第59話 調査依頼(前編)
レノン
おそらくこの辺りだと思いますが…。
私たちは今レオンリバーの街の北東方面、レオンリバー本流の上流部へと来ている。
レオンリバーの東門から半日程度の場所なのだが今日の仕事はこの周辺の調査であった。
ここは支流を挟みミルス村の対岸となる位置なのだが、人が住んでいるような様子はほとんどなく集落と呼べるような場所はなかったと記憶している。
レオンリバー内を経由しないと来れないので交通の便は悪く、魔獣の巣が近かったりと危険な場所でもあるので余程の物好きでもない限り住む者は居ないだろう。
一応本流付近で水石が採取出来るため、それを目当てにした者が小さな小屋を建てたりはしているがかなりお粗末なものであった。
それにしてもかなり冷えますね。
時期的なものは当然あるのだろうが河が近い事で周囲は真冬に近いほどの気温になっていた。
絶えず吹き付ける風もあり前の3人も上衣をしっかりと押さえながらも身を震わせている。
空の様子は…先日この辺りに黒い雲が垂れ込めていたという話を聞いたのだが今はそれ程でもないようだ。
日の光を多少遮ってはいるがそれだけ、ただ…西の空、レオンリバー北西部に暗雲が見えるのでそちらに移動しているようだった。
…今は余計な事を考えずに目的に集中しましょう。
「皆さん、そこの岩場に陣を敷きましょう」
「そうだな、そろそろ見に行ってもらおうか」
ほぼほぼ平野と呼べる地形なのだが小さな岩場のような物はあり一旦そこで荷物をおろす。
目的地の近くまでやってきたがここからは…1人で行ってもらう事になるからだ。
魔物の脅威を十分に理解している私たちがここ最近取るようになった手段、私は今でも賛同しかねるのだが成功率が高いのも間違いないので反対しにくい手段だった。
それはシアが単独で偵察に向かい可能であれば魔物を誘い出すというもの。
…娘に危険な仕事を任せたくはないが能力的に言ってレベル3の私やクリフが行くよりもシアの方が成功率が高い。
シアの得意魔法は風であり精霊魔法も使える。
匂いを消したり音を誤魔化したりと偵察任務に向いており、私も知らなかった事だが飛行することまで出来ると言うのだ。
このあたりは比較的見晴らしも良く障害物も無いので、仮に敵に見つかったとしても空に逃れてしまえば安全に逃げる事も可能だろう。
状況にもよるがこの役割に一番向いているのがシアなのは間違いない。
父親としては少し複雑な気持ちではあるが娘も危険を承知でこの冒険者という道を選んだのだ。
ここで娘を止めるのは娘に対してはもちろん、冒険者という職に対する侮辱ともなるだろう。
…まあ、それでも止めたいと思ってしまうのはやはり父親…という事なのでしょうね。
そんな私の気持ちを知ってか知らでか、シアは当たり前だと言わんばかりに偽装用の魔法を使用し本流へと近づいていった。
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シア
何も…いない…? そんなはずは…。
相手が魔物という事もあり見た目や匂いだけではなく魔力にも偽装を施してから目的の場所へと近づいた。
さらに魔力に視点を合わせる事で魔物の発見を優先していたのだが…。
おかしいな…これだけ濃厚な魔力が残っているのに姿がどこにもないなんて…。
魔物が持つ独特のどす黒い魔力が周囲に漂っているのに魔物の姿が見えない。
これだけでも異常な事なのだが他にも気になる事があった。
魔獣はいないし…そもそも生き物の姿がまったく…。
仮に魔物がいなくてもこの辺りなら大ガエルなどの魔獣がいるはずだ。
しかしそちらの姿も発見出来ず、さらに河を覗いてみても生き物の姿を確認する事が出来なかった。
何だか嫌な感じだ…これ以上深入りすると後戻り出来なくなるような…。
あれ?
「これは…?」
そんな状況下で周囲の調査を進めていた私は上流へ少し上った辺りだろうか、一度掘り返してから埋めたような土がむき出しになった箇所があり、そこの一部から何やら黒い靄…魔力が立ち昇っているのを発見した。
状態から見て何かが埋まっているのは間違いないのだが…。
…危険…かな、どうしよう、情報を持ち帰らないといけないし出来れば中を確認したいけど…。
少し迷ったが結局中を検める事にした。
もちろんすぐに離脱できる準備をしてからになるが周囲に気を配りながら少しずつ地面を掘り返していく。
…! こ、これ!
掘り返した地面の下には……人間の死体があった。
この服装、もしかして噂で聞いた軍の行方不明者…? でもなんでその死体がこんな所に…?
