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悪魔侯爵と騎士夫人の真っ黒な結婚  作者: 陸路りん
第2章 屋敷のボスを攻略せよ!

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56.戦闘再開!

 ディアナは再びブレンと向き合った。

「もうお話はよろしいのですかな?」

「ええ、いいわ」

 そう答える声に迷いはなかった。さきほどまでの怯えや迷いは消え失せ、ただその黄金の瞳は意思だけを伝えてくる。

「再開しましょう」

 おまえを斬る、という意思だけを。

 それにブレンは満足げに鼻を鳴らした。

「では」

 その瞬間、ブレンの姿がかき消える。

「始めましょう」

 声はディアナの耳元でささやいた。

「……っ」

 ディアナは瞬時に剣を振る。それは彼女の右側にいたブレンの爪を受け止めた。

 さきほどまでと同じように、彼女は力を逃がすように攻撃をそらしてくる。それはそうだろう。もしもまともに受け止めるようであれば、ブレンは全力を持ってその剣をたたき折る。

 それが主の剣であったとしても、戦いの最中であれば関係はない。むしろ、戦いの中で折れるのならばその剣も本望であろうとすら思う。

 ブレンの死角をつくように刃が飛んできた。しかしブレンはそれを右手で受け止める。彼女の剣は一本しかないが、ブレンの爪は両手ともにある。その時点で手数的にはブレンのほうが有利なのだ。

 しかしそれにも関わらず、ブレンの側から決定だを出すことはできていなかった。それくらいにディアナの反応速度が速く、また、剣の技巧が上なのだ。

(さすが……)

 感心はする。素晴らしい腕だ。しかし体力と筋力の差が二人の間には横たわっていた。このまま続ければ、いずれはディアナが折れる。

 体力的に疲弊するか、それともその腕が攻撃に耐えきれなくなるか、それは時間の問題である。

「降参してはどうですかな?」

 戯れにブレンは問いかけた。それに応じるはずはないとわかっている。しかしせっかくの久しぶりの戦闘だ。楽しみたいという気持ちがブレンの口を軽くさせた。

「うーん、そうねぇ」

 対してディアナの返事は上の空だった。攻撃に集中している、というには間延びした緊迫感のない話し方だ。その気の抜けたような相づちの後、ディアナの姿は唐突にかき消えた。

(……!? どこに……っ)

 その唐突な消失に一瞬戸惑うが、すぐにブレンの優秀な耳と鼻はその気配を捕らえる。

(下!)

 どうやら彼女はブレンの下に倒れ込んだようだ。

 しゃがんだわけではない。だとしたらそのための予備動作で察することができたはずだ。おそらく彼女は意図的に自ら後方に倒れ込んだ。

(……剣!)

 風を切る音がする。目でディアナの位置を視認する余裕はなかった。しかし問題はない。視認などしなくとも、彼女の位置も、下から顎を狙って剣が突き出されたことも音でわかる。のけぞるブレンの顎すれすれを、その黒い影は突き抜けていった。

(避けた……っ)

 驚いたがこれならばブレンの方が優位である。

 彼女は今大の字に地面に寝そべっているはず。のけぞっただけのブレンと寝そべるディアナ。どちらのほうが姿勢を整えより早く攻撃を繰り出せるかなど考えなくてもわかる。

 ましてや相手はこの攻撃でブレンのことを仕留めるつもりだったのだ。その一瞬の気の緩みはタイムラグとなってブレンに有利に働くはずだ。

 背筋を使ってブレンは後方に倒れ込むことなく姿勢を保つと素早くのけぞった上体を戻す。そして爪を振り下ろそうとして、

ーーありえないものを見た。

(……なぜ?)

 もうすでに起き上がり、こちらに剣を向けているディアナの姿を。

「……っ、おおお……っ!!」

 戸惑っている時間はなかった。雄叫びをあげて爪を繰り出す。しかしそれよりも早く血飛沫があがった。

 喉が焼けるように熱い。

「ーーごめんなさい」

 痛みにうめくブレンに、彼女は困ったように首をかしげてみせた。

 その手に持った剣はブレンの首にしっかりと食い込んでいる。

 対してブレンの爪はディアナの喉に届く寸前で止まっていた。

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