第46話 デート
ここで装備していきますか?
「わっ! これっ! これすっごく美味しいですよララさん!」
僕は今ユキノさんと一緒に少しだけ豪華な昼食をとっている。
仕事はどうしたんだ? と言われるかもしれないが、午後からはリリナが店番をする予定だったので少し早めに代わって貰ったのだ。
「ええ、本当に美味しいですね。
これはさすがに家庭で再現するのは難しいかな?」
ユキノさんへ返答しつつ僕もこの初めて食べる豪華な食事を楽しんでいた。
あの後ユキノさんは僕のデートのお誘いを受けてくれた。
「ふぁ、は、はひ! お、お受けい、いたしたくおもいまふ!」…とかなりどもってはいたが、こうして目の前で楽しそうにしているユキノさんを見れば誘ったのは間違いじゃなかったと確信出来た。
お昼時なのでまずは食事をと考え、デートなのだから少しくらいは奮発するかと思いこの何度か前を通った事はあるが一度も入った事のない少しだけ高級感のあるお店へ来たのだ。
ただ高級と言っても一応は大衆向けのお店らしく、フォーマルな格好を要求されたりとかはしないので気軽に食事を楽しめる所ではあった。
まあそれでも数日分の食費は飛ぶような額だけどね…。
「食事が終わったら次はどこへ行きましょうか? ユキノさんはどこか行きたい所はありますか?」
デートをするにしては少し遅いスタートだったので使える時間は午後だけしかない。
ただ、行く場所の候補になりそうな所は先日の観光であらかた回ったし、僕が趣味で行くような場所はさすがにデートには不向きなのでユキノさんに興味がある所でもあればと思ったのだ。
デートなのだから男性側がリードした方が良いのかな? とも思ったが、それで変な所に連れて行くよりはましだろう。
「えーっと… あっ! そうだ、あそこが良いかも!
前に来た時に見かけたお店なんですけどとっても素敵だったんですよ!」
「なるほど、では次はそこに行きましょうか」
行きたい所があるのならそれが一番良いだろう。
でないとまた適当にぶらついた後に公園に行くみたいな流れになっちゃうからね。
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さて、そんなわけでユキノさんが言うお店までやってきたのだが…
場違い感がすごいな…。
そこは僕も知っている所、先日リリナが覗き込んでいたあのお店だった。
店内には所狭し…でもないか。
表から見ただけでは分からなかったが奥行きがかなり広く、いたる所に高級そうな…いや、超高級と言える衣類が並べられている。
装飾も煌びやかではあるが派手過ぎず程よいバランスの華やかさに溢れており、名のあるデザイナーが手掛けたのだろうと思える出来栄えであった。
以前に見た時の事から察しはついていたのだがこのお店は極々少数の大富豪、もしくは王族クラスの人達が利用するような店なのだと思われる。
食事の時は見栄を張って支払いを申し出たのだがここは無理だ。
ハンカチの様な小物まで金貨に届きそうな値段がするとかどうあがいても手が出せるような代物ではなかった。
「…ユキノさんはいつもこのようなお店を利用されているのですか?」
「いえ、普段は武具のお店に行くことはあってもこういう所はあまり…でも今日は…えっと…デートなので良いかなと思って…」
僕の問いに答えるユキノさんはとても恥ずかしそうにしているのだが、その姿は僕が今まで出会って来た女性の中で一番女の子らしいものに見えた。
最近出会った女性陣を含め可愛い人や綺麗な人はたくさん居たが、少々癖の強い人物が多くこういう女の子らしい女の子というのは少なかったように思う。
…もちろんこの華奢で小柄な体躯に凄まじい力を秘めている事は知っているのだが、それでも守ってあげたくなるような可憐な可愛らしさを今のユキノさんからは感じられた。
「あっそうだ! ララさん、良ければ選んでもらえませんか?」
「え? 選ぶ…というと服をですか?」
「はい!」
そんな風にユキノさんの事を考えていると、その当人から難題と言えるお願いをされてしまった。
「その…僕はこういった物のセンスが皆無でして。おそらくご満足いく物は選べませんよ?」
ここは先も言った通りかなり広く、それに比例して展示されている商品もかなり多い。
この中からユキノさんに似合う商品を見つけ出すとなると店に対する慣れもあるだろうが、何よりも服飾に関する高いセンスが求められるだろう。
自分でもそういったものが欠如しているという自覚はあるし、初めて入ったこのお店でユキノさんに似合う物が選べるとはとてもではないが思えなかった。
「大丈夫ですよ! ララさんあれだけ色々な事を器用にこなせるんですから!」
うーん、そこまで言われたらやってみても良いが…大丈夫だろうか?
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やはり大丈夫ではなかった。
「この中だったらどれが好みですか?」
最初は一応僕が選んでいた。
店内をあちこち回ってこれなら良いかな? と思う物を選んではユキノさんに見て貰っていたのだ。
だがそんな事を3,4回繰り返した辺りでユキノさんもようやく僕のセンスを理解したらしく、それからは逆にユキノさんが持って来た物の中から僕が選択するという流れにシフトしていった。
「これなんか良いんじゃないですか」
「それ…です? でもそれだとさっきのやつとあまり合わないような…」
そうなのか…なら何で持って来たんだろう?
しかし、その方法にシフトしたからと言って僕が良い物を選べるという訳でもなく、最終的に選ばれた物は僕が選択しなかったものを集約すれば完成するんじゃないかと思える衣類一式であった。
「えーっと…ある意味参考になりましたよ?」
酷い言われようだと思うが否定も出来なかった。
「それじゃあお会計してきますね」
「これ全部ですか?」
目の前に並んでいる衣類一式、一つでも金貨数枚の価値があるようなのだがこれを全部?
