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EX7 ミゼリア・ウォーレット(3)前編

4章開始より前の話です。

 ミゼリア




「この家で間違いなさそうね」



 そう独りごちる私は今1軒の民家の前に来ていた。


 ここは先日ララに教えてもらったレオンリバー内で通称『西の森の魔女』と言われている人が住んでいる所だ。

 まあ現在はこのレオンリバー内に住んでいる訳だから『西の森の』と付ける必要はないのだろうが、私が生まれる前からその名で呼ばれていたらしいし今更訂正する事でもないだろう。


 現在の時刻は夕食にはまだ少し早いだろうという時間だ。

 日の高いうちに会えるならそのほうが良いのだが、自分もそうだが相手にだって仕事はあるし頼み事をするのだから慌ただしくならないようにと配慮した結果この時間になってしまったのだ。


 個人的な頼みだから連絡は入れていないけど…この時間なら多分居るでしょ。

 えっと、確か音の増幅を使っているのよね…。


 扉にかけられている魔法の事はララから聞いていたのだが、軽く叩いただけでも大きな音を出す扉には少し驚かされてしまった。






「誰だい?」

 


 ノックした扉の向こうから若干しわがれた、だが力強い声が返って来る。



「ミゼリア・ウォーレットと申します。

 あなたにお願いしたい事があり参りました…ロメット・ディザイユ様」


「……ウォーレット、領主のか……良いだろう、入りな」

 


 ロメット・ディザイユ そう、彼女は私と同じ貴族だ。


 ディザイユ家は王都でもかなり名のしれた一族で、魔法の扱いに掛けては他家の追随を許さない程に長けていると言われていた。

 その実力を見込まれ一族は代々宮廷魔導士として王に仕え、彼女の母に至っては実力で宮廷魔導士の筆頭にまで登り詰めたのだ。


 そして彼女自身も優秀な魔導士として将来を期待されていた。

 筆頭に登り詰めた母よりも高い才能を秘めていると評価され、魔法の教鞭を取りつつも将来は母の後を継ぐため宮廷魔導士になるだろうと言われていた。 …らしい。



 当然私が生まれるより何十年も前の事で、これらの話は同じ軍の魔導士や両親から伝え聞いただけのものだ。

 しかしどこまでが真実なのかは分からないがここまでの内容はおそらく本当の事だろうと思っている。




「なんだい、やけに可愛らしい声だと思ったら子供じゃないか。

 まったく、どこでディザイユの名を知ったのやら…」



 扉を開け姿を見せたのは聞いていた年齢通りの老女だ。

 だが歳はとっていても弱々しい印象は一切なく、むしろ大人の男性相手であっても力でねじ伏せてしまいそうな程の凄みがあった。



「初めましてディザイユ女史。

 私は先ほど申し上げた通りミゼリア・ウォーレットと申します。

 ご存じかもしれませんがこの街の領主、ベネギア・ウォーレットの娘です」


「だろうね、姉の方は王都に居るみたいだし子供でウォーレットを名乗る人物は他にいないだろうさ。

 …だけどお嬢ちゃん、私はもうディザイユの名は捨てたんだ。

 今の私はただのロメット、その名を出されても答える事は出来ないよ」



 彼女はディザイユの名で呼ばれると苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 無かった事にしたい過去、思い出したくもない名を聞かされて不快である事を隠そうともしていなかった。


 もう何十年も前の出来事なので私が聞いた事件が真実であったかは確かめようがない。

 だがもし真実であったら…名を捨てた彼女の気持ちも分かろうというものだ。



 …これは私が口を挟む事ではないわね。



 しかし彼女の問題はなんの関係もない私がどうこう言えるようなものではないしすでに過去の出来事だ。

 名を知っていたため一応貴族相手としての礼を示したが、本人がそれを望まないと言うのであればその意向を無視する理由はなかった。



「分かりました。

 ではロメット様、改めてお願いしたい事があります。

 聞いていただけますか?」


「…良いだろう、聞こうじゃないか」



 私が過去の話題から離れた事で気を良くしたからかは分からない。

 だが、子供だからと追い返される事はなく彼女は私の頼み事を最後まで聞いてくれた。







「なんだい、ララの知り合いなのかい」



 私の話を聞き終えたロメット女史はそう言って相好を崩した。


 魔法の指導をお願いしたいという話を出した時に少し面倒くさそうな反応をされたが、ララから聞いて訪ねたという事を話すとその態度を軟化させる。


 ふーん、何かあったのかしら?


