二章 17 『不思議な出会い』
「お前みたいなやつがなんでこんなところにいる?ここは選ばれた人種しか住むことを許されない場所だぞ!」
進藤の姿を見てダリアが不快感を露わにする。
「相変わらずの物言いだな・・・お前に話があるから来たんだよ」
「お前だと・・・!?俺が貴族だと知ってその口の利き方をするか!?もう我慢出来ねぇ!お前みたいなやつには体で教えるしかねぇみたいだな!おい!お前ら!こいつに俺が誰か教えてやれ!」
進藤にお前呼ばわりされたのが気にくわないダリアが激昂した。ダリアの合図で取り巻きのチンピラ風情の男達が各々ナイフやメリケンなど武器を取り出し始めた。進藤一人対ダリアも含め相手は5人だ。さすがにこの状況では進藤も不利だと理解していた。
「おいおい・・・いきなり物騒だな。こっちは話をしに来たって言うのによ・・・これがお前ら貴族のやり方ってやつか?」
「また俺のことをお前呼ばわりしたな・・・!二度とそんな口を利けないようにしてやる!やってやれ!」
『おうっ!』
ダリアの指示で取り巻き達が一斉に進藤に襲い掛かってきた。
「ちっ・・・!さすがにこれは話できる状況じゃねーな!くそっ!」
進藤はたまらず取り巻き達に背中を向け全力で逃走を図った。ここで捕まればどんな目に合うかもわからない・・・30代に突入した体にムチを打ち走って逃げた。
「逃がすなっ!追え!!」
後ろの方でダリアの叫び声がする。しかし進藤は振り返ることなく逃げ続けた。
「おい!あいつ逃げ足早いぞ!」
「へっ!こちとら現場の肉体労働で鍛えてんだ!お前らみたいなボンボンに簡単に捕まってたまるか!」
「待てぇ・・・!・・・・・・・」
徐々に取り巻きどもの声が小さくなっていくの感じた。安全圏まで逃げたのを確信して振り返ると取り巻き達の姿は見えなくなっていた。どうやら振り切ったようだ。
「はぁはぁ・・・どうやら撒いたみたいだな。しかしなんて奴らだ・・・あれじゃあ真っ当な方法で話をするのは無理そうだな」
息を整える進藤。夢中で逃げたので気づけば何処かわからない場所にたどり着いていた。あたりをキョロキョロ見渡す。
「えーっと・・・どこだここ?走るのに夢中で良くわかんない場所に来てしまったな」
右も左も見たことないほどの豪邸が建っている。
「しまったな・・・もう日が暮れちまいそうだしどうしたもんか・・・」
「あの・・・どうされましたか?」
「うわ!?びっくりした!」
どうするか考え込んでいたところにいきなり後ろから声をかけられ驚く進藤。振り返ると二人の女が立っていた。一人はピンクの高そうなドレスを身に纏っている女だ。おそらく10代後半だろうか、長いサラサラな黒髪で大きな瞳が印象的な顔立ちをしている。全身から若いながらも気品のようなものを感じる。おそらく貴族の一人だろう。もう片方はメイド服みたいな服を着た若い女の子だ。見た感じアイリスと同じくらいだろう、紺交じりの黒髪でこちらは肩くらいまでの長さで小柄な女の子だった。
「す、すいません!突然声をかけてしまって・・・」
進藤の驚いた声に向こうも驚いた様子だった。
「あ、いや・・・こちらこそ大きな声を出してしまってすいません」
頭を下げる進藤。
「いえいえ、それよりもここで何をされていたのですか?」
「あー・・・ちょっと道に迷ってしまいまして」
「あら!それは大変ですわ!ルイズ、この方を案内してあげて!」
「セシリアお嬢様・・・それは出来ません。私がお嬢様の側を離れるわけには行けませんので口頭で説明すれば十分かと」
ルイズと呼ばれたメイド服を着た女の子は淡々と返した。見た目のわりに随分落ち着いた喋り方をしている。おそらくこのセシリアと呼ばれる貴族の女の付き人か何かなのだろう。
「もうルイズったら、心配性なんだから・・・私ももう18なのよ?一人で大丈夫なのに」
「お言葉ですがセシリアお嬢様に万が一のことがあれば大変ですので・・・」
