第43話 観光(前編)
「へー、思ったよりも良い所じゃない」
ユキノさんと再会した日の翌日、僕はユキノさん、ノアさんの二人と共に以前訪れたレオンリバーの支流までやってきていた。
二人は何日か滞在するようなのだが、昨日言っていた通り今日はレオンリバーの観光をするという事なので案内役に連れ出されているのだ。
…正直に言えば我儘だなと思わなくもなかったが、ユキノさんの手前それを指摘するのははばかられるし、ノアさんからは何と言うか…逆らい難い雰囲気と言うか威厳のようなものを感じるのだ。
「そうだねー、水も透き通るくらいに澄んでいるし手入れも行き届いて…あれ? 記憶違いかな? ここって前に見た時はすごい汚かったような…?」
でも、こうして二人が楽しんでいる様子を見ていると来て良かったなという気持ちにもなった。
二日続けてお店を空ける事に申し訳ないという気持ちはあるし、例のルプラさん絡みの研究を進めたいという思いもあるのだが、そちらは事情を知っているリリナとピッセルさんが快く送り出してくれた。
今日くらいは…楽しそうな二人のために時間を使うのも良いのかもしれないな。
「でもこれって支流なのよね? 本流の方は見れないのかしら?」
「本流の方はちょっと難しいですね、場所としてはそれ程遠くないのですが…」
ノアさんの言う本流はレオンリバーの東門から出た先にあり距離としてはそれ程遠い訳ではない。
だが本流の付近はどうも魔獣の巣になっているようで、主に初心の冒険者が挑むことになる大ガエルが多数生息していると言う話をクリフ達から聞いた事がある。
ユキノさんが居れば(観光だと言うのに何故かきっちり武装している)おそらく簡単に倒せる相手だとは思うが、そんな危険を冒してまでわざわざ見に行こうとは誰も思わないだろう。
「そ、まあ残念だけど今回は諦めましょう」
失礼ながら無茶な我儘を言わないかな? という危惧を若干抱いていたのだが、意外なくらいノアさんの聞き分けが良かった事に安堵した。
少々強引な所はあるが、周囲の人を傷つけるような非常識な行いはしないし行動力のあるノアさんは皆を引っ張っていくリーダーの素質があるだろう。
こうしてユキノさんと再会して一緒に街を見て回れる事になったのも彼女のおかげだし、率先して物事に取り組もうとする彼女の姿は好感が持てるものでもあった。
でもなー… どう考えても平民って感じじゃないんだよね…。
ただ一つ、この点だけがどうにも気になっていた。
ノアさんの立ち居振る舞いはどう見ても平民のそれではなく、ただ歩いているだけの姿ですら只者ではない気品を感じるのだ。
何らかの変装をしている事は分かっているのでどこかの貴族だとは思うが、わざわざこんな事をするのだから身分を隠したいか、もしくは明かせない理由があるのは間違いないだろう。
しかし、一見しただけでは普通の街娘にしか見えなくとも、少しでもその言動を目にした者ならばその外見に似つかわしくない威風とのギャップによって逆に強烈な印象を抱くはずだ。
実際周囲の様子を見てみるとノアさんに集まっている視線は結構多い。
単純に若くて可愛らしい子を見ているというだけであれば良いのだが、この何とも言えない違和感からつまらない勘繰りをされるのではという不安が拭えないでいた。
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「それにしてもやけに見回りが多いわね? あなた、何か知っているかしら?」
川沿いの道を北側まで抜けた後、現在街の外壁に沿い北門へと向かっている。
浄化されたレオンリバーは確かに美しかったし見ていて飽きない景観ではあったが、さすがに上流まで来る事になるとは思わなかった。
街中を通る河の北端まで来た僕たちはそのまま道に沿って西へ向かう事になったのでこのまま行けば北門前の広場へと着くだろう。
だがその途中、ノアさんが言う通り見回りをしている兵を見かけ、それがもう今日だけで3度目になるということもあってか疑問を持ったようだ。
「うーん…知っていると言うか…。
妹から聞いたのですがどうも軍で行方不明者が出たらしくてその捜索なんじゃないかって話ですよ」
「なんで妹さんがそんな事知っているのよ…。
…でも、それだけにしてはちょっと…」