 ララからは仕事で西の森に行った事、そしてその依頼主であるロメット女史がレオンリバーに来た事しか聞いていない。

 だが彼女のこの反応からしてただ依頼された仕事こなしただけという訳ではないだろう。

 もっと何か、彼女にとって大事な事に関わっているのは間違いないと思われる。



「はい、ララには仕事を依頼しておりましてその折にロメット様の事を聞きました。

 …彼がどうかされましたか?」



 聞いても良い内容か少し迷ったが、彼女の様子からして悪い話ではないだろうと思い尋ねてみる事にした。



「ああ…私には娘がいるんだがその子にとても良くしてくれてね、娘もララの事を慕っていて…仲の良い兄妹のようだったね」



 娘? 娘がいるなんて話は聞いた事なかったが…まあ王都を離れてからの子供と考えればおかしくはないか。

 …でもまって、この人の娘さんとなると若くても40歳近くにならないかしら? 孫とかならまだ分かるが娘というのは…いくらなんでも姉弟と言うには無理がある気がするわね。



「お嬢ちゃんもアレに誑かされた口かい? こんな小さな子にまで手を出すなんて悪い男だねほんと」


「誑かされてなんてないわよ!!」



 上機嫌なロメット女史の軽口に思わずツッコミを入れてしまった。

 冗談だと分かっているしむきになって否定するような事でもないのだがついつい口から出てしまったのだ。


 私にとっての彼は…そうね、仕事上でのパートナーのような存在かしら?


 付き合いはまだまだ短いし彼の事を詳しく知っている訳でもないが、私の話をちゃんと聞いて理解し要望に応えた品を提供してくれる。

 今の私は魔導士としてもまだまだ未熟だし金銭でしか返せるものはないが、将来魔導士として大成したら必ず彼が望む報酬を用意したいと思っている。


 そもそも私はまだ12歳になったばかりだ。

 年齢差だけで言えばありえなくもないが…成人すらしていない私に対しララがそういう関係を望めば間違いなく変態として扱われる事だろう。




 ―――――――――――――――――――――――




「なんだいそのダサい布切れは?」



 ロメット女史の家を訪ねた翌日、私は同じくレオンリバー南西部にある公園に来ていた。


 ここの付近は主に住宅が密集しているのだが、学舎や私塾も多くあるためそこの学生が様々な競技や訓練で使用している。

 そのため魔法を学ぶ学生用の訓練施設までありまだ日も高い時間だと言うのに今も多くの人で賑わっていた。



「…その意見には同意しますがこれを作ったのは彼、ララですよ」




 昨日は紆余曲折あったがとりあえず私の要望、魔法の指導をして欲しいという要求は受け入れて貰えた。


 そもそも近くの学舎で教鞭をとっているのだから相応の報酬さえ貰えるなら断る理由はないとの事だ。

 もちろん小さな子供に教えるような内容とは違うのだが、とりあえず腕前を見せてみろという話になり今日こうして訓練用の装備を付けてきたのだ。


 昨日の今日でいきなりって、まあ早いに越したことはないのだけれど…。


 日程が今日になったのは単純にロメット女史の都合らしい。

 急ぎの用件はなかったので来ることは出来たが、朝早い時間から休暇の届けを出しに行く羽目になったし、当日の届けという事で上の人間から注意を受ける羽目にもなってしまった。







