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三章 14 『ガウェンという男』


 リーリッヒ家の屋敷に入り中で待っていた案内人らしき男に連れられてある部屋に通された。


 赤い絨毯が敷かれている部屋の壁には動物の頭部のはく製や不気味な絵画らが飾られていた。正直どれも良い趣味とは言えない代物だった。部屋の中に用意されていた横長いソファーに腰かけてガウェンの登場を待った。


 少しして部屋の扉が開いた。中に入ってきたのはまだ20代前半くらいの若い男だ。細身の体にきっちりと黒いスーツを着こなしている。顔も細く端整な顔立ちをしている。そこには以前セシリアと並んで写真に写っていた男の姿があった。


 「お待たせしてしまって申し訳ない。私がリーリッヒ家当主ガウェンです」


 柔らかい物言いでガウェンは入って来た。これも進藤にとってはまた意表を突かれた。前評判を聞く限りどんな悪党が出てくるかと思っていたが、実際出てきたのはまさに好青年の男だ。


 「いや、こちらこそ急に尋ねてきて申し訳ない。私はクラウド家当主リチャードだ。こっちは付き添いの進藤君だ」

 「ども・・・」


 リチャードもガウェンと同じように柔らかい物言いだった。進藤はとりあえず軽く会釈だけした。


 その瞬間、ガウェンの表情が一瞬だけ変わった気がした。まるで進藤のことを舐めまわすような鋭い視線を感じた。


 しかし気づいた時にはガウェンは再び柔らかい表情になっていた。


 ・・・今のは気のせいか?

 

 「これはこれは、王都の経済の中心を担っていると言われているクラウド家の当主様とお会いできるとは光栄です。本来は私の方からご挨拶に行かねばならない立場なのですが・・・」

 「いや、気にしないでくれ」

 「それで今日は一体どのようなご用件でしょうか・・・?」


 ガウェンはまるで心当たりがないといったような表情をしている。これにリチャードが軽く溜息を吐いて答えた。


 「ふぅ・・・回りくどいやり方は嫌いでね。単刀直入に聞かせてもらおう。今回の縁談について・・・一体何をした?」

 

 リチャードの鋭い視線がガウェンに向けられる。


 「何をした・・・ですか?これは参りましたね。私はただ情熱的かつ紳士的にセシリアさんに愛をお伝えしただけなのですが・・・」

 「ガウェン・・・私は世間話をしに来たわけではない。今回の縁談の話は不可解な部分が多い、それ以前にも君の不審な噂は私の耳に入ってきているのだよ。一体シルヴェーヌ家に何をしたのだ?」


 さっきとはうって変わってリチャードの声のトーンが重い。隣にいる進藤にも圧のようなものが伝わってくる。


 「これは困りましたねぇ、かの有名なクラウド家当主ともあろう方が噂程度の話を鵜呑みにされるとは。言いがかりの上にさらには私を呼び捨てにする始末・・・少々失礼が過ぎるのではないのでしょうかねぇ?」

 「私だって敬意を払うべき相手にはきちんとした態度を示すさ」

 「・・・私にはその価値がないと?」

 

 部屋の空気が一気に重くなる。


 「フッ・・・どうやら時間の無駄だったようですね。悪いがあなた達の相手をしている暇は無いのですよ。知っての通り私はもうすぐ婚約の儀を控えている身ですのでお引き取り願おう」

 「悪いがその頼みは聞けない。私が帰る時は君がシルヴェーヌ家との婚約破棄を表明した時だよ」

 「随分勝手な人ですねぇ・・・由緒正しきクラウド家の名が泣きますよ?」

 「この強引さはクラウド家の良さでもあるのだよ。守るべきものがある時に引くことは出来ないね・・・さぁ話してもらおうか!?一体シルヴェーヌ家にどんな手を使った!?」


 毅然とした態度でリチャードが言った。


 「やれやれ・・・あなた達とお話することは何もない。さあ帰ってもらおうか」

 

 ガウェンも呆れたように言った。


 「・・・せ、セシリアさんを一体どうするつもりなんだ!?」

 「ん・・・?」


 たまりかねた進藤が口を開いた。


 「・・・君は?一体セシリアの何だというんだ?」

 「俺は・・・セシリアさんの、と、友達です!」

 「そうか・・・セシリアの友人か。そんなに心配しなくてもいい、私は彼女を幸せにするつもりさ。友人ならば君は私達の式に招待してあげよう。」 


 そう言ってガウェンは胸元のポケットから四角い白い封を取り出して進藤に渡した。


 「これは招待状だ。是非私たちの式を祝ってほしいな?」

 「・・・こんなのいらない!!」


 ガウェンの差し出した招待状をはねのける進藤。


 「俺はこの結婚を祝う気はさらさらもない!というかさせる気すらないんだ!この婚約はたくさんの人を不幸にする!アンタにセシリアと結婚させるわけにはいかないんだ!」

 「フッ・・・まったく、呆れたものだ。どいつもこいつも・・・自分の立場をわきまえているのか?一体誰に向かって口をきいてるつもりなんだ・・・?」


 ガウェンの雰囲気が変わった、さっきまでの柔らかい物腰ではない。


 「どうやら本性が出たようだな・・・」

 「出来ることなら事を荒げるつもりは無かったですがね・・・まあ良い。もはや婚約の儀まであとわずか、今更お前たちが騒いだところでどうにかなることでもない」

 「やっぱりお前が何かして無理やり婚約の話を進めたんだな!?一体どういうつもりだ!?」

 「フン・・・私は私のやり方でやったまでに過ぎんよ。それを認めるかどうかはお前らのただの感性の問題だろう?お前らの価値観を私に押し付けるのはやめてもらいたいものだな」

