第62話 対策会議 前編
「皆集まってくれて感謝する」
ベネギアさんの言葉と共に会議は始まる。
その言葉を聞いた者の反応は様々で、興味なさそうにしている者、真剣な表情でベネギアさんに注目する者、あとは…軍の司令と魔術師ギルドの長は無反応なのでどう思っているかが分からなかった。
「分かっているとは思うが会議の目的については案内に載せた通り、街の北東方面に潜伏していると思しき魔物群の対処についてだ」
魔物の群…やっぱり手紙にあったやつか?
あの手紙を自警団に届けた昨日の今日での呼び出しだ。
この呼び出しはその件なのではと予想はしていたが…手紙には北東方面という話は書いていなかったがおそらく同じ話なのだろう。
「始める前に1つよろしいでしょうか?」
「…なにかね?」
しかし議題に入ろうかという所で待ったを掛けた人物が1人、冒険者ギルドの長クィン・グランシーさんだ。
開始早々に遮られ不機嫌な様子のベネギアさんだが冷静に言葉を返し続きを促していた。
「この会議の参加者について、ほとんどは見た顔ですが貴方の後ろの男性、彼は何者ですか?」
えっ? それって僕のことだよね? 自己紹介とかするべきなのかな…?
急に向けられた問いに焦ってしまう…が、その心配は杞憂であり、
「彼は…まあ本会議における参考人のようなものだ。
詳しい事は後で話すのでとりあえず始めて良いだろうか?」
「……良いでしょう、続けて下さい」
ベネギアさんの返答を聞いたクィンさんは渋々といった様子ではあるがその意見を収め、とりあえずは聞く姿勢になってくれた。
「では最初に手元の資料を、すでに見ているだろうが先に届いた文書と同じ物だ。
内容は共通だと思われるが念のため差異がないかを確認して欲しい」
全員がテーブルの上に置かれた資料を取り、随員の分もあったので僕も同じように手に取る。
えーっと…。
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魔物を統べるものより皆様へ
九ノ月の10日、レオンリバー北東部に潜伏せし魔物の群と拝借した魔導兵器を用いレオンリバーを襲撃する事となりました。
無力な皆様には大変困難な戦いとなりましょうが奮戦奮闘を期待致します。
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…やっぱり僕の所に届いた手紙と似ているな。
うちに来た手紙よりは簡略化されているがそれでも物騒な内容を丁寧な文書で書いている点は同じだ。
北東部という情報や魔導兵器の事が追加されているが皆様へという文言から同じ文書を複数の箇所に送った事が窺える。
ただ…1つ大きな違いとして僕の方に付いていたあの2枚目の文書は無かった。
そんまましばらく資料に目を通していたが特に誰も発言する様子はない。
僕に届いた物とはかなり違っているが発言権がなさそうなのでとりあえず様子を見ることにする。
「みな相違ないようだね。
ではその事を踏まえた上で…魔術師ギルドのレノン、報告を」
「はい」
ベネギアさんに指名されたレノンさんが先日行った調査についてを語ってくれた。
クリフの怪我の事とかはカレンさんから少し聞いていたがそんな事があったのかと改めて驚かされる。
魔物が地中から湧き出てきた事や凶暴な黒い人型のスライムの事など…もしかして前に僕が見たのと同じやつではないだろうか?
その疑問に答は出ないが先の文書を見た後にこの調査報告だ、無関係という事はまずないだろうし魔物が居る事は間違いないだろう。
「敵の規模が分からない以上取るに足らない程度という可能性はある…が、当然そんな希望的観測にすがる事は出来ない。
襲撃を銘打っている以上最低でも100、最悪その数倍はいると考えるべきだと思う」
レノンさんの報告に続きベネギアさんの補足をもって話は終わる。
確かに魔物が数百も居るなんて話になったらただでは済まないし皆はどう思っているのだろうか?
