落ち着かない会話
(これはどうやって食べるんだろう……?)
こっそりアルドリックをチラリと見ると、花の部分を器用にフォークとナイフで切り分けて口に運んでいた。
それを見て、ティウも恐る恐るカトラリーを手に取ってみた。
キラキラと輝いて見える芸術品は、どの角度からナイフを入れていいのか分からない。土台の白いものも何か分からない。口にしたら分かるのだろうか?
今度は隣にいるジルヴァラをチラリと見れば、フォーク一つを手に持ち、問答無用とばかりにブスリと刺して遠慮無く一口で食べていた。
目をまん丸と見開いて驚いているティウを余所に、ほとんど咀嚼もせずに飲み込んだジルヴァラだったが、何かに気付いたようだった。
「……これ、蕪か?」
「蕪? あ、じゃあさっき説明があったラティナって蕪のこと?」
芸術品の土台となっている丸くて白いものが蕪。だとすれば桃色のものは何だろうか?
気になったティウは勇気を出して、先ずは白い蕪からぱくりとかぶりつく。
口に入れた瞬間、蕪の甘みがふわりと広がって溶けていった。
(蕪が甘くて美味しい~~!)
「ラティナは地方の名前でね。そこで栽培された作物という意味でその名前なんだよ」
白いワインを飲みながら、アルドリックが説明を足した。
「じゃあフランって何ですか?」
「卵を溶いて蒸したものだよ。本来はデザートやお菓子が多いけれど、甘くせずに前菜の土台に使うのが最近の流行りなのかな? よく見かけるね」
アルドリックの説明に、ティウは興味津々に「へぇ~!」と相づちを打った。
次はフランの部分だけをフォークで掬うように取って少し食べてみた。
味は魚介類の出汁が使われている気がした。これもとても美味しい。口の中で溶けてすぐ無くなってしまう。
蕪と一緒に食べると邪魔をしないどころか、蕪の甘味で旨味が増して感じられた。
(次はこのお花…!)
ドキドキしながら花の部分を食べてみれば、蕪を桂むきにしたものを赤い甘酢に漬けたもののようだ。シャキシャキとした食感が残っているのも新鮮だ。
(量はとても少ないのに味と見た目が複雑過ぎる…!)
これが貴族が食べている食事なのかとティウは感動した。
この桃色もどうやって色付けしているのか気になり、ティウは恐る恐る店員に聞いてみた。
「赤い皮のラディッシュという根菜と一緒に酢漬けして色を移しております」
「ラディッシュ!」
赤い皮を持つ大根の仲間だ。こういった使い方をするのかとティウは目から鱗が落ちた。
ラディッシュの酢漬けもよくサラダに使われるが、白い野菜と色が濃い野菜は色移りしてしまうので、離すかお皿を別にするのが当たり前という常識が覆された。
(百年って……凄い!)
感動するティウの表情と耳が忙しない動きを見せる。
こんなにも分かりやすく感動を伝えてくれるティウに、アルドリックも店員も嬉しそうだった。
その次に出てきたスープは芋をすり潰したものだとすぐに分かったが、ほのかに甘くて飲みやすくて美味しい。ティウは夢中になった。
(これ、どうやって作るんだろう! 私も作りたい!!)
興味津々にスープに夢中になっているティウは一口一口大事に飲んでいるというのに、ジルヴァラはカップに直接口を付けて一気にあおり、飲み干している。
「ジルお兄ちゃん……」
さすがにそれはどうかと呆れた目を向けていると、アルドリックが肩をふるわせて笑いをこらえているのが目の端に映ってしまった。
「笑われているよ?」
「しるか」
こんな所に連れてくる方が悪いと言わんばかりの態度のまま、食事は進んでいった。
*
料理の説明と共にミズガルの名産を教えてくれるアルドリックからは、純粋にこの国の良いところを知ってほしいという想いが伝わってきた。
アルドリックが分からない料理の説明などは、直接店員に聞いて説明を促してくれるなど、至れり尽くせりだ。
そしてついに最後のデザートが運ばれてきた瞬間、ティウのテンションが振り切れる。
期待に満ちた目をしながら耳と尻尾が勢いよく振られているのが分かった店員も、ティウを微笑ましそうに見ながら配膳してくれた。
「こちら、フォルフォンのジャム添えでございます」
切り分けられた黄色いスポンジ状の生地に、ぽとりと真っ白なクリームが載っている。
その横にはブドウやオレンジの果物が添えられ、クリームにはとろりと赤みがかったジャムがかけられていた。
(何のジャムだろう? リンゴかな? イチゴかな?)
ティウは早く食べてみたいとそわそわしている。しかし目の前のケーキも気になるけれど、一番気がかりなのは、テーブルを挟んだ向こう側にいるアルドリックだった。
(そういえば結界の事、何一つ聞いてこないよ……?)
ティウはケーキに釘付けになってはいるが、ちらちらとアルドリックを見ていると時折目が合ってしまった。
目が合う度に微笑みかけられ、その度にティウの耳がビクリと震える。
「遠慮しないで食べていいんだよ」
始終優しい笑顔で見守ってくれるアルドリックの態度に、ティウは段々と警戒が解かれていた。
この頃になって、ティウはようやくアルドリックという人物を観察してみた。
火の属性と土の属性を含んだ赤銅色の髪は、色の濃さというよりも鮮やかさが際立っていた。
魔力量が目立つというより、洗練された魔力を感じる。
人族の貴族は金髪碧眼が多いと聞くが、噂が全てではないとティウは改めて思った。
魔力を反映する髪と瞳の色と質は身分関係なく重要視されるので、王族ならば尚更だろう。
右のこめかみから長めの前髪を左に流していて、甘めの目元を綻ばせながら、ティウを見て微笑んでいる。
(うう……居心地が悪い……)
ティウが大人の女性だったら、アルドリックの視線を受けたらうっとりするのかもしれない。人に慣れないティウでも大人の男性からこんな視線を投げられたら、ちょっと照れてしまう。
だが、それら全てを台無しにする警戒した視線がティウの隣からアルドリックに向けてギンギンに発せられている。
いつ不敬だと言われてもおかしくない状況に、照れるどころか別の意味でドキドキと胸が高鳴っていたのだった。




