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EX9 ピッセル(3)後編

「そうよ、あなた急にいなくなってるんだもの、びっくりしたわよ」


「あう…ごめんなさい、私も急な事で連絡を取る余裕がなくって…」



 私に話し掛けてきた少女、彼女の名はシェリー。

 レオンリバー内では数少ない友人と呼べる間柄の人物だ。


 肩まで伸びた髪に切れ長のパープルアイ。

 服装は少し地味目ではあるが素材や仕立てが良いのだろう、彼女の持つ年齢に見合わない魅力を引き立てていた。



「工房に戻ってきたらあなたが破門されたって話を聞いたから…」



 そして彼女は私と同じ魔工技師を志望している女性だ。

 外見は少し良い所のお嬢さんと言った風に見える…まあ実際そうなのだが、魔工技師に掛ける情熱は私以上と言えるかもしれない。

 何度か回路作りをしている所を見た事があるのだが、見ているこちらまで熱くなってしまう真剣な顔をしていたのを覚えている。


 お別れの挨拶が出来なかったのは私がブラック師匠の工房を出た時に彼女が実家に帰っていたからであり、落ち着いたら連絡を取ろうと思っていたのだが…まさかこんな急な再会になるなんて思っていなかった。



「でも良かった、元気そうで」


「シェリー…」



 そう言ってシェリーは軽く私を抱きしめてくる。

 彼女の温もりと久しぶりに聞いた声、それは私に安心感を与えてくれるものだった。

 …のだが、その…それと同時に彼女の豊満なそれが私の体に押し当てられて…。


 …そう、彼女は私と同じ年齢、同じように小柄な身長なのだがなぜかそこだけは天と地ほどの差があったのだ。


 あう、再会は嬉しいんだけど…うう、なんでこんなに違うんだろ…。




 ―――――――――――――――――――――――





「そっか、そんな事があったんだ…」



 しばらくは再会を喜びあっていたのだが、落ち着いた事で次はお互いの近況について話をしていた。


 近くのお店で飲み物を購入しその店頭に設えてあった二人掛けのテーブル席につく。

 そこでこれまでにあった事、現在どうしているか等を話しシェリーからも工房の様子を聞かせて貰う事が出来た。



 その中で一番驚いた内容はブラック師匠の事。

 なんでも私が工房を出てからお弟子さんの指導にえらく積極的になったというのだ。


 私が工房に居た頃の師匠は自分の研究に没頭している事が多く、教えを請えば答えてくれるが積極的に指導はしていなかった。

 …別に積極的でない事を責めている訳ではない。ブラック師匠にも自分の仕事があるのだし、その合間にとは言え教授して貰えるだけありがたい事なのだ。


 だが最近は自分の研究もそこそこにブラック師匠の方から弟子の様子を見に来てくれるようになっているらしい。どんな心境の変化かは分からないけれど…きっと皆喜んでいる事だろう。







「私も安心したよ、新しいお師匠さんが良い人そうで」


「うん、私もこっちでなら頑張れると思う」



 そして私の方も今の恵まれた生活についてをシェリーに話した。 

 ブラック師匠とララ師匠の約束、私の指導を託した件については話せないが、毎日楽しくやれていることや最近はどんどん上達している事など話題は尽きない。

 ララ師匠もリリナさんも良い人だし、毎日ご飯は美味しいし、お店の仕事だってやりがいはあるしと私の事だけであればこれ以上ないくらいに順調だと語る事が出来た。


 けれど…。



「そっか、疲れてる様子なんだね」



 流れでシェリーに師匠の事を話したが、同じ魔工技師を目指す仲間だし相談相手としては適任だったかもしれない。



「うん、何か私に出来そうな事って無いかな?」


「うーん、お金に困って忙しいのならうちで融資するって手はあるよ。もちろん優秀な技師ならって条件はつくけど」


「お金か…どうなのかな…」



 シェリーの言う融資とはそのままの意味だろう。

 彼女の実家は魔道具の専門店、しかもかなり規模が大きくレオンリバー内では最大手の店だ。

 シェリーが魔工技師になったのも小さい頃からそんな魔道具に囲まれて育った事が一番の要因であり、それを作り出す仕事に興味を惹かれたからとの事…そんなシェリーのお店が融資をするという事は当然優秀な技師の育成が目的だと思われる。


