08 ベランゴルの現況と解決法
ベランゴル民主国の宮殿にて一泊。
その翌日、王宮内に用意された会談の場で、正式に戦後賠償についての会談を行った。
その場には、俺たちの相手としてリヴィヨン嬢と、ワリャール議員他革新派の議員6名、それからフェルディナン国王と護衛のパリヨー将軍が同席した。
会談自体は比較的にスムーズに進行した。
こちらは事前に宰相のマルダンフ侯爵が用意してくれた案を提示するだけだ。こういったものに関しては駆け引きなども生じるところだが、マルダンフ侯爵が出してきた案は、向こうとしても仕方ないと諦めがつくギリギリに抑えてあった。
これで値切ってくるようなら脅しの一つもかけるところだったが、さすがに向こうもそこまで間抜けではなかったらしい。賠償については全面的に受け入れ、賠償金の支払いの期間だけは多少の猶予が欲しいと言ってきた。それは想定内だったので、そこだけ新たに取り決めを行い、最終的に合意に達して、協定書に調印をして終了となった。
会場の雰囲気がやや緩んだところで、俺は代表者である男装の麗人・リヴィヨン嬢に話しかけた。
「リヴィヨン代表、今後改革派は現首相派にはどう対するつもりなのだろうか?」
「現在革新派の議員は全議員の三分の二を超えており、すでに首相アルバッハの罷免要求は可決されています。それに対してアルバッハが大人しく従うか、それとも議会の解散を宣言するかというところですが、アルバッハはどちらも拒否をしています」
「ということは、アルバッハ氏はベランゴル民主国の法に従う気はないということか」
「残念ながらそのようです。行政府に私兵とともに立て籠もっており、この首都の一部を封鎖しています。市民を人質にしていると言ってもいいでしょう」
なんと、まさかそんな話だったとは。夕食の場ではまったく出てなかった話だが、食事をしながらする話題でもないか。
しかしアルバッハはもう少し立ち回りの上手い人間なのかと思ったが……いや、もともとそれだけ危うい立場だったということか。首相が私兵を持っているというのもなかなかに物騒な話だが、民主国家になりたてのベランゴル国だからこそか。
「なるほど。しかしそれはかえって好都合かもしれぬな」
「好都合……とは?」
サッと顔色が変わるリヴィヨン嬢。まあ陰険糸目国王が意味深なことを言ったらそりゃ警戒心MAXになるよね。
「向こうが力で己を押し通そうというのなら、こちらも力で対応するのみ。アルバッハとやらは侵略行為を命じた首魁であるにもかかわらず、戦勝国の王の前に姿を見せぬ。これは私にとっては断罪するに十分な理由となる」
まあ実際、姿を見せたら断罪からの処刑コースも見えてるから逃げるのが普通なんだけどね。
俺が不敵に笑って見せると、リヴィヨン嬢だけでなく、フェルディナン王や、その場にいた議員たち、さらにはパリヨー将軍までが顔色を悪くした。
「も、もしやマークスチュアート国王陛下自らが……?」
「行政府に乗り込みアルバッハとやらを捕えてこよう。隣国が荒れるのはこちらとしても困るのだよ。なにより民が困窮しているのは見るに堪えぬ」
だって難民発生からの盗賊化は本当に困るし。マークスチュアートの冒険者時代にそういう人間を討伐したこともあるからなおさらそう思う。
「お待ちください。陛下のお手を煩わせるわけには――」
リヴィヨン嬢は俺を止めようとしたようだが、パリヨー将軍が首を横に振ってそれを止めた。まあ彼は俺がインチキ中ボスだとわかっているからな。
見ると後ろに控えていたフォルシーナやマリアンロッテ、アミュエリザの3人はやたらと目を輝かせていた。
さて、ちょっと格好をつけてしまったが、やることが決まった以上さっさと片づけることにしよう。
俺はリヴィヨン嬢から、首相派が封鎖している区域や行政府の場所や間取りなどの情報を得ると、そのまま『シグルドの聖剣』とマジックバッグを携えて、宮殿の外へと出た。
「お父様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
と見送ってくれるのはフォルシーナだ。俺の能力を一番知っている人間であるので、その青い目に一切の不安はない。
「うむ。まあすぐに済むゆえ待っているがよい」
そう答えつつ、期待に満ちた顔のマリアンロッテとアミュエリザにも声を掛け、酷く心配そうな顔のフェルディナン王とリヴィヨン嬢に一礼をして、俺は街の通りを歩き始めた。
目指すは宮殿より南にある、行政府を含む首都の南側地区である。
この首都はいびつな円形をした城塞都市だが、中央やや北にある宮殿を中心に、東西南北四つの区に分かれているらしい。
民主化にともなってその南側地区に行政府が建てられたらしいのだが、今その行政府を中心にして南側地区の城壁側7割くらいを、首相派とその私兵が半封鎖状態にしているようだ。
王宮前の通りから、南側地区まで通りを歩いていくが、そこまで変わった様子はない。しかし南側地区に入って少しすると急に通りから人の姿が減り、そして少し進むと通りを塞ぐようにバリケードが張られているのが見えてきた。もちろんその周囲や奥には短槍と盾を持った兵士が20人ほど立っていて、ものものしい雰囲気となっている。
さて、正面から突破することもできなくはないが、それだと兵士たちを片っ端から叩き伏せなくてはならなくなる。それに騒ぎになればアルバッハが逃げる可能性も高い。
「となれば『転移魔法』の出番だな」
俺は手近な路地に入ると『転移魔法』を短距離で発動。目の前の二階建ての建物の屋根の上に瞬間移動した。
屋根の上からだと首都の街並みが良く見えた。行政府は4階建ての立派な館のような建物で、ここからだと距離は約300メートルといったところか。
『転移魔法』は実際に行ったことがある場所に移動できる魔法だが、その『行ったことがある』判定はかなり曖昧である。厳密に検証したわけではないが、『視界に入っており、なおかつ今いる場所から半径100メートル以内の地点』がその判定になるらしい。
つまり初めて訪れる場所であっても、視界に入ってさえいれば100メートル以内での短距離転移が可能となるわけだ。
例えば今いる屋根から、80メートルほど離れた屋根に転移すると、もちろんあっけなく成功する。兵士たちも屋根から屋根に瞬間移動する人間など想定していないので、俺が封鎖地区に入っても気づくはずもない。
そのままさらに2回転移をすると、行政府は目の前にあった。
あまりにひどい敵地侵入チートだが、ここからがさらにチート中ボスの本領発揮である。




