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第4話「性格が悪いなら」

「また、リアムから酷い仕打ちを受けると思ったら、私……私……」

「大丈夫だ、サクラ。君の傍には、俺がいる」


 これが乙女ゲームの世界というのなら、サクラの目的はエルとの両想いを目指すこと。

 モブキャラ(俺)とサブキャラ(リアム)の目的は、リアムのばーちゃんの店を再検視することで破滅ルートを回避すること。


(リアムは、復讐を望んでない)


 俺たちの現段階での目標は、砂糖と小豆を入手すること。


(砂糖は、リアムがなんとかしてくれる)


 砂糖を入手するために、自分たちが列車に乗っていることを思い出す。


(問題は、小豆だよな)


 列車に乗って旅に出たところで、肝心のおはぎの材料である小豆が手つかずになっている。


「早くここから立ち去れ……」


 エルの担当声優さんの低音美ボイスを最後まで聞きたかったが、その台詞に被せるように俺は一歩踏み出した。


「エル様と、サクラ様にお願いがあります!」


 リアムは展望車両に来てから、ずっと俺の方を見ようとしない。

 窓の外に視線を向けたまま、完全に沈黙を貫いている。


「俺……リアム様から、碌な扱いを受けてなくて……」


 わざと視線を外して、声も弱く聞こえるように調節する。

 すると、それまで景色を楽しむフリをしていたリアムが、ゆっくりとこちらに視線を向けてきた。


(リアムは、誰かを見下したりするような奴じゃない)


 その目はどこか冷たいようにも思えたが、それこそが演技だと気づかされる。


(俺が動きやすいように、わざと……)


 なら、やることは一つだ。


「でも、俺だって夢を見たいです……!」


 息を整えながら、人生初めての芝居ってやつに心臓を高鳴らせていく。


「エル様、サクラ様、助けてください……!」


 わざとらしいって笑われるくらいの大根芝居かもしれないが、嘘を吐いていないってことが唯一の救い。


「貧民の俺に、慈悲を……!」


 勢いのままに膝をついて、床に手をつく。


「どうか……どうか、お助けください……!」

「っ、顔を上げろ」

「このままでは、何もかも失ってしまう……!」


 嘘を何ひとつ履いていないこともあって、それらしい芝居を組み立てられてるんじゃないかって自画自賛。


(……見てるな)


 こっそりとサクラの顔を確認し、彼女が俺とエルのやりとりを観察しているのが分かった。


(もう一押しだ)


 縋るように、ほんの少しだけ顔を上げた。


「お願いします……! エル様とサクラ様なら、ちっぽけな俺の願い……叶えられるはずです……!」


 サクラと視線が交わる、その一瞬を狙った。

 必死さを装いながら、この場で最大の権力を持っているサクラの反応を逃すつもりはなかった。


(リアムがくれたチャンス、絶対に活かす)


 助けてくれるのか、それとも。

 ゲームのシナリオ通り、切り捨てられるのか。


「お可哀想に」


 声優さんの声は、偉大。

 どこか呆れを含んでいるのに、その声には哀れみすらも感じ取れる優しさが含まれている。


「ニコさん、顔を上げてください」


 サクラに促され、俺はわざとらしいくらいゆっくりと顔を上げる。

 そこにはサクラとエルの二人が、真っすぐに俺のことを見下ろしていた。


(望んでた反応、きた)


 エルの目には、まだわずかな警戒心が残っている。

 だが、少なくとも、出会ったときのような冷めきった視線じゃないことに安堵する。


「サクラ、随分と芝居がかった言い回し……」


 エルには、やっぱり見抜かれていた。

 だが、隣にいるサクラを味方につけられるかどうかが最も重要。


「ここまで必死に頼られて、無下になんてできません」

「サクラ……」

「ニコの願いを、聞き入れましょう」


 サクラの一言を受けて、口元が緩みそうになったのは言うまでもない。


「っ、何を望んでいるんだ」

「……感謝いたします」


 ここで気を抜けば、今まで積み上げてきたもの全部が崩れる。

 サクラはともかく、エルはそんな失態を見逃すほど甘くないと気合いを入れ直す。


「俺が欲しいのは、小豆という名の食材です」

「小豆?」


 エルの眉が、わずかに動くのも無理はない。

 なぜなら乙女ゲーム『お菓子の国の魔法使いと恋のレシピ』の世界で、まだ小豆という文化は浸透していないのだから。


「生まれ故郷で、よく食べた作物です」


 もう一度だけ頭を下げ、声が震えすぎないように抑えていく。


「その、小豆さえ口にできたら、俺、また……リアム様の元で……」


 芝居が長くなればなるほど、不利な状況に追い込まれてしまう。

 簡潔に言葉を述べることを心がけているが、これでエルが納得してくれるかどうかは不安だった。


「アズキとはなんなのか、説明しろ」


 エルの表情は変わらず、俺に鋭い目線を向けてくる。

 こういうのをきっと、心の奥まで見透かされているようなとか表現するんだと思う。

 でも、今は、そんな言い回しはどうでもいい。


(利用しろ……あと三日しかないんだぞ……)


 小豆さえ手に入れば、この二人と関わる理由もなくなる。

 リアムの人生からも、主人公(サクラ)を完全に切り離せる。

 小豆を入手さえできれば、エルは俺の人生に関係なくなる。

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