 ララ師匠が優秀な技師であることは間違いないだろう。

 私では再現どころか理解が及ばないレベルの魔道具、魔導武具まで作り、ブラック師匠にも認められている一流以上の魔工技師だ。

 ただ私がララ師匠の所に身を寄せる事になった経緯はあまり公には出来ないのでその辺りは話さない方が良いだろう。



「なるほど、ブラック師匠が認めるほどの技師なら間違いなく優秀でしょうね。

 それに魔導武具まで作れるなんて…私もちょっと興味があるわ」


「一度会ってみる?」


「んー…今はまだやめておこうかな。

 でも融資の話を申し込むんだったらお店に来てよ、優先して貰えるように話しておくからさ」


「うん、ありがとシェリー」




 ―――――――――――――――――――――――




 問題の解決にはならなかったがシェリーと再会できて良かったと思う。

 学ぶ場所は別々になってしまったがやはり友人でありライバルでもあるシェリーとの再会は私のやる気を満たしてくれた。



「それじゃあ買出しの途中だったし私はそろそろ行くね」


「うん、また…あっそうだ! 最後に1つ良いかな?」


「えっ?」



 買出しの途中だった事を若干失念していたが、少々ゆっくりしすぎた為そろそろ仕事の続きを始めようとした所でシェリーから待ったが掛かった。



「少し先の話なんだけどさ、うちの店でこんなイベントをやる予定なんだ」



 そう言って手提げ袋から1枚のチラシを取り出すシェリー。

 そのチラシに書かれていたのは、


 ―――――――――――――――――――――――

   第8回魔道具コンテスト!!

      君の手で最高の魔道具を!


 恒例となりました当魔法具店魔道具コンテストを今年も開催いたします。

 上位入賞者には賞金に加え商品化へのサポートを予定しております、皆様奮ってご参加下さい。


  日時 一ノ月 10日~15日


  会場 ミランダ魔法具店中央広場


  募集要項

 ・魔道具であること(魔導武具不可)

 ・フリーの魔工技師であること(工房経営者のエントリーは出来ません)

  ※ 工房ごとに特設スペースを設けますのでそちらでの参加をお願いします。

 ・火、水、土、風、氷 光の6属性。

  加え複合属性の合計7部門にて審査を行います。

 ・お1人様につき3作品までエントリー可能です。

  ※ 2名以上の合作の場合各々1作品分とみなします。


 注 魔導武具のエントリーは本コンテストでは受け付けておりません。

  (五ノ月開催予定の魔導武具コンテストにて参加願います)


  応募締め切りは九ノ月末日となります。

  応募者の方には後日説明会の案内を送付いたします。

 ―――――――――――――――――――――――



 コンテストか…、これで上位を取れば魔工技師として一人前と言えるかな?


 一ノ月ってことは今が八ノ月だから5ヵ月後、時間は十分にあるしなにより面白そうな催しだ…が。



「どう? 参加費は掛からないしピッセルも出てみない? なんならお師匠さんが一緒でも大丈夫だよ。工房は…さすがに持っていないよね?」


「うん、それは大丈夫だけど…」



 シェリーのお誘いは嬉しいし私もちょっと興味を惹かれる内容ではある。

 …だがこれに参加しようと思ったらさらに師匠に負担を強いる事になるはずなので二つ返事で応じる事は出来ない。



「お師匠さん忙しいんだったよね…まあ相談だけでもしてみてよ、無理にとは言わないからさ」



 まあ相談くらいならしても良いかな? ダメって言われたら諦めれば良いんだし。



「…良いよ、相談だけでもしてみるね」


「良かった、それじゃあ参加するって事になったら師匠の工房…は近づきにくいかな? うちのお店の方にでも良いから連絡をちょうだい」


「うん、分かった」





 そうして話を終えたシェリーはブラック師匠の工房へと帰って行った。

 場所が場所だけにこちらから会いには行き辛いが、ララ師匠のお店の場所は伝えたし今後はお休みの日ならゆっくり会う事も出来るだろう。


 さて、私もそろそろ行かないと。


 シェリーを見送った私も買出しを再開し、思ったよりも時間が経っていたなと思いつつ次のお店へと歩を進める。

 …しかし、どうにも先のチラシの事が気になり手に持ったままのそれへ自然と視線が吸い寄せられていた。


 …聞いても良かったのかなこれ?


 気になった…まあ嘘ではないのだが実はコンテストの事ではない。

 先にチラシを見た時にも当然それは目に入ったのだが…本人に聞くのが少々躊躇われるものだったのだ。


 どう見てもシェリーだよねこれ?


 このチラシには当然必要な事項が書かれているのだが、その中心にはなぜか少し扇情的な格好したシェリーが描かれており、内容をちゃんと見ないとミスコンでもやるのかと勘違いしてしまいそうな出来栄えとなっていた。


 もしかして実家に帰ってたのってこれを作るためだったんじゃ…。


 買出しの仕事はきちんと終わらせたのだが、お店に帰るまでずっとその事が気になり続けたのだった。

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