだ!気合入れて走れよ!俺!」
気合を入れなおして進藤はセシリアを抱きかかえたまま大聖堂の上の方を目指して走った。




