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神を望む村(過去編)

 元師匠の紫暮は、出会った時からずっと危なっかしかった。


「……ちッ、違う……ッ!」


 巫女のような服を着た女。

 そいつの声が裏返る。

 村人たちは困惑してた。


「はぁ、ちがうって何がだよ?祟りなんだろ?この大雨と洪水はよぉ。俺等がかわいがってやってたアイツの逆恨みだろぉ?いいからやれっつってんだよ!

 アイツを呼び出してまた怒鳴りつけてやっからよぉ!

 このまんまじゃあ村が滅ぶんだよぉ!」

「ッ、これは違うッ…祟りじゃない……ッ!居ないッ、もう生贄の人はここに居ないッ…!

 生贄もそもそもッ…無駄ッ…!ここにッ、生贄で言うこと聞ける神様ッ、居ないッ!

 偽物ッ!ここに居る奴ッ、ただ口開けて餌待ってるだけッ、願い叶えないッ、質の悪い偽物ッ!」

「そんなわけあるか!」

「じゃあ、今までの生贄は無駄……?いや、そんなことあり得ない!嘘吐き!」

「嘘じゃないッ!」


 そいつは一歩も引かなかった。


「……だからッ!」

「だからじゃねぇよ、じゃあどうすんだよ」


 村人の一人が苛立った声を出す。


「このまま村が流されるのを見てろってのかよ!」

「だからッ、そうじゃなくてッ……!」


 声がまた裏返る。

 そいつは、俺を見た。


「やるべきは祈ることじゃないのッ!

 出来るだけ止める、逃げるッ!

 その術をッ詳しい霊に訊くべきッ!」


 そいつが一歩前に出る。

 村人を見ているのか、自分の中の何かを見ているのか分からない目。


「霊は万能じゃないッ……!

 元は一人の人間……ッ!

 そのひとに出来ることしか頼めないッ!」


 村人たちは、理解できていない顔をしている。

 だから、見兼ねて声をかけた。


「あ~、姉ちゃん、あたしを置いてかないでよ〜!

 ……依頼人への説明はあたしの役目だろ?」


 助け船のつもりだった。


「何者だお前」


 村人の警戒の視線が痛い。そりゃそうか。

 きゃぴ、と可愛い姿勢を取り、媚びる。

 ぼろっちい旅芸人の服を精一杯巫女っぽく見えるようにして。


「えへ、後で合流予定だった妹です〜!

 来る途中で野盗に遭遇してぇ、離れ離れになっちゃってたんですよぉ。

 姉ちゃん、能力は本物なんすけど、説明が下手でねえ」


 女も、そいつの隣に居た俺と同い年くらいの童も、村人も全員俺を警戒してる。

 童に目配せする。

 ちっとは話が通じそうだ。


「……姉さん、ほら、こいつに任せよう。

 やっぱり僕達だけだと厳しいよ」

「えッ……」

「……でも、姉ちゃんだけだと、この村救えねえよ?」

「う゛ッ……」


 観念したのか、捨てられた犬のような目で女が俺を見た。


「……つまり、ですね。

 ここには、『死者を生贄にして天候や土壌を操る力のある神や呪霊』がもう居ないんです。

 他所に行ってしまったのか、弱体化してしまったのかは……測れませんが。

 とにかく、姉ちゃんの言う通り、物理的な、俺達が出来る対策を試してみるべきです」


 その説明で何とか通じたらしく、村は生贄をやめ、代わりに生贄をこき使って防災や土木工事を進めてた。


 ……それがいいのかどうか、俺には分からん。


 工事のやり方に関しては女が色んな所から知恵者の霊を降ろしては村人達に伝授してたし、効率が良くて犠牲が少なくなる術も伝えてた。

 だから、それで良い方向に行ったと信じたい。




 そうそう、出会ったあの夜。

 女…紫暮は結局、おれの補助を許す形になった。


 ただし条件付き。


「……あなたは、…だ、誰…?」

「いやあなに、通りすがりの旅芸人ですよ」

「……もし、良ければ、この後も一緒に来ない…?」


 彼女から言い出してくれるとは思わなかった。


「…うん、よく言えたね、姉さん」

「うッ、うんッ」


 声は裏返っている。


 でも少しだけ、満足げだった。


「はいはい、じゃあ、しばらくよろしくお願いします。…あんたが師匠ってことで」


 おだてるつもりだった。

 だけど、彼女はひどくうれしそうな顔をした。






 だから、あれからずっと、こいつのことを厄介だけれどほっとけないでいる。


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― 新着の感想 ―
土着の神とかいない以上、必要なのは土木技術やサバイバル技術に長けた人物の霊。 紫暮の力は本物なので、彼女を囲おうとする勢力がいても不思議ではない。 本人の能力や術は再現出来なくても知識は伝えられるな…
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