 

 さっきまでの好青年はどこへやら・・・もはや完全な別人となってしまったガウェン。


 「ふざけるな!無理やり望んでもない結婚をさせるやり方が認められてたまるかよ!」

 「それが貴様の本性か?それを私達にさらけ出して一体どういうつもりだ?私に本当にこの式を邪魔できるほどの力がないと思っているのか?クラウド家も随分舐められたものだな?」

 「ええ、問題ありませんよ?なぜならあなたはこの屋敷を婚約についてなんの疑問も持たずに立ち去るのですから・・・」


 勝ち誇ったよに言い放つガウェン。


 「なんだと・・・?」

 「クラウド家当主リチャード・・・お前は私達の婚約に何の不満も持つな。疑問も持つな。ただおとなしく日々を過ごせ、これは命令だ」


 ガウェンがリチャードを鋭く睨みつけて言った。


 「何言ってんだお前・・・?そんなのリチャードさんが聞くわけ―」

 「・・・承知した」

 

 まさかの言葉がリチャードの口から出てきた。


 「え!?ちょ、ちょっと!!リチャードさん!どうしたんですか!?」

 「私たちは帰ろう・・・」


 リチャードはうつろな目でその場を後にしようとした。さっきまでとはまるで別人だ。ガウェンの言葉を聞いてから明らかにおかしい。


 「さあリチャードは理解してくれたようだよ。さあ君も一緒に帰るがいい」

 「お前・・・!リチャードさんに何をした!?」

 「さあ?私はただ少し命令しただけさ。君も見ていただろう?物分かりの良い人で助かったよ、ハハハ・・・!」

 「まさかこれがお前のギフトか・・・!?」

 「ほう?察しがいいな。そうだこれが私のギフトと呼ばれる力、『独裁交渉(エゴシエーション)』だ。すべての人間が私に逆らうことは出来ない!私の命令で動くのだ!」

 「そうか・・・!その力でシルヴェーヌ家の人たちも操ってるんだな!?」

 「そうさ!あの家の人間ももはや私の言いなりだよ!ククク・・・だがそれがお前にわかったところで何が出来る!?クラウド家当主もそのザマだ!お前になんの力があるという!?」


 下卑た笑みを見せるガウェン。


 「なんだと・・・!?」

 「お前にはこの力は使わないでおいてやろう・・・!婚約の儀まで己の無力さを噛みしめていると良い!セシリアに惚れているのか知らないが、私に歯向かったこと後悔させてやろう!」

 「お前どれだけクソ野郎なんだよ・・・!」

 「フン・・・!安心するがいい、あの女は私が存分に可愛がってやるよ!まあ私が欲しいのはシルヴェーヌ家の持つ特別な力だがな・・・飽きるまでは面倒見てやろう。飽きた後は適当にどこかに奴隷としてでも売りさばいてやるがな!ハハハ!」

 「ふざけんなぁ・・・!」

 

 怒りに震える進藤はガウェンに殴りかかろうとした。しかしすぐにガウェンの衛兵たちに取り押さえられた。


 「イッテ・・・!」

 「立場もわきまえない愚民が。おい!こいつらを屋敷の外まで連れ出せ!」

 「ハッ!」


 衛兵数人に抑えられた進藤、さすがに手も足も出なかった。力づくでガウェンの屋敷の外まで朦朧状態のリチャードと共につまみ出された。


 「さっさと消えろ!殺されないうちにな!」

 「おい!ガウェンを出せ!あの野郎だけは許さねぇ・・・!」

 「さあ私たちは帰るんだ・・・それが命令だ」


 リチャードは相変わらず焦点の合っていない表情でトボトボと馬車の方へ戻っていった。それを進藤は慌てて追いかけた。


 「リ、リチャードさん!しっかりしてください!どうしたんですか!?」


 リチャードの肩を揺さぶる進藤。


 「私たちはおとなしく帰る・・・それがあの人の命令だ」


 しかしリチャードの意識が戻ることはない。進藤の手をのけて馬車に乗り込んでしまった。


 「リチャードさん!」


 ここでリチャードを一人返すわけには行かない。ガウェンは許せないが今はあきらかに準備不足だった。


 「・・・くそ!ここは帰るしかないのか・・・!」


 進藤は自分の無力さを恨みながらもガウェンの屋敷を後にした。

 


 けど・・・


 絶対にあいつだけは許さねぇ・・・!この話絶対に阻止してやるからな!ガウェン!


 俺を操らずに帰したこと後悔させてやるよ!!


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