二章 5 『やはり天使はいた』
「それじゃあ私は市場にこの牛たちを持っていくから進藤たちはゆっくり王都を見て回っておいてくれ」
シルバは進藤とアイリスを馬車から降ろして市場の方へと行ってしまった。
行き交う人々の多さに圧倒された進藤はあちこちをキョロキョロと眺めた。道脇に並んでいる露店は香ばしい匂いを放つ食材やどこかの民族の装飾品らしき物を並べて販売していたりと様々であった。どれも進藤は見たこともないようなものばかりである。
活気に溢れた大通りでアイリスに袖を引っ張られた。
「さっ、行こっ!せっかくの王都なんだから色々見ないともったいないよ!」
王都に到着したのが嬉しいのか興奮気味のアイリス。今日は王都に来るからかいつもとは違うお洒落な服を着ている。白とピンクのフリルで装飾されたシャツとロングスカートで華やかに着飾っている。赤毛を後ろで束ねてポニーテール姿のアイリス。普段の家で手伝いをしている姿も可愛いがお洒落をすればその可愛さはますます輝く。以前の世界ならばどこかのモデルかと思ってしまっていただろう。
「そ、そうだな!せっかく来たんだ!楽しまないとな!」
進藤は背格好がシルバと同じくらいということもあり服を何着か譲り受けていた。今日はジーンズ生地の長ズボンに白いシャツといったシンプルな格好だ。アイリスに引っ張られる形で王都の観光を始めた。
「あ、あれなんだろ!?行ってみよ進藤お兄ちゃん!」
目をキラキラさせてアイリスは様々な露店を見て回っていた。その中でもある露店でアイリスの足が止まった。そこはアクセサリーを扱うお店だった。そこで一つの花をモチーフにしたと思われる髪飾りがアイリスの興味を引いたようだ。
「あ、これ可愛い・・・!」
「おっ?それに目をつけるとはお嬢ちゃんお目が高いね!きっと似合うと思うから試しに着けてみなよ!」
店のおばちゃんに勧められアイリスは髪飾りを手に取り自分の髪につけてみた。髪飾りはアイリスの赤毛にしっかり馴染んでいてまさにお似合いという言葉がふさわしい。
「ど、どうかな?」
少し恥ずかしそうにアイリスが尋ねてきた。
「うん!凄い似合っているよ!アイリスにぴったりだと思うよ?」
「ホント・・・!?」
進藤の言葉を聞いて嬉しそうな様子のアイリス。しかし残念そうに髪飾りを外して飾ってあった棚に戻そうとした。
「あれ?アイリス買わないのかい?」
「うーん・・・欲しいけど今日は他に買いたいものがあるの」
「他・・・?何が欲しいんだい?」
「お母さんが最近手荒れがするみたいだからそのお薬を買って帰ろうと思ってるの。だからこの髪飾りはまた今度来たときに買うことにするよ!」
そう言ってアイリスは笑顔を見せた。それは強がりでも何でもなかった。心から母親へのプレゼントを優先していて自分のことは後回しで構わないと思っているのだろう。
「そっか・・・じゃあ俺がその髪飾り買うよ!」
「え・・・!?」
進藤の言葉に驚いた様子のアイリス。
進藤も王都に来るときにシルバから水道やらトイレのお礼だとお金を預かっていた。しかし正直なところ進藤には別に欲しい物なんてない。
見れば髪飾りの値段は銀貨5枚となっている。少しアクセサリーにしては高価みたいだ。しかし今の進藤の手持ちなら丁度買えるくらいである。進藤は迷わず銀貨を取り出し店のおばちゃんに渡した。
「これでその髪飾り買うよ!はいっ!」
「毎度っ!さすが・・・あんたこの子の父親かい?その割には若く見えるが・・・まさか彼氏――」
銀貨を受け取ったおばちゃん。どうやら進藤とアイリスの関係性を測りかねているようだ。
「ち、違うよ!今はこの子の家で色々と世話になっている同居人というところさ」
「そうかい!それは悪かったね!ハハハ!」
そう言っておばちゃんはアイリスに髪飾りを渡した。
「・・・ほ、本当にいいの?」
アイリスが心配そうに聞いた。
「ほら!せっかくこの兄ちゃんが良い格好したんだ。こういう時は素直に甘えるのもんだよ!」
おばちゃんはそう言って強引にアイリスの手に髪飾りを渡した。アイリスが申し訳なさそうに進藤の方を見た。
「そんなに気にしないでくれ。これはお礼だよ」
「お礼・・・?そんなお礼されるようなこと私、何もしてないよ?」
「そんなことないさ!俺はあの時アイリスに優しくし声をかけてもらえたから今こうしていれるんだよ。これはその気持ちだから受け取っておいてくれよ」
「そんな・・・私なんて言って良いか・・・」
アイリスがどうしていいかわからない様子だった。
「ほらアイリス・・・その髪飾りをもう一度つけて俺に見せてくれよ。アイリスの髪飾りを付けた姿が見たいんだ」
「・・・うん」
アイリスは少し顔を赤らめて恥ずかしそうに頷いた。そして髪飾りをもう一度自身の髪につけた。
「・・・どうかな?」
「ああ!やっぱり似合ってるよ!その髪飾りはアイリスがつけるのが一番似合ってると思うよ!」
「もうっ・・・恥ずかしいよ!」
アイリスの顔が益々赤くなった。どうやらあまり褒められるのは慣れてないようだ。気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
「ふぅ・・・でもありがとうね!進藤お兄ちゃん!これずーっと大切にするね!」
満面の笑顔を見せたアイリス。それを見ただけで進藤はこの髪飾りを買ってあげて良かったと心の底から思えた。




