表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

継を望む族

 金が絡むと、人間はだいたい死ぬほど真剣になる。

 ーいや、『殺すほど』かな?


「遺言がない!?いいや、父上なら必ず、『いいよう』に配分してくださった筈だ!見付からんだけだ!」

「よし!そんなに言うならば本人に訊こう!」

「もう死んどるわ!」

「霊媒師に頼むのだ!」

「そんなもの偽物だろうが!」

「良い噂を聞いている!本物だ!」


 うるせーーー。

 ま、でも仕事は仕事だ。

 神妙かつにこやかな顔で騒ぎが収まるのを待つ。


 依頼は単純だった。


 ー死んだ当主を降ろして遺言を聞いてほしい。


 そこそこ報酬はいい、この間の貧乏な村のほぼ人脈確保の為の仕事とは大違いだ。

 だけど、屋敷に入った瞬間に再認識する。


 あ、これきついな、と。


 親族が多くて、みんなギラギラ目を輝かせてる。

 戦場みてえに肌がちりちり言う。

 ……ふむふむ、皆、必死そうだねえ?

 ……まあいい、今回は一発で決めなきゃならねえ。


「では、降ろしますねぇ」


 俺はいつも通り鈴を鳴らし、香を焚き、声を変える。


「……久しいな」


 事前に聞き出した口調と声色は多分こんな感じ。

 一瞬で空気が変わる。


「父上!」

「お父様!」

「親父!」

「おじい様!」


 さーて、どうすっかな。

 これは結構難易度の高い案件だ。

 全員が別々の父を見ているし、実際それぞれに異なる態度を取ってたんだろう父上とやらは。


 長男に対しては支配者。

 次男に対しては慈悲深く。

 三男に対しては合理的で。

 孫に対してはめろめろの愛情。


 どれに対してもそれっぽい態度を取りつつ、大岡裁きしなきゃなんねえ。

 ややこしい案件だ。


「お前たち」


 声を落とし、複数の意味で取れるような声色を使う。


「無為に争うな」

「……!」

「お前達にとり、良き分け方を今一度申せ」


 ざわりと空気が揺れ、鬱蒼と繁った森の中のように、遺族の表情が読めなくなる。


「……屋敷は長男である俺が頂きたい。家を繋いでいく為です」

「土地は僕がいいんじゃあないでしょうか。父上が守っていた山、大事にしますから」

「商いはオレでいかがですか?堅物の兄上と危なっかしい兄上を支えてみせます」


「ふむ、そうだな。お前達はそれで納得しておるのだな?」


 俺はそう言った。


「「「ええ。全く異存はありませぬ」」」

「……そうだな。わしも、同意見だ」

「「「流石父上!!!」」」


 その日のうちに話はまとまった。

 骨肉の争いは起きなかった。


「……さ、と、いうことで。お父上の霊も帰したことですし、報酬をば……」

「ああ、これです。本当に助かりました。また機会があれば頼みます」


 長男は不器用に笑って、包みを眼の前で開け、結び直す。

 よしよし。わざわざ急いで売り込みに来た甲斐があった。


「ありがとうございます。

 ……あと、我々の前に来てた『偽霊媒師』ですが、身柄を引き渡していただけませんか?

 こちらの方できっちり叱っておきますので」

「…………貴方の身内でしたか」


 声が低くなる。

 また、あの目の色。

 黄昏の森の中、見上げた枝葉の黒い蔭。


「ええ。あいつは才能がないことはないのですが……時たま、『別人』を降ろしてしまうこともあり、お客様を混乱させてしまうのです。ご迷惑をおかけしました」

「……貴方がそう言うなら」


 屋敷に戻っていく長男。

 少しして、戸が開き、ぐったりしたポンコツ霊媒師が次男に連れられて出てくる。

 頭がぐらぐら揺れている。

 酔わされている。

 ーーーー恐らく、このまま始末されても、悲鳴をあげないように。


「……紫暮。帰るぞ」

「!?……あぃぇえぇ…ヒミズ…?ヒミズなんで…?」


 ったく、人の気も知らねえで。


「お前が危なっかしいからだよ」

「れも、れも」

「いいから、さっさと来い」


 凍塚がひょいと紫暮を担ぐ。

 何があったのか、想像はつく。

 多分こいつは『本当のこと』を口にしたんだ。







「ほら、着いたぞ。宿」


 多分、もう聞き耳はない。

 それでも念のため、小声ですぐ近くで話す。


「……あのいえの、おとーさん、そとにおめかけさん、いて」

「……」

「おめかけさんのこに、ぜんぶ、あげたいって」

「それを真っ正直に言ったのか。だーれもお妾さん側の奴が居ない席で」

「う゛ぅ、らって、らって、おとーさんいいたがってたんらもん!」

「あのなぁ、嘘を吐けとは言わねぇよ。でもよ、喋る場所選ぶとか、今日は調子が悪いっつって断るとかよ、賢くなれよ」

「ぅう゛ぅう〜!」


 滅茶苦茶不満そうだが、こればっかりは譲れねえ。

 本当によくこれまで生きてこれたもんだこの人は。


「らって!わたし、ほんものなの゛にっ゛!!!

 なんれ!なんれヒミズばっかりぃ゛っ!!!」

「落ち着けって。声でけえって」

「うるさぁい!!!はもん!!!

 ヒミズなんてはもんっ!!!」

「はぁー……」

「姉さん、これ食え。うまい」

「はもっ!……もぐ、むぐ…うぅう゛〜…」


 凍塚は流石弟なだけあり、扱いを心得てる。


「つーか護衛雇ったんじゃねーの?」

「……」

「また喧嘩したのか」

「ちっ!ちがうもんっ!ごえいのひとののぞみどおりっ、おれいとしてあこがれのひとをおろしてあげたらっ、こんなのちがうっ!ておこられたのっ!ほんとだもん!っていったら、はしってどっかいっちゃったの!」

「……はぁ」


 本当に、本物は厄介だ。

 だから、偽物が要るんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
遺言は遺された人のためのもの。 骨肉の争いを回避するためには真相は話せない。 父上はせめて頭が良くて合理的な三男に、もう一人の兄弟の相続について相談するなりしとけよ。 自分が悪者になりたくないから、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