「はい! こんなお買い物は久しぶりなので少し奮発しちゃおうかなって♪」
「はぁ、すごいですね」
冗談か何かにしか聞こえない内容であったがユキノさんは普通に会計を済ませていた。
僕の年収の半分くらいの金額をこうも簡単に出せるユキノさんは何者なのだろう? しかし楽しそうにしている彼女にそんな野暮なことを聞く気にもなれなかった。
「こちらでお召しになりますか?」
「え? ここでですか?」
「はい、こちらででしたらすぐにサイズの直しなども致しますので」
ユキノさんが会計を済ませると店員さんからこのような申し出があった。
これも高級店ならではのサービスなのだろう。
今着ている物を宿に送るサービスもしており、まさに至れり尽くせりといった感じだ。
「良いんじゃないですか? その方がデートっぽくなりますよ」
「…はい、じゃあ行って来ますね」
ユキノさんはあまり迷わずにその申し出を受け店の奥へ向かう。
さて、どんな感じになるだろうか?
「…とてもお綺麗ですよ」
「そう…ですか? 私には不釣り合いだったりしないでしょうか?」
「いえ、とても良くお似合いですよ」
着替えを終え帰って来たユキノさんを見た時、僕が最初に抱いたのは綺麗な調和だ、という印象だった。
ユキノさんは先から述べている通り、とても女の子らしいどちらかと言うと可愛らしい感じの方だ。だが今の服装、青の長いフレアスカートに薄緑のシャツ、その上に薄手のコートを羽織った格好はそれとはまた違った印象を抱かせるものだった。
ユキノさんの特徴である黒髪黒目との相性も良く、今の彼女は深窓の令嬢とでも言えそうな程に気品のある清楚なオーラを放っている。華美ではないが控えめなお嬢様という様相の彼女は、これまで見て来た力強いイメージとは真逆のものでとてもお淑やかな姿であった。
元が冒険者の格好だったというのもあるんだろうけど…こうまで違うんだね。
「ありがとうございます、ララさんのおかげで良いものが選べました」
「いえ、僕なんて邪魔にしかならなかったですよ」
実際この服を選んだのはユキノさんだ。
僕がしたことはユキノさんが持って来た物の中から好みの物を選んだだけで…あれ? 本当に邪魔にしかなってないぞ?
しかしユキノさんは落ち着いた口調でこう続けた。
「違いますよ」
「え?」
「ララさんが選んでくれたのが…うれしかったんです」
そう言ってはにかむユキノさんに僕は一時心を奪われてしまっていた。
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それから僕たちは数件のお店を見て回った。
新しい服に似合うアクセサリーを探したり、市で珍しい物を見て回ったりとしていたのだが、その間ユキノさんは終始…少し過剰かなと思えるくらいに女の子らしい振る舞いを見せてくれた。
時間も時間だしそろそろ帰らないとな。
しかしお昼スタートという事もあって、もう暗くなり始める時間になってきたのでそろそろお開きにしないといけない。
僕たちはユキノさん達が宿を取っているというレオンリバー中央付近、今はそこにある劇場の前を歩いていた。
こんな所にこんな建物があったんだ…まあ僕には無縁な場所だしな…。
「ここでもやるんだ…」
「え?」
「あっ! いえ、なんでもありません。 気にしないでください」
ユキノさんの呟きに反応すると、彼女は慌てたようにかぶりを振る。
何か気になる物でもあったのだろうかと思ったが、気にしないでと言われた以上聞くのは躊躇われた。
それに…聞きたい事は別にあるしな。
劇場前を抜け中央広場へと入る。
ここは夜間であっても灯がともっており、それなりに人通りも多く常に賑わっているような場所だ。
ユキノさん達の宿もすでに見える位置でありこの事を聞いておくのであれば今しかないだろう。
「どうでしょう? 今日は楽しんでいただけましたか?」
「え?」
ユキノさんは唐突な僕の問いかけに困惑している。
「いえ、先ほどお店に来られた時のユキノさんはなんだか辛そうにされていましたので」
「…それは」
「ユキノさんの事情を僕は知りませんし詮索するつもりもありません。
…ですが、恩人であるユキノさんが辛そうにしているのに何もしないという事は出来ません。
なので少しでも良いんです、楽しんで、喜んでもらえたらと思いまして」
僕の言葉にユキノさんは驚いたような表情で動きを止めていた。…でも
「あっ! でも僕がデートをしたくなかったという訳じゃありませんよ。
お相手がユキノさんだったら何度でもお願いしたいくらいですし!」
「…ふふっ、そんなに慌てなくても大丈夫ですよララさん♪」
ユキノさんは嬉しそうに笑ってくれた。
悩みが消えた訳ではないし、完全に吹っ切れたという事もないだろう。
「私も楽しかったですし次の機会があればまたご一緒して欲しいです」
それでも今のユキノさんの表情を見れば今日のデートは成功だと確信出来た。
…しかし世の中と言うのはそうそう上手くいかないように出来ているのかもしれない。
「それじゃあ今日はここで失礼しますね、お店の片付けはしないといけないので」
こんな人通りの多い場所で? と思った。
「はい、今日は楽しかったです。 また明日にはノアと伺うかもしれ…
「随分と見せつけてくれるじゃねーかお二人さんよぉ」
だがそんな事は関係なく、トラブルの種と言うものは常に周囲に満ちているものなのかもしれない。




