第61話 報せ
レオーネ
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
本日、軍の事務所へ来客があった。
その人物は最初軍のトップである司令へ用事があるという事で訪ねてきたのだが、生憎と外出していたため代理という事でガーネリフ隊長が対応している。
私はその随員として同席しているのだが…。
「分かっているでしょ? もちろんこれについてよ」
来客、冒険者ギルドの長であるクィン・グランシーは多少苛立たし気にガーネリフ隊長の前に1通の封筒を置いた。
なるほど、やはり各所に届いているのだな。
その封筒は私も知っているものだ。
昨日この事務所とさらに関連する施設に届いたものであり、噂では各ギルドや大手の工房など主要な施設にも届いているという話だった。
ただ中身に関しては…少々信じ難い内容でありその真偽は判断しかねるものだったのだが…。
「うちの者がこれの裏付けになりそうな情報を持ち帰ったのよ」
聞けば昨日この文面に記されている場所に調査に行った者達がいるという話、しかもその調査結果がこの内容が嘘とは言い切れない証左となりえるものであった。
これはもうイタズラだと切り捨てる事は出来ない。
兵の遺体まで発見したという話だし…おそらく行方不明者の1人だろう。
「分かりました。
ただこれが真実である場合我々だけで行動を起こす事は出来ません。
主要な方々に集まっていただき話し合いの場を設ける必要があります」
「そうでしょうね。
でも急いだほうが良いわよ、この文面通りだとすればあまり時間はないのだから」
事態は一気に動き出した。
会議はもちろんだが調査も必要になるし戦いの準備もしなければならない。
やらなければならない事は多いが時間は少ない、きびしい戦いが予想される…が、
我々が日々訓練をしているのはこのような事態を想定してのものだ!
ミルス村から続く騒動では後手に回ることが多かったが今度こそ民を守るという役目を完遂するぞ!
私はこの事態を恐怖ではなく高揚で迎える事が出来た。
軍人としてこれが正しい事だとは思わないがそれでも今この高揚は必要なものだ。
恐怖に竦み動けなくなるようでは何も守る事は出来ないのだから。
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ララ
…少し早いけどもう閉めちゃおうかな。
閉店にはまだ早い時間だが、お客が来るような気配がなかったので今日はお店を閉める事にした。
レオンリバーの街に来て半年、それなりにお客来るようになり忙しくなる時もあるのだが、やはりこういった空白の時間もたまにあるのだ。
けっこう冷えてきたなー。
立て看板をしまうべく店を出たのだが外の空気は完全に冬でありかなり寒くなっている。
暖かい店内用の服装ではかなり堪える気温であり天気もあまり良いものではない。
裏通りなので元々人は少ないのだが、この様子では表通りにもそれ程多くの人はいないだろうなと思えた。
ん? これは…?
そんな所に長くいたいとは思わないのですぐに店内に戻ろうとしたのだが…そこで見覚えのあるものを見つける。
手紙…だよね? 確か前にもこんな事があったような…。
移動した立て看板があった場所に見たことのある封筒に入ったおそらく手紙だろうものが落ちていた。
拾い上げてみるとやはり封はないのだが、置かれてから間がなかったのだろう、前のものと違い汚れはほとんどない綺麗な白色の封筒であった。
見てみるしかないか…。
前回の手紙を内容を思い出すと嫌な気持ちになるが無視するのは余計不安だ。
手早く店を閉めた僕は自室に戻り手紙の内容を確認してみる事にした。
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ララ様
拝啓 寒気のきびしい季節となりましたがお変わりないでしょうか。私もおかげさまで日々力を蓄え、こうしてララ様へその成果をお知らせ出来るまでとなりました。
さて、この度レオンリバー襲撃の為の軍勢が揃い数日の時をもって準備が完了する事をご報告いたします。軍と呼ぶには小数でありますが、多種多様な魔物をご用意いたしましたのでご満足のいただける戦力をお見せできると推測いたします。
つきましては、此度の襲撃において貴方様を殺害いたしたく思います。ですがただ魔物に殺されるだけでは貴方様もご納得いただけない事でしょう。
そこで貴方様の為に趣向をこらした仕掛けをご用意させていただきました。
内容につきましてはお知らせ出来かねますが、きっとご納得いただける最後を提供出来るものと推量いたします。
寒い日が続きますが、お体に気をつけ残り少ない命を大切にされますようお祈りしております。
敬具
九ノ月4日
二伸 参加を拒否する事は出来かねますのでご留意いただきますよう宜しくお願い致します。
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なんだよ…これ…?
前回の手紙とは違い今度は宛名がしっかりと記載されている…が…。
こんなの…むしろ宛名が分からないほうがましだったよ…。
丁寧な文章ではあるが簡単に言ってしまえば僕を殺すという内容だ。
相変わらず差出人だけは記載がないのでどこの誰からなのかは分からないが、相手が誰であっても何故こんな殺意を向けられなければならないのか分からない。
筆跡は前回の物と同じに見えるので差出人は同一人物だと思うが、そこまで恨みを買うような覚えは僕にはなかった。
どうしたものか…、今度のは前回と違い明確に名指しされてしまっている。
差出人は分からないがもう前のように保留するわけにはいかないだろう。
困ったな…ん?
そこでぴらっと1枚の紙が机に落ちる、どうやら先の手紙とは別にもう1枚入っていたようだ。
…なんだこれ?
