第63話 対策会議 後編
ベネギア
まったく、本当に勘弁して欲しいよ。
ララを魔物に差し出す、もしくは処刑するという意見はどうにか治まってくれた。
グリーブ司令の発言で助けられたが、もし彼を見捨てるという事で皆の意見が固まってしまったらかなり強引な手段で止める羽目になっていただろう。
先日本国の姫、エレノア・カリーナ・ヴェルガンド王女に指示されたばかりなのだ。
早朝から訪ねて来た人物が王女だと知った時はかなり焦ったが噂で聞いたことはあった。
曰く王女が王国内の街を巡り視察の様な事をしていると、だからたまたまこの街に来ただけなのだと思ったのだが…。
『彼は私と友人にとってとても大切な人です、しっかりと守ってくださいね』
どんな経緯で知り合ったのかは知らないがそんな事を告げられたのだ。
その当人をこの短期間で処刑しましただなんて報告出来る訳がない。
そんな事を報告するくらいだったら夜逃げした方がまだましだし…間違いなくミゼリアにも嫌われてしまうことだろう。
…まあ本当に逃げる訳にはいかないがな。
もちろんグランシーの意見もそれなりに理にかなったものではあるのだが、どれほど合理的なものであったとしても頷く事など出来るはずもなかった。
「で? この2枚目のやつはなんなんだ?」
「あ、ああすまない」
あれこれ悩んでいたせいで会議を止めてしまったがガルド氏が続きを促してくれる。
さて、2枚目か…本当に何なのだろうねこれは?
「それは先の手紙と一緒に入っていたものだそうだ、ララ、間違いないね?」
「は、はい、間違いなく一緒に入っていた物です」
「意図は不明だが日付は襲撃予告日と同じものだ。
こんな馬鹿げた予告をしてくるくらいだから何かしら関係はあると思われる」
似たような物は見たことがあるし企画をした事もあった。
自分も学生時代には参加した事があるし娘たちがもっと小さい頃、学舎に通っていた時にも同じような物を渡された事がある。
それは競技会のプログラム、そうとしか言いようのない物であり…
―――――――――――――――――――――――
プログラム
・開会の辞
・午前の部
八ノ刻 1 徒競走 あいつを捕まえろ!
九ノ刻 2 あたまの体操 きみに出来るかな?
十ノ刻 3 大玉転がし 力を合わせて!
十一ノ刻 4 玉入れ 誰が一番上手く入れるかな?
・昼休憩
・午後の部
十三ノ刻 5 障害物競争 猿は木から落ちない!
十四ノ刻 6 綱引き 蛙だって頑張ります!
十五ノ刻 7 騎馬戦 レオンリバーの陣!
十六ノ刻 8 陣取り合戦 みんなで守ろう大切な街を!
・閉会の辞
―――――――――――――――――――――――
さらに表紙には『友情 団結 勝利 力を合わせて戦おう』と書いてあり、『九ノ月の10日 八ノ刻開始』と日時の記載までがあった。
全員がしばらくその書面を眺めていたのだが、一通り確認し終わった所で最初に声を上げたのはコールディーだ。
「何かしら…ね。
みな気付いている…いや、薄々考えているんじゃないか? 魔物はこのプログラムに沿って襲撃するつもりなんじゃないかって」
コールディーのその発言に大半の人物は頷いているのだが、発言した本人も頷いている者達も皆一様に顔をしかめている。
当然だろうな。
かく言う私も同じことは考えた。
襲撃の予告日とこのプログラムに書かれている開催日時は一緒だ。
だからこの書面はその襲撃内容をわざと競技会のプログラムのように記した物なのではないかと。
そんなゲーム感覚で街を襲うなど許されない事だ。
これを出した者がどのような意図で書いたのかは分からないが、少なくとも悪意に満ちた物である事は間違いないだろう。
「…ふざけているのでしょうかこの手紙の主は」
グランシーも必死に落ち着いた声を出しているがどのような感情を抱いているかは想像に難くない。
きっと他の参加者も大小の違いはあれど似たようなものであろう。
…だがここは建設的に物事を考えよう。
予告が狂言でない限り5日後にはこのプログラムに沿った襲撃が行われるという事になる、予め襲撃内容が分かっていれば防衛も有利に進められるはずだ。
その内容について議論の必要はあるが…名前から予想を立てられるものもある。
これを襲撃の内容と仮定すれば最後の陣取り合戦なんかは総力戦を意味していると考えられるし、騎馬戦なんかもそのままの意味と取れる。
他にも徒競走や大玉転がし玉入れと詳細はともかくおぼろげながらイメージ出来るものもあった。
…もちろん予想は予想でしかないし魔物が律儀にこれを守るとも限らない。
だがわざわざ予告を出すような狂人なら自分で作ったルールを自ら破るような真似はしないように思えた。
