三章 9 『急転』
リサの部屋を後にした進藤は再び馬車に乗りリチャードの屋敷を目指していた。
「どうだい進藤君、改めてギフトの能力を理解した気持ちは?・・・と言ってもその様子ではまだ整理が出来ていないようだね」
「ええ・・・正直どうしたらいいのかわからなくて。なぜこんな力が自分にあるのかなって・・・」
「そうか・・・そんなに焦って答えを出す必要はないさ。君には君にしか出来ないことがきっとあるはずだよ。そのギフトだって君に授けられた理由がきっとあるはずさ。今はわからなくても、いつかきっと答えが見つかるはずだよ」
「はぁ・・・そうだといいんですが」
リチャードは戸惑っている進藤に優しく声をかけてくれた。しかし進藤は気の利いた返事をすることは出来ずにいた。
貧民街を抜けて次第に活気の良い声が馬車の外から聞こえてくる。しかしその声は来たときよりも一段と大きなものだった。その異変にリチャードが気づいた。
「ん?何やら騒がしいな・・・何かあったのだろうか?」
外を覗くと人だかりが出来ている。何が起きているのか確認するべく進藤とリチャードは馬車を止めて外に降りた。
「この騒ぎは一体なんだ?」
リチャードが人混みの中の一人の男に声をかけた。
「え?ああ、どうやらリーリッヒ家の若当主とシルヴェーヌ家の令嬢が婚約を決めたみたいなんだよ!まったく驚いたもんさ!」
リチャードが声をかけた男は興奮気味に言った。
「なんだって!?そんな急な・・・本当なのか!?」
男の話を聞いたリチャードの顔色が変わった。信じられないと言った様子だ。
「嘘じゃないって。ほら、これ見て見なよ」
「そんな・・・!」
そう言って男は一枚の模造紙をリチャードに見せてきた。どうやら号外のようだ。進藤も覗き込んだ。
その模造紙には大きくこう書かれていた。
『特報!リーリッヒ家当主ガウェンとシルヴェーヌ家令嬢セシリアが婚約!!式は一週間後!』
「なんということだ・・・!まさかこんなことになるとは・・・!」
号外を見て驚愕している様子のリチャード。進藤にはなぜリチャードがこんなに驚いているのか理解できなかった。
「その・・・この人達が婚約することってそんなに凄いことなんですか?」
「凄いなんてもんじゃない・・・こういった話があるのは知っていたが、まさか婚約を決めてしまうとは思いもしなかった!このシルヴェーヌ家とは由緒正しき家系だ。我がクラウド家よりも長い歴史がある。しかし、この相手のリーリッヒ家は・・・」
リチャードが言葉を詰まらせた。
「・・・私も正直こういうことを言いたくはない。しかし、このリーリッヒ家とはここ最近急激に勢いを増してきた家系のようなのだが、あまり良い話は聞かないのだ。今回の縁談もリーリッヒ家の方が一方的に持ち掛けていたようなのだ。だからこの縁談がまとまるなど思いもしなかった・・・シルヴェーヌ家の当主の性格からもこの縁談を受けるなどありえないことなのだ!」
「そ、そうなんですか・・・」
進藤はリチャードの話を聞いても正直理解は出来なかった。貴族同士の結婚にも色々と事情があるのだろうと・・・それくらいの軽い認識しかしていなかった。
「しかし・・・これは正直まずいことになったな。リーリッヒ家がシルヴェーヌ家との縁談を決めたとなれば王都の秩序が乱されるかもしれん・・・!今回の縁談の実情を知る必要がある!すまないが急ぎ帰ろう!」
リチャードは興奮気味にそう言うと馬車の方へそそくさと歩いて行った。
「あっ!ちょっと待ってください・・・ん?」
進藤も慌ててリチャード後を追いかけようとしたその時さっきの男が持っていた模造紙に一枚の写真に気づいた。どうやら今回の婚約をした二人の写真が写っているようだった。
「ちょ、ちょっと!それ!良く見せてもらって良いですか!?」
「え?あ、ああ・・・良いけど」
戸惑いながらも男は進藤に手に持っていた模造紙を渡した。進藤は渡された号外を良く確認した。
「この写真に写っている人って・・・セシリア!?」
写真を見て驚きの声を上げる進藤。そこに映っているのは進藤の知っている女の人だった。ついこの前一緒に王都を見て回ったセシリアの姿がそこには映っていた。
「間違いない・・・!あのセシリアだ!聞いたことある名前だとは思ったけどまさか同じ人物だったなんて・・・!まさかあのセシリアが結婚だなんて驚いたな。でもこれって・・・・」
写真に写っている知っている人物に驚いている進藤。ただその写真を見て違和感を感じた。セシリアの結婚相手であろう男は満足そうな笑みを見せている。しかしその花嫁であるセシリアの表情はどうだろうか・・・カメラの方を向くわけでもなくどこか儚げな表情を見せている。
これが本当にあのセシリアと同一人物なのだろうかと疑いたくなるなるほどだった。進藤の知っているセシリアは常に明るく振る舞っていた。あの楽しそうな笑顔を見間違うはずもない・・・ただこの写真のセシリアの寂しそうな表情に進藤は違和感を感じていた。
「これが本当に今から結婚するっていう花嫁の表情なのか・・・?こんなのどこにも幸せそうな感じがしないじゃないか・・・!」
進藤の手に力が入り模造紙をクシャっと握りつぶしてしまった。
「お、おい!アンタ!それ俺のだぞ!」
「悪い!これ俺に譲ってくれないか!?これでどうだい!?」
そう言って進藤はポケットに入っていた銀貨を適当に握り男に渡した。
「お?おぉ!?アンタこんなに・・・・いいのか!?」
進藤の出した銀貨の多さに驚いた様子の男。どうやら相場よりもかなり高い金額だったようだ。しかし今の進藤はそんなのをいちいち確認している余裕はなかった。
「ああ!良いよ!それじゃあこれは貰っていくな!」
「おう!いくらでも持って行ってくれ!」
満足そうな男に見送られ進藤もリチャードの待つ馬車に向かった。
「どうしたんだい進藤君?急に顔色が変わったけど・・・?」
リチャードも進藤の変化に気づいていた。
「リチャードさん・・・すいませんがこの縁談の話を調べるの自分も協力させてくれませんか!?」
「・・・どうやら君にも何か理由があるようだね」
進藤のただならぬ雰囲気を察したリチャード。深くは追及しなかった。
「ええ・・・どうしても知りたいことがあるんです!」
決意に満ちた表情の進藤はまっすぐリチャードを見据えていた。
あんなに明るかったセシリアのこの儚げな表情の意味を・・・!絶対に何か理由があるはずだ・・・
進藤自身にもなぜこんなに気になるのかわからなかった。
ただどうしても放っておくことだけは出来なかった。




