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悪魔侯爵と騎士夫人の真っ黒な結婚  作者: 陸路りん
第2章 屋敷のボスを攻略せよ!

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31.嫌がらせの理由は?

 さて、とはいえいつまでも途方に暮れていてもしかたがない。幸いなことにディアナは体力仕事は得意だ。

(時間制限さえなければ大丈夫なんだけどなぁ……)

 もしかしてこれ、今日中に全面終わらせなくてはならないとかあるのかしら? と首をひねりながら、ディアナは掃除に取りかかった。

 まずは目に付いた雑草から引き抜く。ある程度雑草を取り終わってから掃き掃除はしたほうがいいだろう。

 ふんふんと鼻歌交じりに雑草をむしる。田舎住まいの貧困貴族にとって畑仕事はライフワークだ。雑草は家畜の餌にもなる。手慣れた仕草でディアナは仕事を進めた。ーーと、そこに、

「きゃあああっ」

 悲鳴があがった。

 驚いて振り向くと、

「……ネル?」

 がいた。

「奥様ぁっ! 見かけないと思ったら一体何をなさっているんですかっ!!」

 ダークブラウンの目に褐色の肌。間違いなくディアナが今着ているメイド服を貸してくれたメイドのネルだ。

 彼女は大慌てでディアナへと駆け寄ってくる。

 その顔面は蒼白だ。

(『何をなさって』……?)

 その質問にうーん、とディアナは首をひねった。

「雑草とり?」

「なんで! よりにもよって! 一番の体力仕事をしているんですか!! せめて屋敷内で働いてください!!」

「ええー……」

 そんなことを言われても困る。仕事を選んだのはディアナではないのだ。

 しかしそんなディアナをよそに「もうっ、誰ですかっ、こんな仕事を指示したのはっ!」とネルはぷんぷん怒っている。

「っていうか! 他に人は? なんで奥様お一人なんですか!?」

「うーん……、わたし一人に庭掃除の仕事が割り振られたから……?」

 そのディアナのあやふやな返答に、彼女は目を見開いて髪の毛を逆立てた。

「はぁ……っ!?」

 その声量に思わずディアナは両手で耳を塞ぐ。

「なっ、なっ、な……っ!!」

「お、落ち着いて、ネル」

 そのままわなわなと震える彼女に、ディアナはどうどうと動物をなだめるように手を動かした。

「どうやらルリハリブラザーズに嫌われてしまったみたいなの」

「はぁっ!? あいつら……っ!!」

 ネルはおもむろに腕まくりをした。

「前からいけ好かない野郎共だと思っていたけど! 今日という今日はただじゃおきません! 奥様に一体なんてことを……っ!!」

「待って待って! ネル待って! 二人はわたしがディアナだってことは知らないのよっ! メイドのアイリスだと思っているのっ!」

「奥様っ!」

 ネルの腰をひょいとつかんで持ち上げて引き留めるディアナに、持ち上げられたままネルは血走った目で振り向いた。

(まるで羽のように軽いわ、ネル)

 さすが伊達にいつもぴょんぴょんと跳ねていない。しかしその声量と威圧感は決して体重に反して軽くはない。

「あいつらは奥様が奥様であることをわかっているに決まっています!!」

「ええ……?」

「白狼族ですよ! わからないはずがありませんっ!」

「それはさすがに無理矢理すぎないかしら……?」

 ぽやっと首をかしげるにディアナに、ネルはぴしゃりと告げた。

「あいつらは鼻がきくんです!!」

「……!」

 ディアナは驚きに目を見開く。

 そのままぱちぱちと瞬きをした。

(確かに……)

 彼らは狼の獣人だ。人よりもその五感と身体能力は優れているという話は聞いたことがある。

 ディアナ自身、彼らと接した記憶はないが……、いつも殴られすぎて意識がもうろうとしていたディアナだ。記憶にないだけで接触していた可能性はある。その時にディアナの匂いを覚えていたとしたらーー。

(……ん?)

 しかしそれが判明したところで……、ディアナは再び首をこてんと傾けた。

「え、でも、なんで嫌がらせされるの?」

 彼らにとってディアナなどよく知らん女でしかないだろう。わざわざいじめの標的にする理由がわからない。

(なにか恨みを買うようなことしたのかしら……?)

 うんうんうなって考え込むが、心当たりがまるでない。

「奥様!」

 悩むディアナにずずい、とネルは顔を近づけてきた。その表情は険しい。

「理由なんてないんです!」

「ええ……」

「あいつらはケダモノです!」

 いまだにディアナに持ち上げられたままネルはじたばたと暴れて熱弁をふるう。

「あいつらは強さにしか価値を感じない生き物なんです! だから自分よりも弱い奴らのことはなめ腐ってるんですよ! 特にあいつらは家令のブレンさんの甥っ子だとかでみんな逆らえなくて……っ!」

「なるほど……」

 家令のブレンの顔を思い出す。系統は違うがブレンも整った顔立ちをしている。そして髪の色も耳もしっぽも同じだった。

「たぶん、奥様のことも……」

 さすがに暴れつかれたのかネルは体の力を抜いた。

「『先日の一件』で目をつけられたんだと思います。確かあいつらは葬儀に出席していませんでした。だから実際に奥様のお強さを見てはいないはずですが……、だからこそ、奥様の技量を図ってやろうというつもりなのかもしれません」

「……なるほど?」

 ディアナはとりあえず今すぐに走って行くつもりはなくなったらしいネルのことを地面に下ろした。

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