三章 10 『リーリッヒ家』
セシリアの婚約を知ってクラウド家に戻ってきた進藤達はリチャードの防音室にいた。リチャードの息子のデミウスの姿もあった。
机の上に置いてある進藤の持ち帰った号外を見てデミウスも驚いている。
「本当の婚約しちゃったの・・・!?あのシルヴェーヌ家が!?どうかしちゃったんじゃないの!?」
「デミウス・・・その発言をここ以外でするんじゃないぞ?万一にもリーリッヒ家の者の耳に入ったら面倒だ」
「わかってるよ。でもこれは明らかにおかしいでしょ?これからどうするつもりなの?」
「まずは情報の確認だ、すでに部下に指示は出してある」
「それでその後はどうするつもりなんだい?まさかこのまま黙って見ているつもりじゃないよね?」
「当たり前だ・・・事実確認が取れたら私が直にシルヴェーヌ家に出向こう。その時は直接話を聞くしかないだろう」
「まぁ・・・そうだね」
防音室の中が沈黙に包まれる。時計の秒針の進む音だけが聞こえている。
「・・・すいません。先程もリチャードさんに聞いたのですがこの婚約が成立することってかなりマズイことなんですよね?このリーリッヒ家って何者なんですか?」
進藤が沈黙に耐えかねてか疑問を尋ねた。
「そうだね・・・通常、貴族同士の婚約自体は珍しいものでもない。むしろ互いの家系を絶やさないために必要な物だ。親しいところでは幼い時から婚約の取り決めをしているところもある。場合によっては貴族と一般の市民との婚約だってたまにはあるくらいだ」
「じゃあ、今回はお二人がそんなに慌てる理由は一体・・・?」
「それはリーリッヒ家にある。ある日突然王都に姿を見せたと思ったらいつの間にか財を築き、その存在を王都に知らしめた。ただその実情は謎に近い・・・聞こえてくる噂は正直良くないものばかりだ」
「良くない噂・・・?」
リチャードは眉間にシワを寄せて答えた。
「世間体は実業家という肩書だが裏では、人身売買や弱い立場の者に法外な金額で商売をするなど悪評しかない・・・」
「そんなことを!?どうして誰も捕まえないんですか!?」
「それはあくまでも噂だからだよ・・・リーリッヒ家の当主ガウェン、この男がなかなかにやっかいで尻尾を掴ませないのだ。私も何度か密かに調査をしたのだが全て空振りに終わってしまった・・・」
肩を落とし落ち込んでいる様子のリチャード。
「そんな・・・」
「そして婚約相手のシルヴェーヌ家だ。このシルヴェーヌ家はさっきも言ったと思うが由緒正しき歴史ある家系だ。この王都の中でも指折りの家系だろう、私も幼い時は色々と世話になったものだ・・・シルヴェーヌ家の現当主はこういった悪い噂など決して許さない人間だ。だからこそ理解できないんだ・・・そして、シルヴェーヌ家には昔から言い伝えられていることがあってね」
「言い伝え・・・ですか?」
「ああ、シルヴェーヌ家と関係を持った家は未来永劫滅ぶことのない一族となり、尽きることない富と名声を得るであろう・・・と、こんな話があるんだ。おそらくシルヴェーヌ家の持つギフトに関係のあることなのかもしれない」
「そんな話が・・・!?それじゃあこのリーリッヒ家の婚約の目的ってまさか!?」
進藤はある可能性にたどり着いた。それはリチャードも理解していたようだ。
「そうだ・・・このリーリッヒ家の目的はシルヴェーヌ家のギフトが狙いなのだろう。どんな手を使ったかは知らないが、狡猾にシルヴェーヌ家に取り入り婚約決めたに違いない・・・私はそう確信している!」
「そんなことが・・・」
コンコン・・・
その時リチャードの防音室の扉をノックする音が聞こえた。リチャードが目で合図してデミウスが扉を開けに行った。外の執事らしき人物から手紙のようなものを受け取っていた。それをデミウスがリチャードに渡した。リチャードは手紙の封を開けて中身を確認している。
「・・・どうやら婚約の話は間違いない事実のようだ。なんということだ・・・」
手紙の内容を読んだリチャードが落胆したように言った。どうやらリチャードの部下の報告が記されているようだった。
「それじゃあ・・・」
「ああ。こうなった以上、直接話に行くしかないなシルヴェーヌ家に・・・進藤君、君も来るかい?って聞くまでもないかな?」
「はい!俺も一緒に連れて行ってください!」
「わかった!すぐに行こう!」
こうして進藤はリチャードと共にセシリアの家、シルヴェーヌ家に向かうことなった。