軍で行方不明者がでておりその捜索が行われているという話はすでに周知の事実となっている。
最初の頃は情報を隠蔽する動きがあったのだがある程度広まってからはもはや隠す気もなくなったようだ。
捜索活動も連日大々的に行われており今日も東門を出る前にその活動に当たっていると思しき集団を見掛けていた。
おそらくその行方不明者で間違いないだろう。
あちこちが破れ多量の血液と土で汚れているが先ほど見た兵と同じ服装だ。
それが何故こんな場所に…。
行方不明事件と魔物には関連が…でもこんな所に遺体を埋めてなんの意味……!
その瞬間はっ! と気付いた。
少し離れた位置、河の近辺にいつの間にか狼型の魔物が3体おりこちらの様子を窺っていたのだ。
その3体はどういう理由かすぐに襲い掛かってこないのだが、こちらの逃げ道を塞ぐかのようにゆっくりと移動している。
一体どこから……あっ…。
どこから現れたのか疑問に思ったのだがその答えはすぐに分かる、4匹目が近くの地中から湧き出てきたのだ。
物理的に潜っていた訳ではなく湧き出てきたのはあくまで魔力。
それが湧き出してから魔物の形をとったのだ。
逃げなきゃ!!
私はすぐに離脱の体制に入った。
私が正面からやりあってもせいぜい1匹の足止めが出来る程度であり複数に襲われたらひとたまりもない。
先に見つけておいた風の精霊に魔力を注ぎ顕現させる。
空に逃れてしまえば飛ぶことの出来ない魔物には攻撃する術はなく、多少跳ねた程度では届かない位置まで飛べばそれだけで安全は保障される…はずだったのだが、
あれ? 何だか…上手く…?
顕現させた風の精霊はいつもの通りの美しい姿だ。
しかし、どうしてかその動きを上手く操れなかった。
飛行は出来ているのだがその高度は低く逃げ切るのにはスピードも全然足りていなかった。
…さらに、
な、なに! あれ!?
先ほど見つけた死体から漏れ出ていた魔力が意思を持つかのよう集まりだし人型をした黒いモノが現れる。
その黒いモノは飛び去ろうとする私を瞳を持たない目でみつめその両手を開き…その瞬間、遠巻きに距離を詰めようとしていた魔物たちが一気にこちらへ駆け出したのだ。
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カレン
もどかしい…待っている事しか出来ないなんて…。
シアちゃんが向かった本流方面を見つめながらそんな事を考える。
私のレベルは現在2であり17という年齢で見れば高い方と言えるだろう。
でもそんな私でもシアちゃんの代わりを務める事は出来ないしそれはレベル3であるクリフやレノンさんでも同じだ。
どんなに高レベルであっても状況に応じた能力、今回で言えば身を隠し、偽装を施し、敵に見つからずに接近する技術持たなければ意味がない。
私は素早さを活かした戦闘が得意なので身を隠せるような場所さえあれば同じような働きを担う事も可能だっただろう。
だが今回のように障害物の少ない開けた場所では無理だ、どれだけ素早く動こうとも遠目からでも簡単に見つかってしまう。
…なので任せるしかないのだ。
レベル持ちとは言えPT内では一番低く、私にとっては妹のような存在でもあるシアちゃんに。
…そろそろ一度戻ってくるはずだけど…あ、戻って来……えっ!?
しかしそんな私の葛藤とは裏腹に、シアちゃん1人に全てを任せると言う事態にはならなかった。
「クリフ! レノンさん! 魔物が来てる!」
3人の中では一番目の良い私が最初に気付き伝える、こちらに向かって来るシアちゃんの後方に複数の魔物がいる事を。
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クリフ
「はあぁぁーー!!」
レベルが3に上がった事で使えるようになった技『一閃』、それを放ち魔物の弱点である魔力部分を切り裂く。
普通に切りつけるよりもするどい一撃となるそれは外皮の抵抗を受けながらもその内側まで刃を通す事が出来る技だ。
慣れたもんだな、初めて倒した時は1匹にも手こずったってのに。
「せいっ!」
声が聞こえる後方に少しだけ視線をやると俺と同じく魔物と対峙するカレンの姿が見える。
現状同じような技を持たないカレンは魔物に対し有効打を与える事が難しいのだが、何度も戦った相手という事もあり2匹の魔物をしっかりと抑えていた。
「二人とも、行きますよ!」
そして俺たち二人の中央に立つレノンは磨きのかかった強力な攻性魔法を放つ。
合図と同時に避ける俺とカレンの居た場所に不可視の衝撃が走るのを感じる。
初めて魔物を倒した時にも使っていたその風の刃は、あの時と同様に俺とカレンの前にいる4匹の触手の大半を切り飛ばしていた。
「これでっ!」
されにシアの精霊魔法による援護が入る。
木属性魔法だろう地面から伸びた蔦が触手を切り落とされ逃げようとしていた魔物の足に絡みつき動きを封じた。
この状態になればもう負ける要素はない。
攻撃手段を封じられ弱点を守る術を持たない魔物に俺とカレンで止めを刺すだけであった。