落ちた紙を拾い上げ確認してみる…が、それはなんの意味があるのか分からないものだった。
これだけで見れば特に変哲のない物と言えただろう。
僕も小さい頃に参加した事のある、2か月くらい前にも似た物が回覧されていたような記憶があるそれは普段であれば気にも留めなかったはずだ。
だが、先の文書の後に続いてしまうと余りに不気味な物。
普通過ぎるが故余計に…。
とりあえず自警団に持っていくのが良いかな。
イタズラという可能性もあるし、こんな突拍子のない物を信じて貰えるかも分からない。
でも、これが本当の事であれば数日後にはこの街が襲撃され僕が殺され…いや、そんな事になればもっと大勢の命が失われるだろう。
…お店は閉めたし丁度良い。
ダメなら職人ギルドやベネギアさんの所に持って行ってみよう。
お腹を空かせているであろう2人には悪いが、これをどうにかしない事にはゆっくり晩ご飯を作ろうという気になれなかった。
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錚々たる顔ぶれ…なのだろうな。
現在ここ、領主の館の会議室に集まったのは全員レオンリバーの重鎮と呼ばれている人達のようだ。
ただ僕としてはその人物や随員にいくつ見知った顔があるだけで、半数は初めて見る顔だった為あまり実感が湧かなかった。
事前に聞かされた話では確か…。
1人目はガーネリフ隊長を随員とする男性、彼の名前はジャック・グリーブ、軍のトップでありレオンリバー軍の司令との事だ。
やさしそうな人だが彼が軍のトップなのか…?
見た目は温和というか柔和というか、好々爺としか言いようのない人物だ。
ガーネリフ隊長よりも低い身長に引き締まっているが大柄とは言えない体躯、60近いというその老体では1軍を率いるのは難しそうにも見えるが…。
…まあ見た目で判断出来る物じゃないらしいからな『レベル持ち』って。
最近知った事なのだが、この『レベル』と呼ばれるものは単純に肉体が強化されるものとは少し違うらしいのだ。
詳細は分からないが各々の持つ能力を強化する…魔法的な加護? に近い物らしい。
考えてみれば当たり前な事かもしれない。
先月ゆきのさんが戦っている姿を見たが、あの細腕で大柄な人間をまとめて吹き飛ばすなどどう考えても不可能だ。
そんな事が出来るとしたらそれは全身筋肉の塊のような人くらいであり、さらに巨大な獲物を振り回すなりしないと難しいだろう。
そう考えるとこの人物が見た目とは違う恐ろしい戦闘能力を秘めていたとしても…おかしくはないのかもしれない。
次に2人目、こちらは知っている人物で職人ギルドの長であるアレギウス・コールディーさんだ。
コールディーという貴族の家名は初耳だったが職人ギルドの長に代々受け継がれているものとの事。
他の出席者と違い随員はいないけれど…忙しかったのかな?
クレインさんやシエラさんを連れて来ればとも思ったのだが、そんな事をしたらギルドの窓口が大忙しになるだろうしその辺りを気遣っての事かもしれない。
続いて3人目はクリフを随員としている女性、冒険者ギルドの長であるクィン・グランシーさん。
トップクラスのレベル7を持つ人物で、冒険者としても一流であり単騎で彼女に勝てる人はレオンリバーには居ないと言われている。
もちろん勇者であるゆきのさんには勝てないと思うが、人間がたどり着ける極致に近い強さを持っているのだろう。
年齢は僕やクリフより少し上のようだが、どちらにしてもこの若さで組織のトップに立てると言うのは生半可な事ではないと思う。
なんかブラックさんを睨んでいるような…。
4人目、こちらはレノンさんを随員としているので魔術師ギルドの長、ステラ・シーズさんだ。
年齢はおそらく50前後くらい、魔術師はどちらかと言うと固い印象を持たれがちなのだがそれとは真逆の穏やかな雰囲気を持つ女性だ。
魔法行使よりは研究の方で多大な功績を上げたらしく、僕も興味があるので機会があれば是非話を聞いてみたいと思う人物だ。
5人目の人物は見た目だけでもう職人だと分かる男性。
ブラックさんを随員として連れているので彼の研究所が所属する工房の主であるガルドさんだろう。
若干煤けた豊かで白い髭をたくわえており、絵に描いたようなと表現出来る程に誰が見ても鍛冶師だと分かる風貌をしていた。
他の人物と違い1人だけ貴族ではないのだが…態度だけはなぜか一番偉そうに見える。 彼が呼ばれたのはこの集まりに必要な人物だからとの事だが…。
そして最後、6人目はこの集まりの主催である領主のベネギアさん。
随員は僕ともう1人、財務を担当しているらしいレイシーさんという女性だ。
30過ぎくらいの女性なのだが、少し話をしてみた感じでは淡々と物事をこなすタイプの人で少し冷たい印象を持った。
と言うかなんだか僕にだけ妙に冷たいような気がするんだよな…。
ベネギアさんやアンナさんとは普通に話をしていたし何か嫌われるような事でもしただろうか?
ともあれ主要6名が席に着きその後ろに随員6名が就いているのが今の状況だ。
他はアンナさんをはじめとする使用人が控えているがこちらは人数に数えなくて良いだろう。
「それでは始めようか」
そして、ベネギアさんの言葉で会議は始まる…。
…でもこれって何の会議なんだろ? やっぱり魔物関係なのかな?
手紙を自警団に届けた翌日、呼び出しを受けて来て見れば急にこの場に立たされていた。
出席者の簡単な説明は受けたのだが会議の目的については何も聞かされていなかった。




