三章 11 『シルヴェーヌ家』
まもなく日も暮れそうな時刻、シルヴェーヌ家の門前に進藤たちの姿があった。入り口に立っている門番にリチャードが声をかける。
「私はクラウド家当主リチャードだ。シルヴェーヌ家当主、ケイデスに話があって来た」
「はっ、少々お待ちください・・・」
そう言うと門番の一人が屋敷の中に入って行った。そして少しして門番と共にタキシード姿の執事らしき初老の男がやって来た。
「これはこれは、リチャード様。こんな時間にどうしたのでしょうか?本日は会食などの予定はなかったと思いますが・・・・?」
「突然の訪問の非礼は詫びよう・・・しかし、今日は急な用事で来たのだ。ケイデス殿と会わせてもらいたいのだが?」
「・・・申し訳ありません。現在ケイデス様はご多忙にございます。リチャード様とお会いする時間は無いとのことです」
執事はそう言うとリチャードに向かって軽く頭を下げた。
「なんだと・・・?少しで良いのだ!直接話をしたいだけなのだ!」
まさかの執事の返事にリチャードの口調も強くなった。しかし執事の男の口調は変わらない。
「・・・申し訳ありません。本日はお引き取りください」
「な、ならば!明日はどうだ!?いつでもケイデス殿の都合に合わせよう!なんならここでずっと待っていても構わない!」
「申し訳ありませんが明日もケイデス様はお忙しいのでお約束は出来かねます・・・」
執事の男は一歩も譲歩する様子無くリチャード要求を頑なに却下し続けた。
「なんだと・・・!?どういうつもりだ!?ケイデス殿に確認の一つもなく追い返すというのか!?」
「私はケイデス様からの指示通りにご返事しているだけでございます。今はケイデス様は誰の訪問にも応えるつもりは無いのです」
「そんな馬鹿な・・・!」
執事の男の言葉に絶句するリチャード。まさか会うことすらできないとは思いもしなかった。
「ならば・・・無理やりにでも会わせてもらうぞ!!」
執事の態度に業を煮やしたリチャードも強硬策を取ろうとした。
「リチャード様・・・いくらクラウド家の当主様と言ってもそのようなことをされれば私達も黙って通すわけには行きませんぞ・・・?」
そう言って執事は指を軽く鳴らした。その合図と共に進藤たちの前に門番と同じような護衛兵達の姿がぞろぞろ現れて来た。まさに迎撃準備万端と言った様子だ。これはさすがにマズイと思い進藤はリチャードをなだめた。
「リ、リチャードさん!とりあえず落ち着いてください!これではこっちが明らかに不利ですよ!」
「そ、そうだな・・・すまない」
進藤の言葉にリチャードも少し冷静さを取り戻したようだった。
「す。すいません!ケイデスさんが無理ならセシリア・・・セシリアさんはいないんですか!?」
「・・・あなたは?」
「俺?俺はえっと・・・セシリアさんのー・・・お友達といったところです・・・」
進藤の歯切れの悪い言葉に執事の表情が曇る。
「セシリアお嬢様のご友人ですか・・・?申し訳ありませんがお嬢様も今はお忙しい身です。今日はお引き取りくださいませ」
進藤の要求にも執事の態度は変わらなかった。
「そんな・・・そうだ!それじゃあルイズ!ルイズさん!セシリアさんの付き人のルイズさんがいますよね!?ルイズさんでも良いんです!会わせてください!」
今はとりあえず話がしたい。おとなしく帰るわけにもいかず食い下がる進藤。
「・・・ルイズも今はお会いすることは出来ませぬ・・・申し訳ありませんが今日はお引き取りくださいませ。これ以上はこちらも手荒な真似をせざる得ません、どうかここで・・・」
執事の最終通告だ。これをリチャードも察した。
「・・・承知した。進藤君ここはおとなしく帰るとしよう」
「・・・はい」
文字通り門前払いをくらった進藤とリチャード。シルヴェーヌ家当主に会うことも話をすることも出来ずに屋敷を後にした。
「なんということだ・・・まさか会うことすら出来ないとは」
馬車の中で予想外の結果に肩を落とすリチャード。頭を抱えている。
「ますますおかしい・・・あの執事の様子も異常だ。交渉の余地すらないといった感じだ。あそこまで頑なに拒否する理由はなんだ?」
「取り合う暇もないと言った感じでしたね・・・」
「こうなってしまっては仕方ない・・・違う方法でなんとかしてケイデスに会う手段を考えねば・・・この婚約を決めてしまってはマズイと私のギフトが教えてくれている」
「それって王都全体にとって良くない結果が起こってしまうと・・・?」
「ああ、何としても阻止しなければならないようだ!」
リチャードから決意を感じる。それだけこの話を進めることが良くないということだろう。少ししてリチャードの屋敷に到着した。
「すまないが私は少し部屋に籠り考えたいと思う。今日はもう日も暮れたことだ。進藤君も私の屋敷に泊っていくがいい」
「はい、ありがとうございます。俺は・・・少し外を散歩してきますね」
「ああ。好きに屋敷を使ってくれて構わないよ。それでは」
そう言い残しリチャードは急ぎ足で屋敷の中に戻っていった。
残された進藤はなんとなく日の落ちた暗い道をあてもなく歩いた。
あの執事の様子・・・どう考えても普通の対応じゃないよな。一体セシリアの周りで何が起きてるんだ?これからどうすればいい・・・?
考え込みながら歩いている進藤。気が付けば初めてセシリア達と出会った場所にたどり着いていた。
「そういえばここで出会ったんだっけ・・・?見ず知らずの俺に優しく声をかけてくれたんだよな」
初めて出会った時のことを思い返す。
「・・・さん・・・進藤さん」
「うわっ!」
突然進藤の背後で呼ばれる声がした。びっくりして声を上げる進藤。すると進藤の口は誰かの手によって塞がれた。
「しっ・・・騒がないでください。私です」
「・・・ルイズ!?」
見るとそこにはルイズの姿があった。




