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第3話「乙女ゲームには、プレイヤーがいる」

「っていうか、どこを歩いても学園の生徒ばっか……」


 列車の通路を進むと、視界に入るほとんどが魔法学園の生徒たち。

 リアムは乙女ゲームに登場するキャラクターということもあり、どこへ行っても目立つ容姿をしてしまっている。

 おかげで、リアムには生徒たちの冷たい視線が向けられる羽目になった。


「顔、隠そうか?」

「いや、リアムは悪くないんだから、堂々としてろって」


 煌びやかな制服を着ている連中は、どこか得意げな顔をしている。

 その一方で、退学させられたリアムは場違いな存在に扱われる。


「学園の恥さらしが……」

「研修旅行に参加したいなんて、未練がましい……」


 心無い言葉が耳に届くけれど、いちいち足を止めてはいられない。

 外の空気を感じるためにも、ただひたすらに俺たちは列車の中を突き進んだ。


「列車の中で浴びる風、気持ちいいんだろうなぁ」

「風なんて、どこで浴びても同じだと思うけど」


 この列車の中には、走行中でも風を感じられる展望車両と呼ばれる場所がある。

 だが、裕福な家の坊ちゃんやお嬢様たちには、あまり評判がよくない。


(風で髪を乱したくないのか、乱したらダメなのか)


 どちらにしたって、外見を気にして生きていかなければいけない生徒たちが展望車両に近づくことはない。

 お金持ちの皆様は外の景色に目をやるよりも、車内でのんびりとしていた方が気楽だろうから。


「目的地に着くまで、貸し切り……」

「話し声がする」


 リアムの案内で展望車両までやって来たはいいが、扉の向こうからは話し声が漏れ聞こえてきた。


「えー……誰だよ、こんなところに来るなん……て……」

「静かに」


 耳を澄ませると、聞き覚えのある声が響いてきた。

 響くという表現に相応しい綺麗な喋りは、まさに声優さんが演じているキャラクターのものだと気づく。


(この声は、エルベルト……)


 展望車両の中にいるのは、攻略キャラクターの一人であるエルベルト。

 リアムと同じ学年に在籍していて、精巧に作られた人形のように整った顔立ちをしている。

 常に冷徹で計算された表情を浮かべているところが特徴的だが、主人公殿好感度が高まることで別人のように表情が和らぐ。いわゆる溺愛男子へと変貌する。


(じゃあ、もう一人は誰……)


 扉の向こうから聞こえる声に耳を澄ませていると、扉に手をかけていたリアムが動き出した。


「リアム……」


 リアムの動きには一切の迷いがなく、何事もなかったかのように冷静で堂々としていた。


「盗み聞きしてる方が危険」


 突っ込みたい気持ちも、反論する隙もなく、俺は口を閉ざした。


(こういうところが、破滅ルートに誘われてるって感じもするけど)


 すべてを諦めたような目をしているリアムよりも、自分の意志で行動するリアムの方が何百倍もかっこいいと思えた。


「失礼します」


 リアムは俺を無視するように扉を開けて、エルベルトを迎えに行った。

 躊躇いなく扉が押し開けられ、風が一気に流れ込んできた。中にいた人物たちの視線が、一斉にこちらへと向いた。


「久しぶりかな、エル」

「誰かと思ったら……リアムか」


 展望車両で待っていたのは、予想通り攻略キャラクターのエルベルト。それに加えて、見覚えのない女生徒が一人。


(ここで知らないキャラは出てこないよな)


 女生徒の金色の髪がふわりと風に揺れ、大きな瞳はきらきらと輝いて見える。


(モブキャラではなさそうだから、プレイヤー(主人公)か……?)


 まるで自分の存在が当たり前のように、女生徒はエルベルトの傍にぴたりと寄り添っている。


「退学したおまえが、どうしてここに?」

「旅行。別に、深い理由はないよ」


 リアムはちらりと俺に目を向け、それからまた展望車両の景色へと視線を戻した。


(なんだ?)


 少し戸惑いながらも、俺も足を踏み出して景色を楽しもうと動きかけたときのことだった。


「お久しぶりですね、リアム様」


 リアムは展望車両にいた二人を無視するつもりだったが、二人はリアムの思う通りにはさせてくれなかった。


「様付けなんて、いらない」


 リアムの言葉を受けて、女生徒はにっこりと微笑んだ。

 彼女の笑顔には、どこか不穏なものを感じる。


「お隣にいらっしゃるのは……」

「あー……俺は、ニコ。リアム様の付き人です」


 なるべく滑らかに、会話を続けたかった。

 でも、正体不明の女生徒を前に、どうしても上手く言葉が出てこなくなる。


(正体を探るよりも、エルを味方にする方が先か……?)


 リアムは相変わらず、この場にいるメンバーを無視して展望車両の景色に目を向け続ける。

 そんなリアムの様子を見て、女生徒は仕方なく俺に話しかけてきたんだろう。


「驚きましたわ、リアム様に付き人がいらっしゃるなんて」


 けれど、肝心の俺は、主人公との会話に集中している余裕なんてない。

 頭の中では、次の攻略方法を考えることで精いっぱいだった。


「サクラ、それ以上は関わるな」

「エル、でも……」


 女生徒の名前が日本風だったことから、女生徒は恐らくプレイヤー(主人公)だと察する。


(サクラ次第で、世界の運命は簡単に変えられるってことか)


 サクラがエルを攻略対象に選んだことが理由で、リアムは破滅ルートに追いやられたことが確定した。

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