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二章 6 『怒り』


 たくさんの人々が行き交う中でアイリスの足取りは人一倍軽やかだった。時折窓ガラスに映る髪飾りを付けた姿を見て嬉しそうにしていた。


 そんなアイリスの姿を見て進藤はこのままアイリスに色々貢いでしまいそうだと少しばかり不安になってしまった。それくらいアイリスは進藤がプレゼントした髪飾りを喜んでくれた。


 それから進藤たちは母親のセリカへのお土産の手荒れに聞きそうな薬を探して良さげな塗り薬を見つけ購入した。ガラスの瓶に入れられた塗り薬を胸に抱きかかえ王都の中を並んで歩いていた。


 「良さそうな薬が見つかって良かったね」

 「うん!でも・・・これお母さん喜んでくれるかなぁ?」

 「アイリスが一生懸命考えて買ってくれたんだ!絶対に喜んでくれるに決まってるよ!」

 「そうかな・・・?でも、そうだといいな!」


 塗り薬を眺め少し照れながらも嬉しそうに笑うアイリス。本当に子の子の癒し効果は絶大だ。もうその辺に座って笑っているだけで道行く人々を幸せに出来るに違いない・・・効果は俺が保証する。


 「そろそろお父さんも市場から帰って来る頃かな・・・きゃっ!!」


 突然路地から人が飛び出してきてアイリスにぶつかってきた。路地から走って出てきたのは少し太めの男だった。見たところ20代前半くらいだろう。ふっくらした頬と目つきの悪い釣り目が印象的な顔をしている。


 横からぶつかられたアイリスはたまらずよろめき地面に座り込んでしまった。


 「・・・っ!?アイリス大丈夫か!?」


 進藤は座り込んだアイリスに急いで駆け寄った。


 「アハハ・・・転んじゃった。でも大丈夫だよ、びっくりさせてごめんね」


 転んだのはまったくアイリスのせいではないのだが恥ずかしそうに謝るアイリス。見たところどこも怪我はしてなさそうだったのでひとまず安心した進藤。


 「・・・あっ!お薬が!」


 何かに気づいたアイリスが叫んだ。どうやらぶつかられた拍子に手に持っていた塗り薬の瓶を手放してしまい地面に落としてしまったらしい。すぐそばで塗り薬の入った瓶は粉々になっていて塗り薬は地面に染み込んでいっていた。


 「あっ・・・わりぃ」


 アイリスにぶつかってきた男はそれだけ素っ気なく言い放ちアイリスに手を差し出そうともせず立ち去ろうとした。


 それを見た進藤がたまらず叫んだ。


 「おいっ!こんな女の子を突き飛ばしといてそれだけかよ!?」

 「・・・あぁ!?なんだよ?ちゃんと謝っただろ?」


 進藤の言葉を聞きふてぶてしさ全開で立ち止まる男。微塵も自分が悪いとは思ってない様子だ。


 「今のどこが謝ったんだよ!お前がぶつかったせいで薬の入った瓶が割れたじゃないかよ!」

 「はぁ?そんなの知らねーよ。こっちは急いでんだよ!」

 「それこそ知らねーよ!まずはちゃんと謝れよ!」

 「し、進藤お兄ちゃん、私は大丈夫だから・・・ね?」


 アイリスが申し訳なさそうに進藤を止める。しかし男の態度に進藤もたまらず声を荒げた。


 「あーもう、めんどくせーな。ほら、これでいいか?」


 男はそう言うとポケットから銀貨を数枚取り出し進藤たちの前に不躾に放り投げて立ち去ろうとした。ここまで来るとさすがの進藤も我慢ならなかった。


 「おい!!待てぇ!!」

 「・・・なんだ金なら渡しただろ?それともそれだけじゃまだ不満か?」


 この男、自分がなぜ怒鳴られているのかまったく理解できていない様子だ。


 「おいおい、ダリア何してんだよ?」

 「どうしたんだ?何かあったのか?」


 男が飛び出してきた路地からこの男の仲間と思われる同い年くらいの柄の悪そうな男たちが3人ほど出てきた。どうやらアイリスにぶつかってきた男はダリアというらしい。


 「ああ?知らねーよ。俺のせいでなんか壊れたとかいってギャーギャー騒いでんだよ。金なら渡してやったのによ」

 

 吐き捨てるように言うダリア。もはやここまで来ると進藤の堪忍袋の緒も限界を迎えていた。


 ダリアが放り投げた銀貨を進藤は拾い集めてダリアに思いっきり投げ返した。


 「・・・あぶねっ!なにすんだ!?」

 「お前みたいなやつからの金なんか要らない!それよりもちゃんとこの子に真剣に謝れ!」


 ここまで怒りをあらわにしたのは進藤自身も初めてのような気がした。今までどんな無茶な仕事をさせられようとも現場で罵詈雑言を吐かれようともグッと自分を殺してやり過ごしてきた。


 しかし今回はやり過ごすことなんか出来なかった。アイリスの優しさを踏みにじるような行動をしながらそれを悪びれる様子もない目の前の男に対しての怒りは今まで生きてきた中で一番許せない物だった。


 




 

 

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