13.美しい魔女ディアナ
レーヴライン領の教会はとても豪奢である。
大理石で削り出された柱に美しい色彩が何色も使用されたステンドグラス、床もすべてが大理石ですみからすみまでほこりひとつなく清掃されている。美しい陶器の花瓶にはみずみずしい春の花が飾られ、手入れがよく行き届いていた。
そしてなによりも教会の中心部。そこにはこの教会の心臓とも呼べる、美しい女神像が燦然と輝いていた。
やはり大理石でけずりだされて作られたそれは、優美な曲線を描いて美しい。しかしその身に飾られた宝石や金の飾りは華やかと呼ぶには派手すぎた。
けばけばしい、と言い換えても良いかもしれない。
しかし参列者たちはそのようなことは態度にも出さず、そっと口を謹んで祈りを捧げた。
「なぁ、聞いたか……?」
しかし噂話を完全におさえることはできないのが人のさがだ。
まだ主役であるレーヴライン侯爵一家とカークス・レーヴラインの遺体が入場していないとあって、参列客たちはひそひそと話し合った。
「今回の事件、強盗にやられたんだってよ」
「あの武勇をほこっていた乱暴者のカークスが、強盗にやられたのかよ」
「まだ捕まってないっていうから俺たちも人ごとじゃないけどな」
「それよりもあれ、妻がいただろ。カークスには」
ひそひそと囁きあう。
「ああ、レーヴライン侯爵夫人な」
「なんでも酷い暴行を受けていたらしい」
「それ俺も聞いたわ」
話していた男は顔をしかめた。
「愛妾がいるのはともかく……、妻に暴力をふるうとか正気のさたじゃねぇよな」
「そんなことするくらいなら離縁してやりゃいいのに。あいつのほうが地位が高かったんだろ?」
「だからだよ。相手方がなにも言えないと思って好き放題やってたらしい」
「なら夫人も安心だな。疫病神がいなくなってよ」
くすくすと吐息で笑う。
「かわいそうにな。慰めたらころっと転がってくるんじゃないか? そうすりゃレーヴライン領の一部は俺の物だ」
「馬鹿抜かすな。まだあの家にはエリアスがいるだろ」
「確かになぁ」
「かわいそうに。暴力野郎の次は策略家に手玉に取られるのか」
「レーヴライン侯爵家の方々がご到着されました」
その知らせの声が響くと同時に噂話は瞬時に静まった。みな真面目で沈痛そうな表情をうかべ、教会の扉を見守る。
しかしその瞳には隠しきれない好奇心もあった。
『あの』可哀想な引きこもりのレーヴライン侯爵夫人はいったいどんなみじめな女なのか、という好奇心だ。
みなの期待のまなざしの中、その扉は開いた。
はじめに出てきたのは真っ黒な棺だ。生前のカークスの長身に合わせた大きなそれは、八人がかりでゆっくりと運ばれている。そのすぐ後方に控えるのは前レーヴライン侯爵夫人、つまりカークスの母のハンナ、そしてその隣にいるのはーー、
「おい、あれ……」
わずかにざわめきが起こった。波のさざめきのようなそれはすぐに静まる。
そこにいるのはレーヴライン侯爵夫人の姿だった。
派手に胸元の開いた真っ黒なドレスは喪服というには豪奢な飾りがつき、その引き締まった腰に咲く薔薇の花があでやかだった。その顔はヴェールで隠されてはいるが、真っ赤なルージュと笑むようにつり上がった唇が毒々しい。
その時、扉が開いたせいだろう。ひときわ大きな風がふきこんだ。
ヴェールが一瞬めくれあがる。
その黄金の瞳は猫のように美しくつり上がり、紫色のアイシャドウがそれを美しく縁取っていた。扇状の長いまつげがその真珠のような白い肌に影を落とす。
ちらり、と一瞬寄こされた流し目に、噂をささやきあっていた男たちはぎくりとして口をつぐんだ。
そこにいるのは起きた不幸や悲しみを宝石のように美しく身にまとって凜と立つ未亡人。想像とはまるで違う、『みじめ』とは正反対の美しい人だった。




