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祖を望む贄

「…あなたが、霊媒師様ですか。

 ……ご先祖様を降ろしてほしいのですが、できますか」


 依頼主の老人はそう言った。


「ふむふむ。因みに理由は?」


 一応こういうのは聞いとかねえとな。

 でないと後味悪いこともあるから。


 老人は少しだけ目を逸らした。


「……制度の、見直しを」

「制度?」

「生贄についての制度です」

「ふんふん」


 交渉系か。

 ……その先祖とやらは、本当に居るのか、どうなのか。


「ご先祖様と話させていただきたいのです」


 老人は続ける。


「本当に、今、生贄が必要なのか。

 もう不要なら、或いは食べ物や工芸品による供物で代替可能なら、教えていただきたい」


 あー、なるほど。


「ふむ。祀っているのはご先祖様の霊なのですね?」

「いえ、違います。祟り神と『されている』者です」

「ほうほう」

「私は……正直言って、あの者らに祟る力があるなどと思えません。

 ご先祖様が無用に怯えていたからこそ大仰に祀っただけの気もします。

 ……生贄を、貪っている何かである、とは、思えないのです」

「……捧げられた生贄は、どうなるんです?貪られるとは」

「……生贄は、必ず、神様とやらに数日弄ばれたのち、酷たらしい姿で…魂を失って、帰されます。

 生贄を捧げなければ、生贄と、生贄を望まれた家の者が神隠しに遭います。

 ……此の度の白羽の矢は、我が孫に立ちました。

 耐えられません」

「……ふむ。じゃあ、ちょっとだけ、準備する時間を下さい」









 俺達は、村長から離れ、こっそりそこの木の裏に声を掛けた。


「紫暮。居るんだろ」

「なっ…ななななな…」

「ばればれだっつーの。それで隠れてたつもりかよ」

「うぐぅ…っ!」


 こいつは元師匠の紫暮。

 よく暇な時は霊視して俺達の行動を追い掛けてくる。

 ー俺と違って、本物の霊媒師だ。


「早速だけど、この村、『本物』に憑かれてるか?」

「…………」


 そろり、紫暮があちこちに目を向ける。


「…………少なくとも、視てる範囲には、居ないよ」

「じゃ、祠行くか」

「……えぇ…やだよぉ…あっちの薄暗くて山賊とか出そうなとこでしょ……?」

「ああ」


 ーふん。

 となると、だ。

 俺の推測が正しければ、これは、大分胸糞の悪い、事件だ。

 

「……ひゃっ!……は、運ばないでよぉ…っ!遠目で許してよぉ……っ!

 凍塚だって、怖いでしょお……?」

「山賊数体ならいける」

「無茶しないでよぉ……」


 凍塚に連行され、ざくざくと祠方面へ歩を進める。

 ーお、見えてきた。

 大分先ーーー祠本体だ。


「ねっ!ねぇ!やだっ!ここ!やな゛がんじ!するってぇえ゛!!!」

「どういうことだ?神様は居ないんじゃないのか?」

「『みんな』『違う』っでい゛っ゛でる゛っ゛!!

 だがら゛も゛ぉ゛はな゛じでよ゛っ゛!!!」


 おどおどびくびくぷるぷるしながら紫暮は裏返った声で抗議する。クソバチギレてる。俺に。

 しょうがねーな。


「…『違う』んだな?」

「うう゛……っ…ばがぁ゛っ゛日瑞ど凍塚の゛ばがぁ゛っ゛」 


 ガキか?

 泣きまくってて話にならねー。


「…………ま、それが聞けりゃ十分だ」


 さて。

 どうやって、伝えるかな。

 



 そして、夜ーーーー。


 村人達に囲まれた円の中央。


「我は、お前達の先祖である」


 重く、古めかしく口にする。


「ご先祖様…!よくおい」

「ーーーー本当にっ……悪いことをした……っ!」


 初手、泣きながら謝る。


「!?」


 頭を下げた俺に、村人達が騒然とする。

 特に青褪めたのは、村長だった。


「……ずっと、脅されていた……っ!

 山奥に隠れ潜む山賊に……っ!」

「なんだと!?」

「生贄と言って子を差し出せと…!」

「な…」

「だから、解決するには山賊を討伐するか…この村を離れるしかないのだ…!」


「…そんなもの、居な」

「そういうことにしておいてくださいよ、村長」


 村長は、俺を見て頬を赤く染めた。


「貴方は…貴方の一族は、善良な被害者です。そうでしょう?」


 微笑むと、村長はぐ、と息を呑んだ。


「……山賊は、追い立てて、逃げたことにしますか?

 それとも……山賊のように愉しんでいた者を、生贄の代わりにー本物にでも捧げますか?居るかどうかは分かりませんが」

「……っ!」


 ちらり、と、壁に置かれた刀を見る村長。

 しかし、凍塚からの視線に気付き、ふい、と彼は目を伏せた。






 ーーーーそして。


 数日後。



 結論から言うと。

 今回、生贄は捧げられなかった。

 代わりにーーーー

 遠くから定期的にーーーー丁度、生贄の時期にばかり、来ていた『お客さん』が、『祟り』で死んだ。


 そう、祟りだ。

 『みんな』が気付いた時にはーーーそいつは池の中の鯉達に食まれて、もう、死に顔さえわからなかった。

 村人達の何人もが後ろ暗そうな顔をしていたがーーー俺は、何も見ちゃいねえ。


「うんうん、やっぱり、自分達でことを納めるのが一番だよなぁ。

 『当たり前に捧げられる贄』になら何をしてもいいーーーそんな言い訳をなくしてやるためにも」


 今後、村から人は減るだろう。

 特に、子供を持つ者達は、こっそりと、或いは大勢で、この村にきっとまたやってくるだろう『山賊』から逃げていくかもしれない。

 或いはー『山賊』がもう来ないなら。

 奴らに与えられてきた豊穣は、もう過去のものとなるだろう。

 村は廃れるかもしれない。


 だけどきっと、それでいい。

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― 新着の感想 ―
貧しい村だったのだろう。 村長と数人の共犯が、外から来るロリペドで嗜虐趣味の『お客さん』に、 生贄を差し出す対価で村を維持していたのかも知れない。 でもいつしか村の特権階級が潤う手段になってしまった。…
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