4章幕間4 冒険者(3)
やあ、僕の名前はフィン。
27歳の男で皆が憧れる職業、冒険者をやっている者さ。
でもただの冒険者じゃあないよ。
レオンリバー内では10人もいない『上級』の冒険者さ。
レベルは…おっと、これは秘密だ! イイ男には秘密がつきものだからね。
冒険者としての役割は魔法を扱える剣士、いわゆる『魔法剣士』と呼ばれる役職さ。
剣を操りながら魔法による攻撃やサポートも行う、連携の取れた華やかな戦闘スタイルは誰よりも美しい僕にこそ相応しいと思わないかい?
おっと、また麗しの乙女を虜にしてしまったかな? 熱い視線を感じる!
あれは確か最近伸びて来た二人組で…そう、リンダとルナだ。
一度だけ一緒に仕事をした事があるけれどあれ以来恥ずかしがって組んでくれなくなってしまったな。
ふふっ遠慮しなくても良いのに。
でもごめんね、今日はこれから行くところがあるから愛の語らいはまたの機会で、ね♪
「悪い人じゃないんだけどねー…」
「ふんっ、余計たちが悪い」
…フィンが退館した後の冒険者ギルド内で大きなため息が二つこぼれたとか。
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フィン
ふむ、ここで間違いなさそうだが…なんだろうねこれは?
目の前に建っているのは一軒の地味な民家…ではなく、少々派手に飾り付け過ぎた道具屋らしき建物だ。
最近になって付け足されたように見えるそれはなんとも不釣合いで…はっきり言って異様なほどだった。
宗教的な意味でもあるのかなこれは? まあ良いか、これが何なのかも含めて聞いてみれば良いだけさ。
こうして眺めているだけではここまで来た意味がないし、人通りが少ないとは言え店の前に立っているだけなのも変に思われる。
目的は別にあるとは言えお客でもあるのだ、入っていけないという事はないだろう。
「いらっしゃいませー」
「あ、いらしゃいませ!」
お店に入った僕を出迎えてくれたのは二つの声だ。
あまりやる気の感じられない無気力な声と正反対な明るく可愛らしい声。
その声に導かれて声の聞こえた方に視線を向けると…。
「これはこれは…、なんとも可愛らしく美しいお嬢さん方だ」
店内には二人の少女がおり、そのどちらも声を掛けずにはいられない魅力を放っていた。
1人は獣人の少女。
小柄な体躯ながらその内に元気を詰め込んだような明るさを持っており、愛らしいという表現がこれほど似合う人物はなかなか居ないだろうと思える可愛らしさだった。
僕は獣人に対して偏見は持っていない…むしろ好んでいるとすら言っても良い。
同じ冒険者仲間にも獣人はそれなりにいるのだが、彼ら彼女らの人間には持ち得ない力に助けられたことが何度もあった。
それに獣人の中には美しい毛並みを持つ者もおり、美しさを求める僕にとっても彼らの立ち居振る舞いはひとつの美の形だと思っている。
目の前の少女はもちろん冒険者ではないのだろうが、それでも力強さに溢れる少女は十二分に魅力的だった。
そしてもう1人、こちらは同じ人間の少女? の様だが…。
無気力な中にも儚げな可愛らしさと美しさがある…が、やはり目を引くのはその背丈だろう。
平均的な大人の男性程の身長で女性の平均と比べると握り拳二つ分くらいは差がある。
小柄な少女が隣に居る事でその印象をさらに強めているとは思うが、大柄なタイプの獣人女性でもここまでの高身長は少なかったはずだ。
しかしそれは彼女の魅力を貶めるものではない。
今は着古したダボダボの魔導士風ローブを身に着けているが服装を変えれば一気に化けると思う。
「は、はぁ…?」
「えへへ、お世辞でもありがとうございます」
そんな二人が僕の挨拶に対照的な返事を返してくれる。
「いやいや、お世辞なんかじゃあないよ。
どうだい? 仕事が終わってから一緒に食事でも?」
「え…ええと…」
「あー、ごめんなさい。
お仕事が終わったあとは魔導技術の勉強がありますので」
「ありゃ、それは残念」
お世辞じゃないというのは本心だが食事の誘いは断られる事が分かったうえでのものだ。
背の高い方の少女はこの手の話に慣れていないようだが、獣人の少女の方がこちらの意図を理解してなのか上手く言葉を返してくれた。
