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三章 3 『セシリアとルイズ』


 「ねぇ!見て見て!これ可愛いと思わない!?」

 

 露店に並べられた装飾品を見て嬉しそうにはしゃいでいるセシリア。


 「はぁ・・・そうですね」


 気の抜けたような返事をする進藤。


 「ちょっと進藤さん?何か不満な事でもあるのかしら?」

 「いや、別にそういうわけじゃないんですけど・・・ちょっと周りに注目されているというかなんというか」

 「そうかしら?別にいつも通りだと思いますけど?ねぇルイズ?」

 「セシリアお嬢様が王都を歩かれるといつもこうですから、いつも通りと言えばいつも通りですね」

 「・・・マジで?」


 大勢の人が行き交う大通りを並んで歩く進藤とセシリア、その3歩程後ろをついてくるルイズ。セシリアの姿を見た人々の反応は様々だ。驚き慌てて頭を下げる人、まるで崇拝する神様にでもあったかのように両手を合わせて拝み始める人、どうして進藤と一緒に歩いているんだと怪訝な表情でひそひそ話をする人など・・・その形は様々でもあからさまに注目の的になっているのは確かだ。これでは落ち着いてお土産を探すこともできない。


 「やっぱり俺なんかと一緒に居たら不味かったんじゃ・・・?」

 「周りの目なんて気にすることはありませんのよ?私が進藤さんと一緒にお買い物をしたいと思ったからここに居るわけですし、別に悪いことをしているわけじゃないんですし・・・ってあれも可愛いわ!」

 

 セシリアは進藤の言葉にも気にする様子は少しもなかった。興味を示した物へすぐに駆け寄る姿はまるで子供のようだった。


 「何て言うか・・・自由な人だな」

 「セシリアお嬢様は誰にも縛られることなく行動される方ですから、その表現は正しいですね」


 セシリアの姿を見て呟いた進藤の側に後ろを歩いていたルイズが横に並び言った。


 「ルイズさん・・・セシリアさんっていったい何者なんですか?周りの人たちの姿を見る限りなんだか有名な人みたいですが・・・」

 「・・・そんなにセシリアお嬢様の素性が気になりますか?」

 「え?そりゃあまぁ・・・見るからにどこかのご令嬢って感じがしますし、何かあったら大変ですし」

 「そうですか・・・あなたは相手の立場によって立ち振る舞いを変えるのですね」


 ルイズは何かに失望したかのように言った。進藤はルイズの言葉を聞いて胸の奥がズキッとするような感覚がした。


 「いや・・・!別にそう言うわけじゃないんですけど!」

 

 ルイズの言葉に慌てる進藤。


 「ふふっ・・・わかっていますよ。少し意地悪を言いました。あなたの発言はセシリアお嬢様を気遣ってのことだと理解しています。ですか出来ればお互いの立場などは気にせずに付き合ってあげてください。その方がきっとセシリアお嬢様も喜ぶでしょうから」


 ルイズは少し笑みを見せながら言った。


 「ルイズさんって・・・良い性格してますよね?」

 「ええ、よく言われます」

 

 ちょっと勝ち誇ったよにルイズが言った。別に褒めたわけじゃないんだが・・・


 「確かにルイズさん言うとおりですね。セシリアさんがどこかのお嬢様だったとしても俺が必要以上に気にすることはないですね。だいたい俺はそういうのあんまり関係ない立場だったりしますしね」

 「え?それってどういう・・・」

 「進藤さーん!ルイズー!ちょっと見てよ!これどういう作りになっているのかしら!?」


 ルイズの言葉を遮るように遠くから露店に並べられたガラス細工の置物を手に持ち進藤たちを呼ぶセシリア。


 「ああ!セシリアさん!そんな風に持って壊れたらどうするんですか!」


 進藤が危なかっしいセシリアの元に慌てて駆け寄った。


 「進藤さん・・・セシリアお嬢さんと貴方が出会ったのはきっとお嬢様にとって幸運だったと私は信じていますよ」


 一人残されたルイズは進藤の後ろ姿を見て小さく呟いた。


 それから一通り王都を見て回った進藤たち。ほとんどはセシリアの興味が向いた方についていく形だったのだが・・・おかげで進藤もクタクタになっていた。気づけば夕暮れの空が広がっていた。


 「あー本当に楽しかったわ!やっぱり王都って良い物ですわね!いつも新しい出会いがありますもの!」


 満足そうなセシリア。


 「ふぅ・・・楽しんでもらえたようで何よりですよ。もうすぐ日が暮れそうですけどお二人は大丈夫なんですか?」

 「あ!ホントだわ!夢中になりすぎてすっかり忘れてたわ!さすがに夜までには帰らないと・・・」

 「全くですよセシリアお嬢様・・・これ以上はさすがに私も黙っていられませんよ」

 「わかっているわよ。それじゃあ進藤さん、付き合ってくれてありがとうね!私達はここで帰ることにするわ!」

 「わかりました、お二人とも気を付けて帰ってくださいね」

 「ええ!ありがとうね!」

 「それでは進藤さん、失礼します」


 手を振り去っていくセシリアと礼をしてその後をついていくルイズを進藤は見送った。


 「・・・はぁ、いやー疲れたな。しかし一体何のために俺についてきたんだろう・・・?本当にただ王都に来たかっただけなのかな?」

 

