小話 カラオケ・デート
夏ツアー篇の完結記念小話として活動報告に載せていたものを加筆訂正しています。
元ネタはTwitterの方でやった診断メーカーのお遊び診断結果からの創作です。
「ん?」
部屋でポテチを摘まみながら雑誌を読んでいるとメールが入った。差出人を見て頬を緩めずにはいられない。
それは鷹尾翔からのお誘いメールだった。
「おまたせー」
とあるカラオケボックスのメールで指定された部屋に入ると、先に来ていた翔がニコニコと微笑んで手を振った。もう片方の手にはマイクが握られている。
「由紀、久しぶり」
本当に嬉しそうな翔を見て、私も嬉しい。それがたとえカラオケボックスの中だけのデートだとしても。
低いテーブルには、曲を入れる端末機とお菓子の載った皿と軽食が載った皿。そして、ウーロン茶とカルピスソーダのグラスが並んでいた。
テーブルの上を見ていた私に気付いた翔が申し訳なさそうにする。
「ごめんね、ドリンクとフード、適当に先に頼んじゃった」
私は左右に首を振る。
「ううん、だって、いくら鷹尾バージョンの格好をしていても歌ったらばれるもんね。女の子と来てるところ見られたくないんでしょう?」
「由紀には敵わないな。それもあるけど……でもそれだけじゃないんだ」
「どういうこと?」
翔の言う意味が分からなくてきょとんと首を傾げた。翔の表情がますます嬉しそうというか……にやついた甘い表情になる。
「店員に由紀との時間を邪魔されたくなかったんだ」
こういう時ばかりキラキラのアイドル笑顔で言うから困る。顔が火照るじゃないの。
「そんな顔の由紀も可愛い」
「もー、そんなことばっかり言って!! どんどん嘘くさく聞こえて来るんだからね!」
クスクスと笑う翔を一睨みしたが、伊達眼鏡の向こうの彼の瞳は楽しそうだ。
「で、どうしてカラオケ? 人目につきにくいから?」
アイドルの彼を持つと、堂々とデートも出来ない。それどころかデートする時間が取れたのもゆうに三ヶ月ぶりだった。
「そんなことないよ。まあ、人目につきにくい場所の部屋にしてもらってはいるけど、それでも監視カメラもあるし、ドアもすりガラス入ってるじゃない? 全くの人目につかないってわけじゃないよ、ここ」
「だよね」
個室だと思って不埒なことをするカップルもいれば、悪いことをたくらむ人もいそう。防犯対策が施されてるのは安心だけど、やっぱり誰にも見られないって訳にはいかないんだなぁ。
「実はね、これ練習なんだ」
「どういうこと?」
話を聞けば、今度バラエティー番組の企画でカラオケ機器の採点機能を使って高得点を出さないといけないらしい。今日はそれの練習なのだそうだ。
「ごめんね、完全なデートじゃなくて。でもこういう時でもなければまた会えなくなるから」
すまなそうな翔の表情に、私は文句なんて付けられない。思い出してくれて嬉しい。
「……カオルさんは?」
いつも一緒にいるユニットの片割れであるカオルさんは一緒に練習しないのだろうか。
「ああ、気を利かせてくれたみたいで、由紀ちゃん呼んだら?って言ってくれてさ」
自分のことを言われていても、なんだろう。この全身が痒くなるようなデレ。
「で、由紀がくる三十分前くらいに帰っちゃったんだ」
「そうなんだ」
「うん。課題曲の練習もしなきゃいけないんだけど、せっかくだから由紀のために何か歌うよ。リクエストある?」
その翔の言葉に、あこがれのアイドルが彼氏になった段階で少し褪めて来ていたK’sへの情熱が再燃した。
だって! 私のためだけにしっとりと甘いラブソングとか歌ってくれちゃうんだよ!?
プロの歌手が! カラオケボックスの個室で!
こんな贅沢なことない。夢なのかもしれないと頬をつねれば痛かった。
しばらくして、急に下半身がソワソワしてきた。ジュースを飲んだことによる生理的な欲求だ。
「ごめん、ちょっと……」
そう断って、ドアノブに手をかけるもドアは鍵がかかったみたいに開かない。行きたいと一度思うとその欲求は膨らんで、開かないドアに焦りを隠せない。
「どうしたの由紀。って! ちょっと画面見て!」
翔に呼ばれてガチャガチャしていたドアノブから手を離し、部屋の大きなモニターを見ると、真っ青な画面に白い文字が浮かんでいた。
「え……」
その文字を目で追って、私も、翔も絶句する。
なぜならそこには『どちからが全裸にならなければこの部屋は出られません』と書いてあったから。
「なにこれ、イタズラ?」
眉を潜めて呟く。
翔がふいに立ち上がった。
「イタズラかなんだか知らないけど、そうしなきゃいけないなら俺やるよ!」
「ええ!?」
男らしいんだか馬鹿なんだか、やっぱり残念な男だ。
「いいよ、内線で店員さんを呼んで開けてもらおう?」
内線電話を耳に当てるも、ツーと無機質な音が響くだけで繋がらない。
「だって、由紀トイレに行きたいんでしょう? 由紀に脱がせる訳にはいかないし、俺、やるよ」
そういって翔は男らしくシャツを脱ぎ捨てた。
下からは均整のとれた上半身が現れる。うん、まあここまではライヴでもたまに脱いでるからね。
キャッ!ととっさに顔を隠したけれど、実は隙間からじっくり見ていた。
「由紀ちょっと向こう向いてて」
「う、うん」
本当にベルトのバックルを外して、社会の窓のチャックの音がする。
「いくよ、見てろよ!」
誰に言ってるのかは知らないけど、翔が叫んでいる。
そして、今にも腰に手をかけて下ろそうとした途端に、ドアが開いた。カオルさんがヒーヒー笑って倒れこむようにして室内に入ると、すぐにドアを閉めた。 手にはどっきり大成功の厚紙。
「悪かった、カケル。お前がそんなにおバカだったとは。いや~ごめん」
翔がジト目でカオルさんを睨んでいる。
「どっきりだかなんだか知らないけど、カオル悪ノリしすぎ」
「大丈夫、カメラは回ってないから。由紀ちゃんも本当にごめんな。これスクープ過ぎて電波に乗せられないから大丈夫」
何が大丈夫なんだか。テレビの世界は怖いです。