さて、そろそろ本題に入ろうかな。
…うん、見たところ噂の錬金術師は人間の少女の方みたいだね。
ザナキや女性陣から聞いた内容と一致するし間違いはないだろう。
「…じゃあそうだね、確かここでは魔力を回復出来る魔法薬があるんだよね? それを2つ貰えるかな?」
「はい、やっぱり冒険者の方ですと魔法薬は必須ですよね。
ではリリナさん、魔力用の魔法薬を2つお願いします」
「ん、分かった、ちょっと待っていて下さい。
今日は抽出がまだなもので少々お時間をいただきます」
…そう言って奥の部屋へと消えていく少女を見ながら僕は頭の中で情報を整理していた。
ちょっと待っていて下さい…か、やはりすぐに魔法薬を用意してしまうという話も本当のようだね。
正直魔力を回復出来る魔法薬が作成されているという話もなのだが、魔法薬が注文してからすぐに出てくるという情報も完全には信じていなかった。
行きつけの錬金術店の者に聞いた事があるのだが、魔法薬の作成においてもっとも重要なのは魔力を籠める作業でありこれにはどうしても多くの時間と魔力を取られてしまうそうだ。
魔法薬の質が決まる工程でもあるので手を抜くことは出来ず、術師の魔力や技量にもよるが1日で作成出来る量はせいぜい5、6本程度との事らしい。
魔力を回復出来る魔法薬についても初めはどこかの遺跡に眠っていた品なのではと思っていた。
そんな便利な品がこんな人通りの少ない裏通りにあるお店で、しかも大銅貨5枚という通常の魔法薬ですらありえない破格で扱われているなどと聞かされても詐欺だとしか思えないからだ。
…しかし店内がえらく綺麗に片付いているな。
待ち時間を使い店内を見渡してみたが表の意味不明な飾りつけとは違って神経質に見えるくらいに片付いている。
使われている器具も念入りに手入れされているようで管理をしている人の生真面目な性格がよく出ていた。
おや、これは…。
そんな店内で目に止まる物があった。
並んでいる商品は錬金薬がほとんどなのだがその隅にひっそりと置かれている少数の魔道具だ。
魔道具自体は珍しい物ではないのだがそれらの品は僕の目を強く引いたのだ…悪い意味で。
うーむ…美しさの欠片もないな…手に取ることすら躊躇うレベルだ。
一般的に出回っている魔道具はデザインの優れている物が多い。
魔工技師には女性が多く各々が凝ったデザインを考案しているため自然と見た目も重視されるようになったからだ。
街中の配置されるような物もあるしそれは当然の流れだったのだろうが…目の前の魔道具はその流れに全力で逆らっていた。
安価な値段や小型だという利点はあるがそれだけに残念な商品だと思う。
「あ、いらっしゃいませ、冒険者の方…ですよね?」
そんな風に魔道具の眺めていると後ろから声が掛かった。
男性の声なので先の二人と別人である事は分かったがここの店主だろうか?
「ええ、魔法薬の購入に来たのですが魔道具もなかなかに面白いですね」
「ありがとうございます。
お一ついかがですか? あまり人気はありませんけれど性能は保証しますよ」
振り返り声を掛けてきた男を見るとわりとどこにでもいそうなタイプの人物だった。
平均的な背丈にやや細身の体躯、顔立ちは綺麗だがレオンリバー内を一回りするだけで数百人くらいは居そうなくらい平凡な感じの男だ。
男性の情報はなかったはず…魔道具もぱっとしないし見るべき所は特になさそうだな。
「いえ、やめておきます。
安いとは思いますが今使っているものがあるので」
「そうですか…」
ああ、そんな寂しそうな顔をしないでくれないか。
「…魔導武具でもあるなら見てみたいけどね」
男を慰めるなんて趣味じゃないがなんだか悪いことをした気になってしまいついそんな言葉を掛けてしまった。
さすがにこの店に魔導武具があるとは思えないが魔工技師であれば目標としているはずだ。
「魔導武具ですか…?」
「ああ、こんな感じの物なんだけど…見たことはあるかい?」
懐から取り出した小剣タイプの魔導武具を目の前の男性に渡す。
見せるだけでも良かったのだが実物に触れる事で励みになるかもしれない。
そんな軽い気持ちだったのだが…
「これは…風の刃を飛ばせる物ですね」
!? 何故…分かった…?
