一章 11 『なんか思ってたのと違う!』
「ちょっと?いつまでぼうっとしてるのよ?」
「あ・・・ああ。悪い、あまりに唐突なことだったんで・・・」
湖の女神サラスに声をかけられやっと我に返った進藤。とりあえず立ち上がった。
あらためて女神サラスを観察する。こうやって見るとその抜群の華麗な容姿とビショビショな所を除けば普通の人間の女性と大差ないように見える。
たださっきの水を操作したところと水中から生身で出てきたところを見るとおそらく本当に彼女は女神という存在なのだろう・・・
「・・・なによ?そんなに見られるとなんだか緊張しちゃうんだけど」
「いやー、女神って初めて会ったもんだからビックリしすぎて・・・」
「フフ、まあそうでしょうね!本来人間と神が会うなんてことそうそうない貴重な事だもん!」
なんだか自慢げな様子のサラスだ。
「そうなのか?じゃあなんで俺の前に現れてくれたんだ?」
「そ、そりゃあ人間が熱心に祈りを捧げてるんだもん。私だって優しいからその祈りに答えてあげなきゃって女神の使命感から・・・」
グゥー・・・・
サラスが言い切る前に空腹を知らせる音が聞こえて来た。進藤からではない。サラスがしまったというような顔をしている。
「・・・お腹すいてるのか?」
「す、すいてないわよ!私女神なのよ!?神聖な存在であるはずの私がそんな節操のない女神にみえ・・・」
グルルル・・・・
ダメ押しの追い打ちだ。どうやら空腹が限界のようだ。サラスが顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしている。元々透き通るような白い肌だから余計に赤さが目立つ。
「あ・・・」
「その・・・なんだ。とりあえずそこのパンとワインはお供え物として持ってきた奴だから食べてもらって良いんだけど?」
「そ、そう?そこまで言われちゃ仕方ないわね!せっかく持ってきてもらった食べ物を粗末にしちゃ悪いし私が頂いてあげるわ!」
進藤の言葉に目を輝かせるサラス。しかし言動はあくまで気丈に振舞う女神サラス。人間に弱みを見せたらいけないというような規則でもあるのだろうか。なんだか気の毒になってきた進藤である。
「いただきますっ!」
よほど空腹だったのか備えてあったパンをあっという間に完食するサラス。さらに一緒に置いてあったワインも一気に飲み干した。
「マジか・・・」
サラスの食べっぷりと飲みっぷりに驚愕する進藤。見た目とのギャップが凄まじすぎる・・・
「ぷはぁー!!・・・久しぶりのお酒も最高だわ!一体いつ以来かしらねっ!」
「満足してもらえたみたいで良かったよ。そんなに久しぶりだったのか?」
「まあね!こんなところにわざわざお供えを持ってくるような物好きはそうそういないわよ?」
どうやらこんな田舎の湖だからなのかほとんど人が訪れることはないようである。なんだかこの女神が不憫になってきた。
「そうなのか・・・それならまた持ってこようか?今度はもっとたくさん・・・」
「ホント!?」
進藤がすべて言い終わる前にサラスが食いついた。目をキラキラさせて進藤に駆け寄ってきた。どうやら相当嬉しそうである。
「あ、ああ・・・俺もお願いする立場だし、可能な限り持ってくるようにするよ」
「キャー!やったぁ!君見た目以上に見込みのあるわね!なんでも言うこと聞いちゃうわよ!!」
そう言うとサラスは進藤に喜びのあまり抱き着いてきた。進藤の顔の部分に自分の胸のあたりを埋めさせるように飛びついてきた。
「えぇ!?」
突然のことにビックリして声を上げる進藤。中身はなんだかアレだがこんな美女に抱きつかれるなんてことはそうそうない。白い濡れたローブがサラスの体のラインを一際目立たせる・・・スタイルも悪くはない。その柔らかそうな胸が進藤の顔に近づいてくる。
柔らか・・・・くない!?
「っ!?ゴボッ!?ちょ・・・ぐはっ!?」
まるで顔面に放水されたかのように息が出来なくなった進藤。見た目からは想像もつかなかったがサラスの体は水そのものだった。勢いあまって進藤の顔がサラスの胸の中に文字通り沈んでいた。
慌ててサラスを引き離す進藤。危うく陸地で溺れ死ぬところだった・・・水の女神に抱きつかれて溺死なんて笑えない。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・死ぬかと思った・・・!」
四つん這いになり呼吸を落ち着かせる進藤。
「あっ、ごめーん!ちょっとテンション上がりすぎて加減間違えちゃった!大丈夫?」
謝ってはいるが悪びれている感じはしない。たぶんこの女神はこれが基本スタンスなんだろう。そう思うことにした。
「あ、ああ・・・大丈夫」
「そう、良かった!それで私にお願いってなんなの?」
「・・・そうだった!そのためにここに来たんだ!お願いって言うのはこの湖の水を分けてほしいんだ!」
「・・・?それだけ?別にわざわざ神に願ってまでするお願いがそれなの?それならこの湖じゃなくても川とかで水は汲めるでしょ?」
肩透かしを食らったかのような女神サラス。もっと難しいお願いを想定していたようだった。
「まあそう言われたらそうなんだけど・・・でもそうじゃないんだ!これは大事な事なんだよ!俺もまさかこんな直接的な交渉になるとは思ってなかったよ!」
「ふーん、なんかこうもっと・・・天変地異を願うかのような事かと思ったのに。まあよくわからないけど別にそれくらいなら構わないわよ?」
天変地異ってどんな願いだよ!そしてそれを頼まれたら」叶えるつもりだったのかこの女神は!?
「と、とにかく俺が言いたいのは、今度からこの湖から永続的に水をもらおうと思ってるんだ。だからそれに必要な作業の許可と水の安全性をお願いに来たって感じなんだ!」
「水の安全性ってそんなもん大丈夫に決まってるじゃない!」
自らのテリトリーの水の質を疑われたのが気にくわなかったのかサラスがムキになった。しかしすぐに落ち着き続ける。
「それよりも気になる言葉があったわ。永続的この湖から水貰う?そんなことが出来るの?」
湖の女神サラスが信じられないと言った表情をしていた。これには進藤も負けられないといった気持ちになる。
「・・・ああ!俺になら出来る!」
進藤は自信満々に答えた。
「へぇ・・・面白そうじゃない!いいわ!君が何をするのか気になるし、その願い聞き入れてあげる!女神サラスの名においてこの湖の水質は私が絶対に保証してあげるわ!」
「よしっ!それじゃあ契約完了だな!」
「ええ!・・・あっ、それと定期的にお供え物も忘れないでね?」
この女神意外と抜け目がない・・・まあ別にいいけど。
「わかってるよ!それじゃあこれからよろしくな!」
こうして進藤は湖の女神サラスと水をもらう契約を無事にすることが出来た。




