夏 9
高速バスの乗車券売場には大きな荷物を持つ人がたくさん並んでいた。
「由紀さぁ、本当のところどうなのよ。鷹尾のこと」
「どうって?」
なかなか進まない列に、今夜中にバスに乗れるのかと不安を感じる。
「だからさぁ、鷹尾のことどう思ってるのかってこと。言っとくけどさぁ、どこかで折り合いつけなきゃだめだよ。所詮アイドルはアイドルでしかないんだから」
「……どうしたの、いきなり」
麻里は前を向いたままでとなりにいる私にだけ聴こえる声量で呟くように言った。私に言ってるようで自分に言い聞かせるような言い方だった。
「あんたさぁ、鷹尾のこと本当は好きなんでしょ。小学生が気を引きたくて好きな子いじめてる姿そのまんまだよ」
「そうかな」
「そうだよ。高校生にもなって意味なく男子に突っかかって絡んでる女なんてあんただけだよ」
「アイツに地味にイラついてるだけなんだけど」
「だからそれがさ。常に目が追ってるってことじゃないの」
「ええ~! やめてよ」
「まあさ、鷹尾って今どき作りすぎなくらいパッとしないけど……でも頭いいし、顔だってねぇ眼鏡取ったら美形かも知れないよ」
少女漫画のテンプレみたいだけどさ。と、麻里が笑う。
「いい加減なところで現実見なよ、由紀」
麻里がからりと笑う。
「私さ、K’sの追っかけこの夏のツアーで卒業するね」
「え? どうしたの」
「本当鈍いな。彼氏が出来たって言ってるの! K’sの事はたぶんずっと好きだよ。でもさ、彼氏持ちがいくらアイドルっていっても他の男追いかけてたらダメじゃん?」
だから、と麻里が言葉を続ける。私はそれを黙って聞いていた。
「最後にバックステージツアーでK’sに会えて、最高の思い出になったよ。あんたはそんな気はなかっただろうけど、ありがとうね。一応お礼言っとく」
お礼なんて言われることしていないのに。
前の人が乗車券販売機の前から退いた。麻里が財布を取り出す。
後で返すとはいえ、一時は多額の借りが出来るのだ。申し訳なさに顔を伏せた。
「しっかし、ホテルは取ってない、財布は落としたでよく生きていられたね」
自動販売機に千円札が一枚ずつ吸い込まれていく。
現金三千円の事情を財布を落としたせいにして麻里に話していた私は、ますます申し訳なさと嘘をついている罪悪感に項垂れた。
麻里が東京行きの乗車券ボタンを押した。行き先が印刷された乗車券が一枚吐き出された。
一枚……?
「やっぱり由紀の分、買うのやーめた」
その意外な台詞に顔をばっと上げて麻里を見た。麻里は私の方に向いているようで後ろを見ている。
「由紀迎えが来たよ」