 見送った後に疲れにどっと襲われた進藤。とりあえず道端に腰かけて休憩した。


 「・・・はっ!しまった!セシリアさんに付き合っていたらお土産買うの忘れてた!ってもうほとんど店も閉まっちまってるじゃん!どうしよ!?」


 ふと我に返り本来の王都に来た目的を思い出した進藤。しかし気づいた時にはお土産を買えるような店はなく諦めて帰ることにしたのだった。


 「・・・仕方ない。お土産はまた今度の機会にするか」


 

 ------------------------------



 進藤と別れたセシリアとルイズは馬車の中にいた。ルイズが手配した馬車だった。


 「セシリアお嬢様・・・今日は楽しかったですか?」

 「ええ、もちろん!進藤さんを連れ回してしまったけどあの人、文句ひとつ言いませんでしたわね。本当に優しい人なのね!」

 

 馬車の窓から外を眺めるセシリアは満足そうに答えた。


 「そうですね、あの方は優しい方のようです。何かあってはいけないとお嬢様のことばかり気にしてましたよ」

 「あら?ルイズったら随分進藤さんのこと理解したみたいなのね?いつの間にそんなに親しくなっていたのかしら?」

 「別にそう言うわけではありませんよ・・・からかわないでください」

 「フフ・・・わかっているわよ、ごめんなさいね」


 そう言ったセシリアの再び窓の外を見る表情がなんだか寂しさを感じさせるものだった。


 「お嬢様・・・やはり今回の縁談は納得いきませんか?」

 「・・・ルイズ。わかっているのよ、私も貴族に生まれたからには自由な恋愛など出来ないって・・・でも今回の話はどうにも不自然な感じしかしないのよ」

 「確かに・・・正直に申しますと、セシリアお嬢様の父上様にもこの度の縁談の話が持ち上がってから違和感を感じます・・・」

 「そうね・・・私の知らないところで勝手に話が進んでるし、お父様も全然私の話を聞いてくれないわ。でもそれで私に出来ることって言ったらただ時の流れに身を任せて成り行きを見守ることしか出来ないのよ・・・」


 落胆したようなセシリア。


 「しかし・・・!セシリアお嬢様のギフト『幸福の香り(ラッキーフレーバー)』を使えば必ず良お嬢様にとって良いことがあるはずです!」

 「確かに私のギフトは幸運を運んでくれるわ・・・しかしそれは絶対ではないのよ。あくまで可能性を上げるだけよ」

 「ですがあの日セシリアお嬢様は進藤さんと出会われました!あれはきっとお嬢様のギフトのもたらしてくれた出会いだと私は信じております!」

 「もうルイズったら・・・でも、ありがとう。私も進藤さんとの出会いは決して無駄じゃないと思っているわ。でもまだ出会ったばかりの人にこんなこと相談できるわけないじゃない・・・変な女だって嫌われちゃうわ」

 「進藤さんは・・・そんなことで人を嫌いにはならないと思います」

 「フフ・・・本当にルイズったらそんなに進藤さんのこと信じてるのね?」

 「・・・!?セシリアお嬢様!今はそういう話をしているわけでは・・・!」


 からかわれたルイズがムキになり声を荒げた。


 「わかっているわよ。あなたが私のことをホントに心配していてくれていることも・・・ルイズ、あなたが傍にいてくれて良かったわ。これからも変わらず私の側にいてくれるかしら?」

 「私は・・・シルヴェーヌ家に仕えているわけではなく、この命ある限りセシリアお嬢様にこの身を捧げると誓っております!」

 

 ルイズは馬車の中でセシリアの前で片膝をつき頭を下げ忠誠を誓った。


 「ありがとう・・・貴方が傍にいてくれるのなら私はどんな苦難でも耐えることが出来そうよ」

 

 そんなルイズの頭を優しく撫でるセシリア。


 「さっ、もうすぐ着いくわよ。だからそんなに悲しそうな表情をするのはやめてね?ルイズ」

 「セシリアお嬢様・・・」


 頭を上げたルイズの瞳にはうすっら涙のようなものが見えた。


 「きっと大丈夫よ・・・だって私って人よりも運が良いのよ?」

 「そうだと私も信じています・・・」

 「もう・・・いつもの憎まれ口はどうしたのよ。調子狂っちゃうじゃない」

 

 セシリアは照れ隠しかルイズに顔が見えないようにそっぽを向いた。


 「すっかり遅くなっちゃったわね。さあ帰りましょ?ルイズ」

 「はい・・・」


 セシリアが帰宅するころには日もすっかり暮れてしまっていた。馬車から降りるとクラウド家にも負けず劣らずの豪邸がそこにはあった。


 入り口にセシリアの帰りを待っていたのか執事らしき男が二人立っていた。馬車からセシリアが降りてくるのを見て二人とも頭を下げて出迎えた。


 「おかえりなさいませセシリア様。あまりに遅いのでお迎えに行こうかと思っておりました」

 「心配させてごめんなさいね・・・でも大丈夫よ。私にはルイズがついてるんだから」

 「わかっておりますが、万が一ということもありますので・・・」

 「はいはい、わかってるわよ。次からは気を付けるわ」

 「そうしてもらえると助かります・・・それと屋敷でリーリッヒ家の方がお待ちです」

 「・・・そう。わかったわ」


 執事の言葉にセシリアは少し表情を曇らせた。そしてルイズを連れて屋敷の中に入って行った。



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