「さて、それじゃあさっそく見せて貰おうかね」



 ララの魔導武具の腕に巻き付けて…我慢我慢、準備を終えた私にロメット女史から声が掛かる。

 何故か他の利用者も遠巻きにこちらを見ており、この魔導武具を巻き付けている恥ずかしさもあるのだが注目されている事で少しの緊張も混じっていた。



「普通に魔法を放つだけですか?」


「ああ、とりあえずそれでやってみな」



 …とりあえず下級魔法からかな。



 狙いを定めながらの問いに簡潔な答えが返って来たので魔法を放つべく精神を集中させる。


 燃える炎のイメージ、真っすぐに飛ぶ矢のイメージ、それを合わせた真っすぐに飛ぶ火炎のイメージを作りそこに魔力を注ぎ込む。

 これをスムーズに出来る事が優秀な魔導士の条件の1つだと言われていた。

 それらをさらに発展させる事で中級、上級と評価されるようになるのだが、それぞれ対応した魔法のレベル、中級なら4、上級なら5に達していないとイメージを作れないかもしくは作ったイメージがすぐに破綻してしまう事になる。


 逆を言えば出来る者がそのレベルに達していると言えるのだが、とにかくこのイメージを作り維持するという部分が重要なのだ。

 才能のない人はどれだけ訓練をしてもまともに扱えないし才能があっても下級が精々という人も多い。

 私は特に高い才能に恵まれていたと言えるのだがそれでもまだ中級までしか扱えなかった。






 でもやっぱり凄いわこれ。


 発現させた魔法を放つ瞬間、右腕に巻き付けた布から強い魔力を感じる。

 単純に魔力を集め威力を強化してくれているというのもあるのだがこうして改めて使ってみる事で分かる事があった。


 この魔導武具は私の作ったイメージの強度まで同時に引き上げてくれているようなのだ。

 真っすぐに飛ぶ火炎、それをより速く、より遠くまで、強度が上がっているため魔力のロスも少なく本物の矢のように綺麗な()()となっていた。



 ぱすっという軽い音がして訓練用に設えられた的に私の魔法が命中した。

 ここの的は軍の訓練場に置いてあるような上等な物ではなく的となるデザインが描かれだけの木の板なのだが、それの当たり前のように貫通しながら燃え上がらせ背後にある石壁を少し焼いて私の魔法は消えた。


 前のよりはまだ普通…なのよねこれでも。


 冷静に考えてしまうと木版と言えど貫通する威力になるのは異常なのだが、前のように障壁を打ち抜く程の威力は無さそうだし魔力が増したりするような事はなかったので相対的に見てまともなものに見えたのだ。

 我ながら毒されてるなとは思うのだがこれくらいの威力であればぎりぎり使用にも耐える事だろう…まあそれでも人間相手には避けるべきだが。



「その魔導武具の効果かい? 危なっかしい物だね…」



 ロメット女史は私の魔法の結果に驚いた声をあげ周囲で見ているギャラリーからは何故か拍手や歓声まで上がっている。

 評価される事自体は嬉しいのだが見世物の珍獣ような気分であり恥ずかしさの方が勝っていた。



「どうでしょう? 一応中級までは可能ですが」


「やめときな、その威力で中級は危険すぎる。こんな場所でおいそれと撃つもんじゃないよ」



 ま、そうなるわよね。


 前の品程ではないがこの魔導武具でも中級を撃つのは怖い。

 イメージを強化するという事は中級に求められるもっと広範囲にと言うイメージも強化される事になる。

 こんなギャラリーの多い場所でそんなものを撃ったらどんな被害が出るか…。



「それではどのようにすればいいのでしょうか?」



 中級が撃てないとなると出来る事はそれ程多くない。

 攻撃魔法以外のものや別属性の魔法、候補となるものはいくつかあるがどれも実力を見るという目的には不足しているように思えた。



 …そんな私にロメット女史が提案してきた課題は今まで魔法に対して思い描いていたイメージを大きく塗り替えるものであった。





「それじゃあ私が今からやる魔法を真似てみな。

 これが出来るようだったら私から教えらえる事はないだろうからね」

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