一章 14 『大きな一歩』
進藤が何かすることがあると言って出て行った日の翌日の正午過ぎ。外は気持ちの良い晴れ空なのだがアイリス家では家族でテーブルを囲み集まって話し合いが行われていた。
「お父さん・・・進藤お兄ちゃんが昨日から帰ってきてないのだけど大丈夫かな?」
心配そうに尋ねたのはアイリスだった。
「うーん。昨日はいつもと様子が違っていたからなぁ・・・何かあったのだろうか?」
「進藤のこと探しに行った方がいいんじゃないのかしら?」
シルバとセリカも同様に進藤が返ってこないことに不安を感じているようだった。
「・・・そうだな!進藤はもう私たちの家族みたいなもんだ。探しに行くとするか!」
「うん!ありがとうお父さん!」
「まったく世話の焼ける子だね・・・!」
話し合いの結果、進藤のことを探しに行くことで同意したアイリス達は各自身支度を集まった。
馬に乗り昨日進藤が出て行った方角を確認する。
「たしか進藤お兄ちゃん、いつも水汲みに行く方に出て行ったよ!」
「そうか。ならとりあえずそっちに行ってみるか・・・ん?あれはなんだ?」
「え?何?」
シルバが遠くを見て何かに気づいた。良く見えるように目を凝らしている。それを見たアイリスとセリカも同じ方を見た。
アイリス達の見た方角で数百メートル離れたところで何かが動いている。それが何かはアイリス達にはわからなかった。
わからないのは良く見えないからではない。それを何と呼べばいいのかわからなかったからである。
名称のわからない物が少しづつだがアイリス達の方に近づいている。なんだか少しづつ騒がしい騒音も大きくなっていった。
「あれ・・・何?もしかして猛獣!?」
得体のしれない物が近づいてくるのを見てアイリスは少し怯えた様子だった。
「お前たちはここにいなさい。私が見てくる!」
「あなた大丈夫なの!?なんだか鳴き声みたいなのも聞こえてくるけど・・・」
セリカが不安そうにシルバを止めた。
「よくわからないがこちらに近づいてきているんだ。ここで待っていてもしょうがないだろう・・・それにあれはおそらく進藤になにか関係があるんじゃないかと思うんだ」
「あれが・・・進藤お兄ちゃんと?」
「私の勘だがな・・・とにかく見てくる!」
シルバはアイリス達を残し、近づいてくる謎の物の方へ馬に乗り向かった。
次第に距離を縮めていくシルバ。ようやくはっきりと目視できる距離にたどり着いたときに驚きをかくせなかった。
近づいてきていたそれは轟音と共に地面をえぐり取っている。
「なんだこれは!?こいつは一体・・・」
あまり近づきすぎないように迂回しながらそれの前方に回り込むシルバ。
プップッー!!
突然の大きな音に馬も驚いた。
「なんだ!?」
突然の音に興奮している馬をなだめるシルバ。その次の瞬間聞き覚えのある声が聞こえた。
「おーい!シルバ!」
見るとそこには運転席から顔を出し叫ぶ進藤の姿があった。
シルバたちが獣かもしれないと恐れたモノの正体は進藤の動かすショベルカーだった。
「・・・進藤か!?」
進藤の姿を見て驚くシルバ。さっきの音は進藤が鳴らしたクラクションの音であった。
ショベルカーのエンジンを切り運転席から降りる進藤。シルバが馬に乗ったまま駆け寄ってきた。
「シルバどうしたんだい?どこかに行く途中だったのかい?」
事の顛末を進藤はあっけらかんに尋ねる。
「いや・・・君が返ってこないから心配して探しに行く途中だったのだが、その様子ならとりあえず無事のようだな」
進藤の姿を見てとりあえず安心した様子のシルバ。そしてその言葉を聞いて慌てる進藤。
「え!?そうだったの!?それはごめん!まさかそんなことになっていたとは知らなくて!昨日は連絡せずにごめん!」
頭を下げる進藤。
「まあ君が無事ならそれでいいさ。私たちも少し過保護だったのかもしれない。して・・・これは一体何なのだい?」
巨大なショベルカーを不思議そうに見上げるシルバ。
「ああ、これかい?これはそうだな・・・きちんと説明するのは難しいけど、力強い俺の相棒ってところかな?」
「相棒・・・?進藤がこれを動かしていたのかい!?」
「まあね!シルバたちにとっての馬みたいなもんさ!まあ見ててよ!」
自慢げに答える進藤。再び運転席に乗り込みエンジンをかけた。
ヴォォオオン!!
