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三章 18 『偽りの言葉』


 「・・・進藤君?その・・・大丈夫かい?」

 

 婚約の儀が行われる教会に向かう道中の馬車の中、進藤のただならぬ雰囲気を感じたリチャードが気を遣うように言った。


 「え?あぁ・・・そうですね。大丈夫とは言えませんが、自分でも驚くほど冷静ではいますよ・・・」

 「そ、そうか・・・」


 進藤はただ前だけを見つめて答えた。その表情は鬼気迫るものがあった。そんな進藤の様子にリチャードもどう声をかけたらいいのか戸惑っている様子だった。


 結果的にシルヴェーヌ家に突入したのは功を成した。もし今日屋敷に行かずに教会に直行していたら・・・


 考えたくもないことだ。もはや進藤の覚悟は揺るぎない。あのルイズの痛々しい姿を思い返すだけで震えるような怒りがこみ上げてくる。


 「リチャードさん・・・」

 「え?な、なんだい!?」

 「なんとしてもこの作戦成功させましょう・・・!失敗は絶対に許されませんから」

 「あ、ああ・・・そうだな。私達も全力で協力させてもらうよ」

  

 進藤はまるで自分に言い聞かせるように言った。


 そんな進藤たちを運び馬車は教会に急ぎ向かって走った。


 徐々に人の姿が増えていく。おそらくみんなセシリア達の式を一目見ようと集まって来た人達だろう。


 そしてついに馬車では身動きできないほどになってしまった。


 「くそっ・・・!なんて人の数だ!これではしょうがない、馬車を降りて走って教会に向かおう!」

 「そうですね。しかし、この人の数は逆にチャンスです。これだけの人がいれば俺たちの動きもカモフラージュしやすいです。それでリチャードさん、例のモノの使()()()()()()()()()()()()

 「ああ!もちろんだとも!皆も短時間ではあったがしっかり練習したからな!安心してくれ!」

 「そうですか・・・無理を言ってすいません。皆さんのことを信じていますよ。それでは行動を開始しましょう!」

 「ああ!行こう!」


 それから進藤たちはそれぞれ人ごみに紛れるようにして式の行われる教会にバラバラに向かった。


 野次馬をかき分けながら進む進藤。


 「待ってろよ!ガウェン!絶対にお前の思う通りにはさせないからな!」


 

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 壁には無数の輝かしいステンドグラス窓。聳え立つ建物の名前はロマリス大聖堂。ここでガウェンとセシリアの婚約の儀が行われようとしていた。中にはタキシードを着たガウェンの姿があった。長く伸びた赤い絨毯の上で神父姿の男の前で何かを待っているガウェン。


 「それでは花嫁であるセシリア・シルヴェーヌの入場を・・・!」


 神父の声で大聖堂の扉が開かれる。そこには真っ白いウエディングを来たセシリアの姿があった。


 姿を見せたセシリアの姿は差し込んで来る太陽の光を背に浴びて神々しさを感じる。ベールで顔を覆ってはいるがそれでもその姿の美しさにはため息を漏らす者もいるほどだった。


 「花嫁であるセシリア・・・夫となるガウェンの元へ」


 神父の言葉を聞いたセシリアは少しうつむき加減でゆっくりと、一歩ずつガウェンの方へ歩き出した。


 大聖堂の中はセシリアを迎え入れる来賓客の拍手が鳴り響いている。赤い絨毯の左右には観覧客の姿があった。皆が歩くセシリアの姿を眺めている。


 しかし歩くセシリアの視線は全くブレない。ただ前の一点だけを見つめている。その表情のどこにも幸せそうな感じはなかった。


 まもなくガウェンの側に着こうとした時、セシリアの歩く足が止まった。どうみても止まるには少し早い。


 「・・・セシリアさん?」 


 神父がすこし不安そうに話しかける。しかセシリアは反応を示さない。その場で固まったままだ。まるで何かに抵抗するように・・・これには来賓客も拍手をやめてどうしたものかとざわざわし始める。


 「おやおや、これは少し彼女も緊張しているようですね。さぁセシリア、僕の隣に来るんだ。()()()()()()()

 

 ガウェンがセシリアに向かって話しかけるとセシリアの足が再び歩き始める。


 そしてようやくセシリアはガウェンの横に並び立った。


 二人が並んで立ったのを確認して神父が言葉を発する。


 「ではこれよりリーリッヒ家当主ガウェンとシルヴェーヌ家の娘であるセシリアの婚約の儀を始めることをここに宣言する!」


 大聖堂の中が大きな拍手に包まれる。


 「では初めに夫となるガウェン、あなたは妻であるセシリアのことを一生愛し幸せにすることを誓いますか?」

 「ええ、誓います!」


 ガウェンはためらうことなく自信満々に答えた。


 「ふむ・・・では次に妻となるセシリア。あなたは夫となるガウェンのことを一生愛し幸せにすることを誓いますか?」

 「・・・・」


 セシリアの返事はない。虚ろな表情でただじっとうつむいている。


 「・・・どうしました?」

 「はは、やはり彼女は相当緊張しているようだね!さあセシリア、神父の言葉に返事をするんだ。誓いますと言えばいいだけだ・・・()()()()。さあ神父殿、もう大丈夫ですよ!もう一度同じ誓いを!」

 「そうですか。ではもう一度・・・セシリア。あなたはガウェンの妻となり一生愛することを誓いますか?」

 「・・・ち・・・ち・・・ちか・・・」


 セシリアはまるで何かに抵抗するように言葉を詰まらせた。


 「セシリア・・・!私を困らせるんじゃない!さあ誓いますと言うんだ!いいな!?」


 ガウェンもセシリアの様子に苛立っているようだった。言葉が強くなっていく。


 「さあ!言うんだ!誓いますと!」

 「ち・・・誓い・・・ま―」


 セシリアの瞳にはうっすらと涙のようなものがベールの奥に光っていた。


 バァーーン!


 その瞬間大聖堂の扉が勢いよく開いた。大聖堂の中の全員の視線が扉の方に向けられる。


 「その誓いを交わす必要はもう無いぜ!セシリア!!」


 進藤の叫び声が大聖堂の中に響き渡った。


 


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