二章 22 『貴族と庶民』
「ただいまー・・・」
無事アイリスの家に帰ってきた進藤。リチャードの馬車から降りた。その姿に気づいたアイリス。庭の雑草を抜いていたところだったようだが、進藤の姿を見るなりびっくりしたような表情で走って進藤の元に駆け寄ってきた。背中にぶら下がった麦わら帽子が左右に揺れている。
「進藤お兄ちゃん!?良かったぁ!無事に帰ってきてくれたんだね!」
笑顔で進藤を出迎えてくれたアイリス。
「ああ、ただいまアイリス。遅くなって悪かったな。シルバはいるかい?」
「お父さん?お父さんならそこに・・・」
「進藤か?王都に行ったと聞いていたが何かあったのか?それとその馬車は・・・?」
少ししてシルバも進藤の所に姿を見せた。アイリスと同じく庭の手入れをしていたようでジーンズの膝の所が土で汚れていた。
「シルバ!良かった!シルバとアイリスに会いたいっていう人を連れて来たんだけど会ってくれるかな?」
「私とアイリスに・・・?一体誰が?」
「私も・・・?」
アイリスとシルバが不思議そうな表情を見せた。そこに馬車からリチャードとデミウスが降りてきて二人に姿を見せた。
「あなた達がシルバ殿とアイリスさんかな?」
「あなた達は一体・・・?」
馬車から身なりの良い男たちが突然出てきてアイリスは少し戸惑いシルバの背中に隠れるようにリチャード達を見ていた。
「突然のお邪魔して申し訳ない・・・。はじめまして、私はクラウド家当主リチャード。こっちが息子のデミウスだ」
「はじめまして。息子のデミウスです」
「クラウド家当主・・・!?」
リチャードの言葉を聞いて驚いた表情のシルバ。アイリスはまだよくわかっていないようだった。
次の瞬間、リチャードは地面の上に直接両手両ひざをつきシルバに対して頭を下げた。
「この度は我がクラウド家があなた方に対して大変申し訳ないことをした!今回はそのことを償いたくここに参りました!!」
デミウスもリチャードに続き地面に直接土下座の姿勢をして頭を下げていた。
二人とも上等そうなタキシードを着ていたのだが、そんなのはお構いなくズボンを土に汚し頭を地面にこすりつける勢いで頭を下げている。
ここまで深い土下座を進藤も見たことはなかった。
「え・・・?え!?どういうこと!?お父さん!?進藤お兄ちゃん!?」
この状況にアイリスは困惑してシルバの後ろであたふたしている。シルバは二人の様子を見て何か察したようで少しして笑みを見せた。
「・・・頭をあげてください。そんなことをしてはせっかくの服が台無しになってしまう」
「今回の件、どんな言葉で償いをすればいいかわからないほどのことをしてしまった!あなた方の気が済むのならばどんなことでも受け入れる所存だ!」
「ならば尚更、その頭を上げてほしい・・・そのようなことをされても私はそのような謝罪を望んではいない、それはもちろん娘のアイリスも同じ気持ちだ」
「だが!それでは私たちはどのようにあなた方に償いをすればいいのだろうか・・・?」
「何もいらないさ。私達はいつも通りのこれからも平穏に生活が出来ればいいだけなんだ」
シルバは優しい声で言った。その声に怒りを感じることはなかった。
「しかし・・・!それでは私たちも何もせずに済ますことは出来ないんだ!」
「ふぅ・・・そこまで言うのなら一つだけ・・・」
「っ!?なんでも言ってくれ!」
リチャードは懇願してシルバの顔を見上げた。
「二度と・・・私達のような庶民が自由に商売が出来なくなるようなことがない様にしてくれ。私のような思いをする人間が二度と出ないことを約束してほしい」
リチャードはシルバの言葉を聞いて少し驚いたように目を見開いたが、シルバの思いを悟ったのか再び頭を下げた。
「・・・わかった。二度とこのようなことがない様にクラウド家当主リチャードの命に代えてもその約束を守ることをここに誓おう!
「リチャードの息子、デミウスもここに父と同じ誓いを・・・!」
リチャード達はこれ以上ないほどの誠意を見せた。リチャード達の覚悟を感じた進藤はただ見ていることしか出来なかった。
「そう言ってもらえて何よりだ。それでは頭を早く上げてほしい・・・娘が怖がっているんだ、ハハハ」
「こ、怖がってないもん!!お父さんったら!」
シルバの言葉を聞きアイリスが顔を赤らめ照れていた。
「ふっ・・・確かにこんな状況を子供に見せるべきではなかったのかもしれない」
そう言ってリチャード達は立ち上がった。そしてアイリスに目線を合わせるようにリチャードが姿勢を落として言った。
「怖い思いをさせてすまなかったね。どうか許してほしい」
「だ、だから怖がってないんもん!もうっ!」
子供扱いされたのが嫌だったようでアイリスは拗ねてしまった様子だった。
「こらこらアイリス、そんな言い方をしたらダメだろ・・・わざわざこんな田舎まで足を運んでもらって申し訳ない・・・やはり誇り高きクラウド家の名は本物だったようだ」
「あなたにそう言ってもらえたら私たちも少しは救われるというものだ。今回の件で愚息ダリアのことは厳しく処した・・・どうかこれからも王都を、そして市場をよろしくお願いしたい」
「もちろんだとも。ここで立ち話もなんだから中にどうぞ・・・と言ってもあなた方のお口に合う飲み物があるかわかりませんがね。紅茶くらいしか出せませんが」
「それは良かった。紅茶は私の大好物の一つだ、ぜひ頂こう!」
シルバに案内されてリチャード達は家の中に通された。
「ふぅ・・・なんとか無事解決したようだな」
安堵する進藤。そこにアイリスが駆け寄ってきた。
「進藤お兄ちゃん・・・!」
「ん?アイリスどうしたんだ?」
「えっとね・・・私よくわからなかったんだけど、これでお父さんが悩んでいたことは解決したってことなの?」
まだ状況の掴めていない不安そうなアイリス。そんなアイリスの頭を撫でる進藤。
「ああ、もう大丈夫だよ。明日からはいつも通りのシルバに戻るはずだよ」
「ホント・・・!?良かった!!この前帰って来た時なんだか怖い顔してたからどうしようかと思って・・・でも進藤お兄ちゃんがどうにかしてくれたんだね!」
進藤の言葉を聞き笑顔を見せるアイリス。
「まあ、色々とあったけどもう大丈夫だよ。俺がアイリスとの約束を破るはずないだろ?」
「エヘヘ、私も進藤お兄ちゃんがなんとかしてくれるって信じてたよ!」
屈託のない笑顔を向けるアイリス。いつ見てもこの笑顔には癒される。
「信じてくれてありがとう・・・さっ、俺らも中に入ろうぜ」
「うん!」