セシリアが頬を膨らませ不満そうな表情を見せた。しかしルイズは動じることなく冷静に対応していた。
「いえいえ!そんな道案内なんて悪いですから!その子の言うとおり案内してもらわなくても説明してもらえれば十分ですから!」
二人が喧嘩するまえに慌てて進藤が口を開いた。
「そう・・・?そんなに遠慮することないのに。ルイスが案内しないなら私がしましょうか!?」
グイグイ近寄って来るセシリア。親切なのか好奇心なのかよくわからない子だ。
「お嬢様・・・!そんなこと許されませんよ!そこのあなた・・・どこに行くつもりだったのですか?」
セシリアを強引に進藤から引き離すルイズ。付き人のはずなのになんだかセシリアの扱いが雑な気がする。
「ちょっとダリア・・・じゃなくて、たしかクラウド家とかいう貴族の所に行きたいんだけど」
「クラウド家・・・そこにあなたは一体なんの用なのですか?」
ルイズの目が鋭くなり進藤に向けられる。これは完全に疑われている目だ。進藤は正直に答えることにした。
「ちょっと市場のことで話がしたくてな・・・どうしても直接会って話をしないといけないんだ!」
「・・・どうやら込み入った用事のようですね。それならクラウド家はあっちの方です。その方角を目指していけばたどり着けるはずです」
進藤の誠意が通じたのかルイズは指をさしてクラウド家の方角を教えてくれた。
「そっか!ありがとうな!助かったよ!」
「礼には及びません。セシリアお嬢様の気まぐれのせいですから・・・もっともあなたがクラウド家に言ったところでまともに対応してもらえるとは思えませんが・・・」
「もうルイズったら!そんな言い方しないでもいいじゃないの!ごめんなさいね、この子って口は悪いかもしれないけどとっても優しい子なのよ?」
「すいません・・・お節介が過ぎました」
セシリアに突っつかれてルイズが頭を下げた。
「いえいえ・・・道を教えてもらえただけで十分ですよ。二人のおかげで助かりました!それじゃ!」
進藤は二人に礼を言いその場から立ち去ろうとした。そんな進藤の手をセシリアが突然握ってきた。
「え!?」
「お気をつけていってらっしゃいね・・・貴方に神の御加護が在らんことを」
そう言ってセシリアは笑顔で進藤の手を握っていた。
セシリアの握っている進藤の手がほんのり暖かくなり、それが全身に伝わっていくような不思議な感じがするのを感じた。
「今のは・・・?」
「ここで会ったのも何かの縁です。あなたにきっといいことがありますよ」
そう言ってセシリアは進藤の手を離した。
「あ、ああ・・・なんだかよくわからないけどありがとう!助かったよ!」
セシリアの行動の意味は良くわからなかったが進藤は礼を言ってその場を去った。
「・・・貴族って、みんながみんなダリアみたいなやつじゃないんだな。随分親切な人たちだったな」
進藤はふとそんなことを呟きながらルイズに教えてもらった方へ走って行った。
進藤の走っていくのを手を振りながら見送っていたセシリアとお辞儀をしていたルイズ。頭を挙げたルイズがセシリアに言った。
「セシリアお嬢様・・・どういうつもりですか?どこの誰かもわからない人間にわざわざセシリアお嬢様のギフト・・・幸福の香りを施すなど・・・」
「そんなに怖い顔しないでよルイズったら、可愛い顔が台無しよ?」
「・・・話をそらさないでください」
「フフフ、いいのよ。あの方からはなんだか同じ匂いを感じたわ・・・きっとどこかでまた会うはずよ。どんな再開になるのか楽しみだわ!」
「同じ匂い?まさかあの男が・・・ギフトを持っていると言うのですか?」
「ええ、間違いないわ。まあそれも再び会えばわかるでしょ。もし二度と会えなかったら逆立ちで王都一周してあげるわよ?」
「その言葉忘れないでくださいよ?」
「もちろんよ。それじゃあ帰りましょうか?」
「はい・・・かしこまりました」
そう言ってセシリアとルイズはどこかに歩いて行ってしまった。




