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第9話「魔法の力」

「ファル、何か知って……」

「うーん……僕が得意なのは、お菓子作りだからなぁ」


 期待を込めて助けを求めてみたものの、返ってきたのは頼りになるんだかならないんだか分からない答え。


「っ、こうなったら、揺らすしか……」


 この世界の案内役でもあるファルネットなら何か知っているかと思ったのに、肝心の本人はのんびりと首を傾げたまま。

 サポートキャラクターなのに、肝心なところで全然サポートしてくれない。


「風魔法、いる?」

「頼む」


 こういうとき頼りになるのは、サポートキャラではなく、攻略キャラらしい。

 そんなことを思っている間にも、リアムは杖をシュガーツリーへとかざしていた。

 次の瞬間、理想通りの風が巻き起こる。


「って」


 期待するような奇跡は起こらなかった。

 風魔法を受けて、強大なシュガーツリーはゆっくりと揺れる。

 枝葉がざわめいているのが分かるのに、白砂糖は欠片も落ちてこない。

 蜂蜜らしきものも、驚くほど垂れてこない。

 拍子抜けするほど、何も起きない。


「多分……魔力の無駄遣いだと思う……」


 揺れるだけ揺れて、成果はゼロ。

 これ以上、魔力を消費させるのも申し訳なくなって、俺はリアムへ魔法を止めるように合図を送った。


「魔法は使えるのに、こんなに無力さを感じるなんて……」

「どうしよかな……」


 西洋風ファンタジーらしい力があっても、解決できないことは普通にあるらしい。

 少なくとも風で揺らす、叩き落す、削ぎ落す。

 これらの物理的な方法では、シュガーツリーから大量の砂糖を収穫することはできそうにない。


「二人とも~、舐めると、すっごく甘いよ~」


 シュガーツリーみたいに真っ白なマスコットキャラクターをしているファルは、うさぎを模した小柄な体で枝へとしがみついた。そして、指先についた砂糖を嬉しそうに舐めていく。


「とりあえず、樹に仕掛けは施されてないってことだな」

「舐めて帰るっていう観光目的なら、いい思い出になるかも」

「それは勘弁してくれ……」


 掌に乗るほどの大きさなのに、ファルが飛び回るたびにきらきらと細かな砂糖が大樹から舞い落ちる。


(けど、相変わらず量が足りないよなー……)


 風魔法で揺らすよりは、ファルに飛び回ってもらった方が、まだ収穫量は増えそうだった。

 だが、サクラとのお菓子作り対決に使う分も、販売用の菓子に回す分も、とても賄えきれそうにない。


「未来に希望は、ありそう?」


 どこか他人事のような言い回しで、リアムが声をかけてくる。


「あってほしいから、考えてんだよ」


 半ば意地みたいに言葉を返すと、リアムの肩がわずかに動いた気がした。


(……笑った?)


 けれど、リアムが俺を見ることはない。

 俺たちの視線はずっと、目の前のシュガーツリーに向けられたままだった。


「ん?」


 シュガーツリーの枝葉の間を、ファルが忙しなく飛び回る。

 砂糖を食べているせいか、さっきから俺たちの頭上にはぱらぱらと白い粒が降ってくる。

 俺たちは肩に落ちた砂糖を軽く払うが、相変わらず量は心もとない。


「やっぱ、風魔法よりは効率が良さそうだよな」

「風にはできなくて、ファルにはできることってこと……?」


 その違いがなんなのか、頭の中で考えてみる。

 けれど、魔法の知識がまったくない人間に答えが簡単に見つかるはずもない。


「魔法の知識があるリアムでも、お手上げかぁ……」


 魔法に関する知識を持っているリアムと、感覚だけで物事を進めている俺が揃っても、原因を突き止めることはできないらしい。


「試合が明日の夜なら……明日、街の人に聞いて回るのもありかも」

「でも、この世界って、砂糖の需要がほとんどないんだろ?」

「子ども向けなら、甘いお菓子が……」

「でも、子ども用にお菓子を作る人間と、そう都合よく出会えるか?」


 ゲームの世界に、攻略不可になるような頭を抱えるような展開は用意されていないはず。

 どこかに次へ進むためのヒントが用意されていると思って、あらためて周囲を見渡す。


「ニコも、リアムも、砂糖食べる~?」


 無邪気な声とともに、ファルがシュガーツリーの枝から枝へと楽しげに飛び移る。

 ぱらり。

 ぱらり。

 揺れた枝先から、雪のような白さを誇る砂糖が零れ落ちてくる。


「糖分でも補給して、少し頭を休めるか……」


 肩の力を抜きながら、宙を舞うちっちゃな背中を目で追う。

 ファルが飛び回るたびに、シュガーツリーは機嫌よく砂糖を落としてくれる。

 見ているだけなら、どこか幻想的で癒やされる光景。



(たとえ一日中飛び回ってもらったところで、集まる砂糖なんてたかが知れてるよな……)


 結局、考えは振り出しへ戻ってしまう。

 ひらひらと舞い降りてきた砂糖を受け取ろうと手を差し出すと、ファルの影が降りてくる。


「ありがとな」

「どういたしましてっ」


 弾んだ声と、声優さんの芝居で生き生きと動くマスコットキャラのファルの存在が、今や何よりの癒しだった。


「いただきます」


 砂糖をひとつまみ、ファルと一緒に口へ運ぼうとする。

 その際に、シュガーツリーを見つめたまま動きを見せないリアムが視界に映る。


「リアムは、やっぱ食わねーの?」


 この世界では、甘いお菓子は子どもが食べるもの。

 大人が口にしてはいけないという決まりはないが、甘いものは子どもっぽいという先入観が強い足かせになっている。甘いものを食べたい大人たちは、その先入観に囚われたまま。

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