確かに彼の言うとおりこれは風の刃を発生させ敵を切り裂くことが出来る魔導武具だ。
魔力が切れている場合であっても内蔵されたプラーナを用いて放つことが可能であり、僕にとっては切り札となる武器の1つでもある。
…そう、切り札だ、敵が盗賊など人間の場合もあるので武器の性能を公にしたりはしていない。
同じ冒険者の仲間でもこの武器の性能を知っている者は少ないし、オーダーメイドなので同じ物を見たことがあるという可能性も無いはず、なのに何故…。
「…よく分かったね、同じタイプの物を見たことがあるのかい」
一応の可能性として確認しておく。
剣から魔法を放つタイプの魔導武具は比較的ポピュラーだ。
つまり当てずっぽうに言っている可能性はあるのだ…が。
「いえ、趣味で…もう趣味と名乗る訳にもいかないか。
これでも魔工技師なのでちょっと触れば分かりますよ。
風の刃…と、短時間の浮遊や一時的な加速なんかも出来そうですね」
「ちょっ、ちょっと待った!」
…なんなんだこの男は。
風の刃だけなら当てずっぽうだったり、考えたくはないが冒険者仲間から情報が漏れたという可能性でまだ納得出来る。
だが浮遊や加速についてはまだ僕自身も使っていない機能であり製作者であるブラック氏とも性能を秘密にする契約を結んでいるのだ。
ブラック氏が約束を違えるとは思えないしこの剣の性能は彼には知り得ない情報のはずなのだが…。
本当に少し触れただけで分かったと言うのか…。
そんな事が可能な技師が居たら…待てよ?
僕は先ほど眺めただけの展示されている魔道具を手に取る。
やはり外見には見るべき所はない品だが…。
「…ふむ、気が変わった、ここにある魔道具を全ていただけないかな?」
「え!? ぜ、全部ですか?」
彼が驚くのも無理はない、いくら1つ1つが安いからと言っても全部で10は超える数があるのだ。
その全てを購入しようと思ったら少々ではない金額になるだろう。
まあこれくらいであれば経費として見て貰えるはずだ。
仮にそれが通らなかったとして確実に値段以上の価値はありそうだし損はしないだろう。
「えっと…全部で銀貨22枚分になりますが…」
「じゃあ金貨2枚と銀貨で」
「はい、ありがとうございます…」
若干呆けている店員に代金を渡した。 すると、
「お待たせしました」
そのタイミングで店の奥から先ほどの少女が姿を見せたのでこちらにも代金を支払い魔法薬を受け取った。
購入した魔道具は量もあるので後日ギルドに届けてもらう事にした。
最初は拠点にしている宿を聞かれたがどうせギルドに持っていくのだ、ここからだとギルドの方が近く手間も省けるので直接届けてもらう方が良いはずだ。
こんなものだろうな、もともとは魔法薬だけのつもりだったし不足という事はあるまい。
「ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ良い買い物ができたよ」
それに想定外の追加はあったが彼女の事だ、きっと興味を持ってくれるだろう。
「ではお嬢さん方、次の機会には是非ともご一緒いたしましょう」
「えっと…はぁ…」
「はい、時間が合えばお付き合いしますね」
目的は果たしたので今日の所はこれで退散とする…が、きっとまたすぐに訪れる事になるだろう。
僕が彼等に興味を持ったと言うのもあるのだが、なにより…
「…なんかえらくすっきりしたね兄さん」
「ああ、僕も驚いたよ」
店を出る直前にそんな会話が後ろから聞こえる。
なるほど兄妹だったのか、これは良い報告が出来そうだな。
うちのギルド長がこんな人材を野放しにするとは思えないからだ。




