19.騎士夫人ディアナ
申し訳ありません。諸事情により、本日から投稿時間がお昼の12時前後になります。
毎日投稿は変わらずです。
ご迷惑をおかけしますがどうぞよろしくお願いいたします。
騎士達があんぐりと口を開けてこちらを見ているのがわかった。
(ああ……)
くらり、とめまいがする。ディアナの足がよろけた。
「姉さんっ!」
遠くから声がした。見ると弟のアルノルトが駆け寄ってくる。ディアナは目に落ちてくる返り血をぬぐおうとして、その手も真っ赤に染まっていることに気がついた。自身の体を見下ろすと全身血まみれでぬぐうのに使える部分などどこにもなかった。
「姉さんっ、大丈夫!?」
「……思ったよりも、なまっていたわ」
しゅん、とうなだれてディアナは言った。それに一瞬アルノルトは言葉に詰まると、なぐさめるようにその肩を叩く。
「大丈夫。今でもバケモノ級に強いから」
「そんなことないわ……。ちょっと走っただけなのに息が苦しいの……」
「うん、そりゃそうだよ。あんな曲芸したらね。姉さん、ほんとに性格と行動が見合ってないよねぇ。その性格さえなければ……、天下取れてたよ、ほんと」
さきほどディアナが思い出した言葉をそのままそっくり言われる。
耳にたこができるほど聞き飽きた言葉だ。そしてその言葉の後にはだいたい「ご先祖様に本当にそっくりだ」という言葉が続くのだ。
「ご先祖様も、姉さんみたいに厄介な性格で旦那のためにしか剣を取らない『女騎士』だったらしいよ」
「知ってるわ……」
それも本当に聞き飽きている。酸欠でぼんやりとしながら、彼女は「天下も取らないわ……」といつものように否定しておいた。
いや、いつも通りではない。だってディアナは決めたのだ。
彼女は血液の重みでたれてきた前髪をかき上げながら弟を見た。したたる血の隙間から覗く黄金の瞳が鈍く輝く。
「でも『悪魔の騎士』になることは決めたわ」
「は?」
怪訝な顔をする弟のことは無視して、ディアナはエリアスのほうへと足を踏み出した。
(エリアスは、わたしのことを命がけでかばってくれた……)
ならば、その恩義にはディアナも命がけで報いなくてはならない。
(わたしは悪魔にでも、騎士にでもなる……)
どうせカークスを殺したことでディアナの地獄行きは確定なのだ。もうディアナは守られる立場にはない。加害者だ。それならばせめて、恩人を守るために残りの人生を使いたいと考えるのはあまりにも不謹慎だろうか?
(けど……)
思ってしまったのだ。彼の騎士になって、彼のことを守りたいと。
せめていつか地獄が迎えにくる、その時までは。
「エリアス……」
ディアナはずるずると血液をしたたらせながら彼に近づく。
側までくると、彼が真っ青な顔をしていることに気がついた。
「大丈夫……?」
「ええーと、」
エリアスはごくり、と唾を飲み込みながら口を開く。
「なんと言ったらいいか……、今とても動揺していまして……」
その言葉にディアナはきょとんとする。そのまま彼の視線をたどり、自身のことを見下ろして納得した。
ビリビリに破れた真っ黒なドレスに全身からしたたる血液。片手には剣を携えたその姿は……、なるほど、ホラーだ。
そして同時に彼の懸念にも気がつく。彼女はうんうんとうなずいて言った。
「大丈夫よ。わたしはカークスとは違って暴力をふるったりはしないわ」
ディアナが意外に暴力的な人物だと知って彼は不安なのだろう。
そう理解した彼女は彼の手を取る。しかしその手はぬるりと血で滑った。ディアナは剣を彼の腰のさやへと戻すと、自由になった両手でむりやりその手をつかむ。むせかえるような鉄の匂いがした。
彼女のその黄金の瞳はどこまでも優しく、花のようにはにかんで微笑む。
「一緒に地獄に落ちるんでしょう?」
表情は可愛らしいが、血まみれで魔獣を倒した後のその言葉は、脅迫めいていてそら恐ろしかった。
「……ええ、ええ。……わかりました。そうですね、責任を取りましょう」
しかし腹を決めたようにエリアスはうなずく。その青い瞳に浮かんでいるのは……、悲壮な覚悟と責任感だ。
「つまり、あなたに殴り殺されても文句をいいません」
やべぇ女を覚醒させてしまった。
その顔にはでかでかとそう書かれていた。
「……一緒に地獄に落ちましょう」
彼は血まみれのディアナの手を握り返す。そして諦めたように笑った。
「どうせなら、共にこの世界を変えてから」
その言葉に彼女は一瞬目を見開き、そしてすぐに嬉しそうに破顔した。そしてこくこくと無言でうなずく。
それは春の訪れを知らせる精霊のように可憐な笑みだった。
おもしろいなと思っていただけたらブックマーク、⭐︎での評価などをしていだだけると励みになります。
よろしくお願いします。




