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三章 15 『やられっぱなしは趣味じゃない』


 リチャードの屋敷に戻って来た進藤達。リチャードは到着するなり無言で馬車を降りとぼとぼと屋敷の中へと入って行った。それを進藤が慌てて追いかける。


 「リチャードさん!しっかりしてください!あんな奴に操られてる場合じゃないですよ!」

 「・・・どいてくれ」


 進藤の言葉にもリチャードは薄い反応しか示さない。虚ろな表情で力無く歩くだけだった。


 「リチャードさん!目を覚ましてください!」

 「私はただ日々を過ごすだけだ・・・」

 「リチャードさん!」

 「大きな声を出してどうしたんだい?進藤君?」

 

 リチャードの目を覚まそうと躍起になっている進藤の元にリチャードの息子のデミウスが現れた。進藤のただならぬ様子に少々驚いているようだ。


 「デミウスさん・・・!それが今リーリッヒ家の当主ガウェンにあって来たんですがガウェンのギフトの力のせいでリチャードさんが操られているみたいな状態になっているです!!」

 「なんだって・・・!?」

 「リチャードさん!しっかりしてください!」

 「何も興味はない・・・おとなしくしているだけだ」

 「あらら・・・これはまたなんて情けない顔してるんだか。クラウド家当主がこんな表情してるなんて知られたら情けなさで失神しちゃうレベルだよ」

 

 デミウスはリチャードの変わり果てた様子を見て呆れた様子で言った。


 「そんなこと言ってないで、デミウスさんも手伝ってください!どうすれば目を覚ますのかわからないんですよ!」

 「うーん、進藤君。ちょっと父さんから離れてくれるかな?」

 「え?あ・・・はい」

 

 デミウスから言われた通りリチャードの肩をゆすっていたのをやめて二歩ほど離れた。そこにデミウスがリチャードの前に立ちふさがった。


 「一体何をしてるんだか・・・あんたクラウド家当主だろ!?しっかりしなよ・・・!!」

 

 そう言ってデミウスはリチャードの右頬を思いっきり殴った。それはもう手加減無しの全力だ。殴られたリチャードは後ろの方で仰向けに大の字で倒れている。


 「ちょ・・・!デミウスさん!いきなり何を!?そんなこと・・・」

 「え?ああ、これでいいんだよ。父さんには何か間違ったことをした時は殴ってでも止めろって言われてるからね。ここで何もせずただ見過ごした方がきっと後から何十倍も怒られちゃうからね」


 そう言ったデミウスの表情は笑っていた。進藤は倒れたリチャードの元に駆け寄った。


 「大丈夫ですかリチャードさん!?」

 「・・・デミウス。よくやった」

 「リチャードさん!?意識が!?」


 倒れたリチャードは頬を晴らしてはいる者の目はさっきまでの虚ろな様子ではなかった。真っ直ぐ天井を見つめている。この目は進藤も知っているリチャードの目だった。


 「お?目覚めたみたいだね?息子に全力で殴られた気分はどうだい?」

 「ふっ・・・最悪で最高の気分だよ。よく俺の言いつけを守ったな。お前の判断は正しかったぞ」


 そう言いながらリチャードが起き上がった。


 「そっか。なら俺も少しはクラウド家の次期当主に近づいたのかな?」

 「さあな?ただまあ・・・今回の件は礼を言うぞ」

 「良いってことさ。俺は父さんの息子だからね、これくらい朝飯前だよ。またボケっとしてたらいつでも殴って目を覚ましてあげるよ。ヘヘ!」

 「フン、そう何度も殴られてたまるか・・・!」

 

 起き上がったリチャードは凛とした態度で言った。


 これが親子の信頼関係なのだろうか?父親の不甲斐ない姿を見て躊躇わず殴って目を覚ました息子。それに何一つ文句も言わない父親・・・きっとこの程度では揺るがない信頼関係を築いているのだろうと進藤は思った。


 「進藤君・・・君にも情けない姿を見せてしまったね」

 「いえ・・・それよりもさっきの出来事は覚えているんですか?」

 「ああ、胸糞悪い程覚えているよ。意識はあるのだが自分の思うように体が動かなくてね・・・いわゆる一種の催眠状態のようだったよ」

 「そうだったんですか・・・でも殴ったり強い衝撃を与えたら正気に戻るんですね!それなら大した力でもないんじゃないですか?」

 「いや・・・それは違うな。これは思った以上に厄介な能力だよ」


 リチャードは表情をしかめた。


 「おそらくガウェンも私の催眠が簡単に解かれることは計算の内だろうな。だから簡単に屋敷に返したんだ」

 「じゃあガウェンは一体どういうつもりで?」

 「私がこの力の厄介さに気づくと思っているんだろう。このガウェンのギフトがある限りなんど交渉に向かっても無意味だろうな。あんな言葉だけで人を操れるんだ、その気になればどんな大勢だって操れるかもしれん・・・そうなれば強制的な武力行使しかない、だが・・・」

 

 リチャードは言葉を詰まらせた。


 「もしもそんなことをすれば完全にこっちに非があるように周りには映るだろうな。ただの婚約の儀に反対するために武力行使なんて話聞いたこともない。それにあの男相手ではどんな裁判でも覆されるだろうな。あの力で人間を操れば良いだけなのだから」

 「そんな・・・!じゃあ一体どうすれば?」

 「あのガウェンの言葉を聞かないように・・・かつこちらの意見を伝えるようにしなければならない。もちろんただ伝えるだけでも駄目だ。あの男がこちらの要求を聞かざる得ない状況を作り出すしかない・・・」


 リチャードの示した条件。これをどうクリアすべきか進藤は考えた。残された日数も少ない・・・


 真っ向なやり方では到底敵いそうもない。


 「リチャードさん・・・今回のやり方俺に任せてもらっても良いですか?」

 「何か思いついたのかい?」

 「今はまだなんとも・・・でも必ずあのガウェンの思うようにはさせません!この式は絶対に成し遂げさせるわけには行かないんです!だから・・・!」

 「そうか・・・わかった。今回のやり方は君に任せよう。私も協力は惜しまないよ!」

 「もちろん俺も手伝うからね!だから俺のことも忘れないでね?」


 リチャードとデミウスが笑顔で言った。


 「はいっ・・・!その時は頼りにさせてもらいます!こっちだってやられっぱなしじゃ引き下がれませんからね。あのガウェンに目にもの見せてやりますよ!」 

 

 

 





 



 

 

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