4章幕間3 親友
エレノア
退屈だわ、ユキノも忙しいみたいだし。
レオンリバーから王都ヴェルガンドに戻り数日が経った。
何日も留守にしていた為仕事はいくつか溜まっていたが、元々私に割り当てられる案件は少ないし重要なものに関してはそもそも回ってすらこない。
全ての仕事を片付けた私は鏡に映る自分の姿を眺めながら先日の出来事を思い出していた。
またお会いしましょう…か、そうね、私もそう思うわ。
あの街での生活はなかなかに刺激的だった。
荒事自体は珍しくないがあそこまでの規模のものとなるとなかなかないし、他にもハイエルフや可愛らしい獣人の子、面白い兄妹と…ユキノの新しい一面も見れたしね。
もちろん事件について中途半端な気持ちで首を突っ込んだ訳ではない。
各方面の情報収集も手を抜いたつもりはないし有能な人材だって見つけられた。
立場が無ければ解決するまで尽力したいところだったがあまりに長期間席をあけると必ず暗躍しようとする連中が現れるのでどうしても戻らざるを得なかったのだ。
父や兄が…特にあの兄だな、もう少しまともな人間であれば私も動きやすいのに…。
重要な仕事は主に父や兄が対処する事になるのだが…父はともかくあの兄に任せるのは少々不安が残る。
無能な訳ではない、むしろそこそこ有能ではあるのだがどうにも自分の趣味…というか意向を優先するきらいがあるためいまいち信用できないのだ。
…あの時に着けていた腕輪、少し煤けたそれを手に取る。
この腕輪は外見を自在に変える事が出来るのだが実はもう一つ隠された機能がついている。
それは装着者とその者によって登録された人物をあらかじめ指定しておいた場所に転送するというものだ。
発動する条件は装着者が任意に起動する場合ともう一つ、装着者、登録者のいずれかが攻性の魔法にさらされた場合にも発動する。
魔法にしか対応しておらず装着者の近くにいないと発動しないため確実に安全とは言い難いが、弓などで遠くから狙撃されない限り命を落とすような事態にはならないはずだ。
登録するためには腕輪を装着した者が対象の人物に触れる必要があるのだがそれは初日の握手の時に済ませておいた。
おそらくそれも変装がバレた一因だとは思うが…まあ彼にはどちらにしても隠し通せなかっただろう。
つまり、あの時魔導兵器の解除に失敗していても私とララだけは助かる事になるのだ。
『あなたは絶対に死なないから』 …ユキノが泣いちゃうからね。
もちろんそんな結末は望んでいなかったしそうなった場合ララの身柄を拘束する必要まで出てきてしまう。
転送先はレオンリバー内にある機密エリアなのだが当然一般人が入って良いような場所ではない。
見られた以上何日かの拘束の後解放となるが、監視の目だけはずっと残る事になってしまうのだ。
…こちらの都合を一方的に押し付ける事になるがそれでも私は彼の力が本物なのかを確かめたかった。
彼にとっては迷惑な話かもしれないが私はララが欲しいと思っている…もちろん配下としてだ。
私にも配下と呼べる者は大勢いるし有能な人物もそれなりにいるが、信頼していると呼べる人物はどれだけいるだろうか?
無論信頼の置けない配下に重要な仕事を任せたりはしないがそうも言ってられない状況も多々ある。
だがそんな時に魔導技術に関連する内容なら任せられる人物が1人でも居ればどうだ? そこから解決の糸口を掴める場合もあるかもしれない。
…それに彼ならユキノとも良い仲だ、一緒に仕事をする人材として重宝する事だろう。
……はぁ、嫌だわ、こんな打算でしか動けないだなんて…。
個人的な心情で言えば歌姫としての活動をしつつユキノと…まあララが一緒でも構わない、気ままに各地の街を回り色々なものを見てみたいと思っている。
だがその為に何もかもを捨て、慕ってくれている人達を忘れるということは出来ない。
頑張るしかないのよね、ユキノとの平穏な日々の為にも。
私にしか出来ない事がある、私がやらなければならない事がある。
ならばそれをこなそう、それが私に与えられた役目なのだから。
「それにしても暇だわ……初等部の学舎にでも行こうかしら?」
とりあえず急ぎの用事が無い今日の午後は今後のため英気を養う事に決めた。
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雪乃
ララさんと仲良くなれたのはエルのおかげだと思う。
魔獣討伐の仕事を淡々とこなしながらも私はそんな事を考えていた。
正直言ってあまりこの仕事は好きではないのだが、近隣住民に被害が出ているという話でもあるし手を抜いたりは出来ない。
だが剣を持って戦うというのは長年平和な世界で暮らしていた私には馴染みのない活動だし、生物を殺すという事にも苦手意識があった。
…慣れちゃうのもやだしね。
だからこの仕事をする時は別の事を考えるようにしている。
あまり難しく考えると体よりも先に心が参ってしまうから。
でも、この世界に来て良かったと思える事もありエルとの出会いはその1つである。
彼女は1人きりで不安だった私に色々な物を見せてくれた。名目上は護衛という形になるが各地を回り色々な物に触れる事が出来たのは楽しかったし一番思い出に残っていた。
日本とは違う独自の文化、特に魔法という未知のものが浸透したこの世界ではそれに依存した街づくりがなされており、魔道具と呼ばれる電化製品の様な物が扱われているのがとても面白かったのを覚えている。
そんな街をエルと一緒に見て回るのは楽しかった。
時折露店で買った軽食をつまんだり、洋品店の鮮やかな装飾に目を奪われたりしながら…あの頃と同じように…。
そしてもう1つ、こちらはある意味悩みでもあるのだが……恋をした事だ。
相手はララさん、記憶にある限りでは初恋だと思う。
初めてのデート、邪魔が入ってしまった事は悔やまれるがもしかするとあれが無ければここまでの気持ちにはならなかったかもしれない。
…今思い出しても赤くなってしまうあの時のララさんの言葉。
『今日のユキノさんは、一番魅力的で可愛い女の子でしたよ』
『ただの化物にあんな魅力的な笑顔は出来ません』
『また僕とデートしていただけますか?』
少しキザに聞こえる言葉だけれど…嬉しかった。
元の世界、日本に居た時にもあそこまでちゃんと女の子扱いされた事はなかったと思う。
小柄なことで子供扱いされる事が多く、空手を習っていた事もあってか同年代男子からもやんちゃなクラスメイトみたいな目で見られる事が多かった。
だから余計に嬉しかったのかもしれない。
勇者や…化物とまで呼ばれていた私が可愛い女の子と言われ…デートにも誘ってもらえて…。
辛い事が多いこの世界。
時が来れば帰る事が出来ると言われているがそれがいつになるかは分からないらしい。
最低でもあと8年だったか、もしくはまだ10年以上かもしれない。
ずっと待ち遠しく思っていたのだが…今は少し迷いがある。
エルとお別れになるのは寂しく感じるだろうとは思っていたがララさんとも会えなくなってしまうのだ。
帰りたくないという事はない。
急にいなくなった事で両親にどんな思いをさせているかを考えると辛いし友人や飼い犬に会いたいという気持ちもある。
だがこちらで出来た親友や想い人の事を考えるといつか来るはずのその時を歓迎出来るのだろうか? 今の私はこの問いに対する答えをまだ持っていなかった。