―――――――――――――――――――――――
アレギウス
「我々は城壁を中心に…」
「ではこちらは拠点周囲の防備に…」
「それですと掛かる費用は…」
情報が出揃い具体的な対策の話となったが、ここから先は冒険者をまとめるグランシー女史、前線で兵を指揮するガーネリフ、街の経済を管理するレイシー、3人での話し合いが主となる。
もちろん後方支援となる俺やガルド達、シーズ女史もその内容を記録し対応を組んでいくことになるが、俺たちが前線の話に口を挟むのは筋違いでありそのような行動は出来ない。
魔物…か。
なので俺は話を聞きながらも魔物の発生について考えていた。
若い頃に冒険者だった俺は魔物の存在は知っているし討伐をした事もあった。
記憶にあるのは隣国に居た時に受けた依頼。
それは討伐対象は少数なのに報酬だけが妙に高額で、しかも依頼が貼り出されても誰も手を出さないというものだった。
もちろん当時の俺もこれは何かあるなと思ったのだが…若さゆえの過ちとでも言えば良いのか、金欠であったことも手伝いその依頼を受けてしまったのだ。
その結果、一応討伐には成功し多額の報酬を得る事は出来たのだが、無鉄砲さの代償として俺の背中に大きな爪痕が刻まれる事となった。
そんな経緯もあり、俺は魔物に対し苦手意識をもち同時に強く警戒するようになった。
ヴェルガンド王国はどのような理由か魔物が発生しにくいようだが、たまに聞く被害報告や魔核発生の報せに目を光らせるようにしているのだ。
…だが今回の発生はどうだ?
最近発生したミルス村の魔核は消滅が確認されたと聞くしそれ以外の魔核の存在は確認されていない。
ここ最近の討伐依頼も魔核発生の名残のようなもので、一時的に増えただけなのだと思っていたのだが…ミルス村に続き新たな魔核が発生したとでも言うのだろうか?
「情報不足だな…」
「そんな事は最初から分かっているでしょうに」
やはり敵の規模が不明という事もあって話し合いは難航している様子だった。
少数であれば街に被害を出さないためこちらか攻める事も出来たが、相手の正確な数が分からない上に地中から湧き出て来たという報告まである。
レベル3が二人、残り二人もレベル持ちのPTが圧倒されてしまうような存在が確認されているこの状況で、不確かな敵戦力に対し兵を派遣するのは馬鹿のする事だ。
そも魔物の群を討伐するような規模となると準備だけでも相応の日数が掛かってしまう。
兵の動員に武具や魔法薬の準備など…いくら街から半日程度の近場と言えども5日以内に事が片付く程甘い話ではないはずだ。
現状俺達に出来る事は可能な限り情報を集め防備を固める事くらいだろうな……だが俺達以外はどうなんだ?
「この事態、王都には報告しているのか?」
その事が少し気に掛かり話し合う3人を横目にベネギアに問う。
街の防衛戦となれば本国とて無関係とはいかない、なんらかの支援を受けられればと思ったが、
「ああ、それはもちろん、だが分かっていると思うが王都からここまで半月は掛かる距離だ。
襲撃予定日が虚偽の情報である可能性を考え応援要請は出しているが…予定通り5日後であった場合にはまず間に合わない」
当然の事だ。
仮に近場の街に援軍を頼んでも準備を含めて5日では難しいだろう、そんな事は俺も分かっているし期待をしている訳でもない。
だが、
「勇者1人であれば別だろう?」
俺が期待している支援は勇者という存在だ。
勇者、王都の持つ最強の個人戦力であり人間を超越したその強さは1軍団にも匹敵すると言われるものだ。
先日中央広場で起こった騒ぎはその勇者に対し報復を謀った者たちが返り討ちにあったもので、レベル持ちを含めた20名を超える暴漢をあっさり無力化したと聞く。
今代は女性だと聞くし年齢も20に満たないらしいが、勇者の強さに性別や年齢は関係ないしそんな人物が救援に来てくれるならこれ以上心強い事はないだろう。
それに…勇者であれば移動についての問題もないはずである。
「派遣の請願だけはしてある…が受理されるかどうかは王都の判断次第だな。
確定していない戦力を計画に組み込む事は出来ない、当てにはしない事だ」
しかしその期待はあまり当てにして良いものではなさそうだった。
「…そうか」
残念ではあるがこればかりはベネギアに言っても仕方のないことだ。
そも強者に頼りっきりになるのも元冒険者としての矜持が許さないし、いざという時は武器を手に再び戦場へ戻る事を考えるべきかもしれなかった。
次回から更新日を変更します(金曜→土曜か日曜)
週1以上の投稿はそのままです