再び大きな音が鳴り響く。そして力強くショベルカーが地面をサクサク掘り上げていく。
「なんてことだ・・・こんなことが出来るのか!?」
それを見ていたシルバが口を開け驚いている。
「どう!?驚いたでしょ?これがあれば人間の何倍のもの力で地面を掘れるんだよ」
「はぁ・・・こんなものは初めて見たよ。それで進藤はこれで一体何をしているんだい?」
「えっと、それは・・・完成してからのお楽しみかな?」
まるで悪戯を計画してるかのような子供のように笑う進藤。
「ハハハ・・・そうか。それは楽しみにしとかないとな!アイリス達と共に家で待っているとしよう」
それを見たシルバもそれ以上は聞くまいと笑顔を見せ引き返していった。進藤はそんなシルバに自信満々に親指を立てた。
「いつの間にかアイリスの家の近くまで来てたんだな・・・全然気づかなかった」
昨日から休むことなく作業を続けていた進藤。ふと我にかえり辺りを見渡すと最早見慣れた景色だった。アイリスの家は目と鼻の先である。これならあと1,2時間もあれば作業を終えることが出来そうだ。
「よしっ!あと少し・・・もうひと頑張りだな!!」
気合いを入れなおし運転席に戻る進藤。 さらにショベルカーで掘り進みやっと目的のアイリスの家の側まで来ることが出来た。
「・・・終わったー!!」
目的の場所まで来ることが出来て安堵する進藤。ふと外に目をやるとそこにはアイリス達全員が揃っていた。アイリスとセリカはなんだか不安そうに見ていた。
それに気づき慌てて運転席から降りる進藤。すぐさまアイリス達の下に駆け寄った。
「・・・ごめん!俺が連絡しなかったせいで心配かけて本当に悪かった!!」
開口一番で謝罪した進藤。
「帰ってこないから心配したんだよ!?どこに行ってたの!?」
一番怒っている様子のアイリス。どうやら本気で心配してくれていたようだ。そんなアイリスに進藤はただ謝るしか出来なかった。
「いやー本当にごめん!この通りだアイリス!」
手を合わせ謝る進藤。それでも拗ねているのかアイリスはそっぽ向く素振りをする。
「・・・何してたのか教えてあげたら許してあげる」
ようやく譲歩の条件が出た。アイリスもただでは許したくない様子だ。
「それは・・・このためだよ!」
進藤はアイリスの言葉を聞き自信満々に答えた。進藤が指さした先には地面から一本の蛇口のついた水栓柱が設置してあった。
「これ・・・?」
進藤の指さした蛇口を見て不思議そうな表情のアイリス。それはシルバもセリカも同じようだった。
まあこれを見てもわからないのは無理もない。
「まあまあとっておきはこれからだ!良く見ててな!」
進藤は自慢げに言いアイリス達の目の前で蛇口を開けてみた。
・・・・スカッ
蛇口が開いて出てきたのは空気の抜けた音だけだった。
「今のは・・・?なんなの?」
ますます意味が分からないと言った様子のアイリス。シルバとセリカも顔を見合わせキョトンとしている。
しまった・・・!水道管を繋げたのはいいが元の湖のバルブを閉めたままだった。これでは水は出てこない。
「・・・あっ!そうだった!ごめん!あともう少しだけ待っていてくれ!すぐ戻ってくるから!!」
そう言い残し進藤は慌てて馬を借り湖に向かった。
湖に到着した進藤は湖の女神サラスを呼び出す。
「サラス・・・!出番だぞ!!」
一生懸命祈る進藤。少しして水面にサラスが顔を出した。なんだか寝起きのようだった。
「ふぁあ・・・なーに?昨日のお酒のせいで二日酔いみたいなんだけど・・・」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!今から水を通すから約束通りいいな!?このパイプの中の水質は信じていいんだよな!?」
「なんだそんなことなの?そんなに心配しなくてもそのパイプの入口の周りには私の加護が働いているから安心安全な水しかいかないようになっているわよ。安心して飲むといいわ」
「そうか!ありがとう!また今度お供え物持ってくるからな!!」
「ホント!?楽しみに待ってるわ!!」
現金な女神である。お供え物の言葉を聞いた途端元気になった。まあこのくらいはっきりしている方がなんとなく信用出来る気がする。
進藤は水門のバルブを全開にして急ぎアイリス達の所に戻った。
「あ・・・進藤お兄ちゃん戻ってきたよ!」
進藤の姿に気づいたアイリス。
息を切らすように進藤が再び帰ってきた。
「はぁ・・・はぁ・・・思わぬ道草食っちまった。さてここからが本番だ!心の準備はいいかい!?」
「う、うん・・・良いけど?」
なんとなく不安そうなアイリス。さっきの不発を見れば無理もないか・・・
「と、とにかくこれを見てくれ!これが俺のしたかったことなんだ!!」
そう叫び進藤は蛇口を全開に勢いよく開けた。
次の瞬間、蛇口の先からは透明な冷たい水が勢いよく出てきた。