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ガーネリフ
「話は分かった。
魔物の襲撃があるかもしれないから対処を手伝えという事だな」
レノンの話を聞き終え最初の発言したのは工房主のガルドだ。
「構わんぞ、街が壊されたらワシらだって困るんだ。
もちろん報酬は頂くが…多少は期待してもかまわんのだろう?」
「それはもちろん、協力してくれた者には領主として十分な報酬を約束しよう」
「なら良いんだ。 ブラック、交渉は任せたぞ」
そしてそのガルドの発言に対しベネギアのやつも報酬を約束する。
口約束ではあるがこれだけの面々の前での言葉だ、下手な契約書よりも効力があるしこちらとしても兵に渡す特別手当が必要だ。
「協力か…それで、具体的にはどう守るつもりなんだ」
続けての発言はコールディー、こちらとしてもそこが一番重要な点である。
相手の規模が不明、日時の指定はあるもののそれが真実だという保障もない、下手をすると襲撃予告自体がブラフという可能性すらあるのだ。
「それについては…アンナ、次の資料を」
「はい」
ベネギアの指示で先とは違う資料が参加者全員に配られる。
白い封筒に入った手紙? のようであり、封のされていないそれを開けると2枚の紙が出てきた。
「それは昨日後ろにいる彼、ララの元に届いたものだ。
色々と聞きたい事はあるだろうがまずは内容を確認してもらいたい」
…ララが同席している事はずっと気になっていたのだが…そういう事か。
つくづく厄介ごとに巻き込まれるやつだな。
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クィン
なるほど、こいつがそうなのか。
顔は知らなかったがララという名前だけは何度か聞いていた。
専用魔法に拠らない方法で魔核を無力化した人物であり、フィンにも高い技術を持つ技師として名前を聞いている。
ただ兄妹という報告から男性である事は知っていたが、正直もっと歳がいった人物を想像していたのだ。
まあそんな事はどうでもいいか、今問題なのは…、
「この文書を見る限り…狙われているのは彼、という事でしょうか?」
その人物が狙われているという事。
これまで無言だった魔術師ギルドのステラ・シーズがその問題となる点を指摘した。
レオンリバーの街そのものが狙われているというのであれば当然守る。
冒険者ギルドの長としてはもちろん、個人的な感情としても魔物の襲撃を看過する事は出来ないし最前線で戦うつもりであった。
…だが街ではなくこの男個人を狙っての襲撃となれば話が変わってくる。
だから私は提案する。
「では彼を街から追放すれば済む話ではありませんか?」
もしそうであればこの男を街から追い出せば襲撃自体がなくなるかもしれないからだ。
怨恨…魔物がそんな感情を抱くのかは分からないが魔核を無力化したのが狙われる要因になったのは間違いないだろう。
もちろん彼を殺す事だけが目的ならば、わざわざこんな大事にしなくても少数の魔物なりを潜入させ直接本人を狙う方が確実であり、派手な演出や予告を出しているのはついでに街を襲うつもりだからかもしれない。
だが、それでも目標であるこの男がいなければその挙動は必ずブレるはずだ。
「もしくはいっその事処刑した方が良いかもしれませんね。
これだけの大事を招いた罪としては妥当だと思いますよ」
冷たいやつだと思われているだろう。
でも私にとって大事なのは街を守る事であり、そのためならばいかに優秀だろうと技師の一人や二人死んでも構わないと思っている。
「そんなっ!」とか「いくらなんでもっ!」と、私の発言に対し驚く者、あからさまな非難の視線を向ける者、…あとは無言を通す者など反応は様々だが、もし反対をするというのであれば街を守るのに有効な代替案を提示した上で発言しないといけない。
…そこまでは難しいだろう、感情だけでは何も解決出来ない、個人的にはなんの恨みもないが…すまないが諦めてくれ。
顔面蒼白になっている彼には悪いが救いの手は誰からも差し伸べられる事は、
「魔物を甘く見てはいかんぞ」
…意外な所から出てきた。
「老師、あなたは反対するのですか?」
これまで無言無反応だった軍の司令、ジャック・グリーブが軽く挙手をしながら言葉を発した。
私が老師と呼ぶのは…まあ私にとっては恩人と呼べる人の1人であり武術を指南してくれた人物でもあるからだ。
「反対とは言わん…が、なぜその男が魔物に狙われておるのか疑問に思わぬのか?」
「それはどういう…」
なぜ狙われたのかだって? それは…魔核を消滅させた張本人だからではないのか? それで恨みを買ったことで狙われている。
状況や予告文書がそれを裏付けているし他に理由があると?
「その男が魔核を無力化したのは間違いない…が、それを指揮したのはガーネリフであり我々軍の者。
魔物を討伐したのも兵や冒険者であり彼がしたことは『真実の木』の代替行為でしかない」
「…そうね、そもそも過去の魔核無力化で報復を受けたという前例はないわ。
それにここまで特定の人物に固執したという話も聞いた事がないわね」
老師の言葉にステラ・シーズも賛同に近い意を示す。
「つまり怨恨以外の理由があると?」
「そこまでは分からぬ。
じゃが安易な決断は取り返しのつかない事態を招きかねん、気を付ける事じゃ」
老師はそこまでを話し上げていた手を下ろす。
…明確な反対意見ではなかったが今の老師の発言で私の意見を通す事は難しくなった。
根拠のある話ではなかったがこのタイミングで彼の処分を促すにはそれによってデメリットが発生しない事を証明しないといけない…しない事の証明など無理な話だ。
まあいい、私にとっては守る意味もだが始末する意味もない男だ。
場の意見が見捨てる事を良しとしないのならば仕方ない、その上で街を守る最善の手段を模索するだけだ。