僕の返答を聞いてノアさんは何やら考えているようで、小声でぶつぶつと何かを言っているのだが周囲の喧騒もあってほとんど聞き取る事が出来なかった。
「ララさん、今はどこに向かっているんですか?」
「ああはい、今は北門前の広場へ向かっています。
特別珍しいものがあるという訳ではありませんが市場もあって多くの物が集まるので観光にも悪くない場所だと思いますよ。 あ、ほら、見えてきましたよ」
ノアさんが考え事をしているため代わって話し掛けて来たユキノさんに案内を続ける。
レオンリバーはそれ程歴史がある街ではなく観光スポットになりそうな場所と言えば街中を通るレオンリバーくらいしかない。
だがその代わりと言うか物流はそこそこ賑わっており市場では珍しい物を見る事も出来る。
北門前の広場が見え、それと同時に人通りもかなり多くなって来たのではぐれないように気を付けないといけないが、こういった喧騒はお祭りの様でもありたまに来る分にはワクワクさせてくれる魅力があった。
「わー! すごい人ですね! ここだけを見れば王都にも負けないくらいの賑わいですよ」
「ああ、ユキノさんは王都に行った事があるんですね」
「はい、まあ行った事があるというよりは王都から来たと言うのが正しいですけど」
なるほど、つまりユキノさんの故郷は王都なのか。
となるとノアさんも王都の出身なのかな? だとしたら余計に今回の来訪には別の理由があるように思えるな。
以前ガーネリフ隊長が往復で半月掛かると言っていたが、それは軍人が強行軍で往復した場合であって普通であれば1ヵ月近くは掛かると思った方が良いだろう。
気になったから見に来ただとか観光目的だけではないはず…まあそんなに気にするような事でもないのだが。
「美味しそうなにおいがしますねー。
良い時間ですしこの辺りでお昼にしませんか?」
「そうですね、ノアさんもそれで良いですか?」
確かにそろそろお昼時なので、ユキノさんの提案に倣ってノアさんへも昼食を促す。
「え? ああ…そうね。
それじゃあどこかで適当な物を買ってから公園にでも行きま…あら?」
ノアさんもその提案に同意してくれたのだがその視線が一点で止まっていた。
何か気になる物でも見つけたのだろうか? と思い、その視線の先を追ってみると…。
そうか、お昼時っていつもルプラさんが来ている時間だったな。
ノアさんの視線の先には多分見守る会のメンバーだろう、老若男女を問わず…まあ若い男性が多めではあるがそれらに囲まれたルプラさんの姿があった。
こちらには気付いていないようで、周囲の人間と談笑しながら食事をとっているようだが、やはりというかこうして客観的に見るとかなり目立っていた。
「あの娘…エルフよね? へぇ、珍しいわね。人間と仲が良いエルフも居ないわけじゃないけれど大抵は人間を見下しているからあんなに打ち解けている姿はほとんど見ないわよ」
「えっと、彼女はルプラさんと言って…最近この街に来た方です。まだ若いですがエルフではなくハイエルフだそうですよ」
知り合いであると言う言葉が出かかったが咄嗟に無難な紹介へとシフトした。何となくではあるのだが揉め事になりそうな予感がしたためやめておいた方が良いだろうと思ったのだ。
そして当たり障りの無い紹介と共に僕と同じ間違いをしたノアさんにハイエルフである事を伝えた。
でも、考えてみればエルフとハイエルフの外見って言われてもなかなか違いが分からないよな。
より神秘的な雰囲気を纏っており常軌を逸した美しさを持っているのがハイエルフ…なのだそうだが、レオンリバー内でもたまに見かけるエルフも僕からしたら男女ともに美しく見える。
ルプラさんを見た後では見劣りする部分が無いとは言わないが、一目見てすぐに判別が付くかと言われるとさすがに無理だと思う。
「ハイエルフか…どうりで綺麗な訳よね。私も容姿にはそこそこ自身があるけれどさすがにあれには勝てる気がしないわ」
「そう…なんです?」
「…あのね、そこは嘘でも良いからフォローを入れなさいよ」
怒られてしまった、ただノアさんも綺麗だとは思うけれどそもそも変装しているんだよね。
本来の姿は分からないけれど自身があると言える程なんだからきっと美人なんだろうな…とは思うのだが。
「まあ良いわ、それじゃあそろそろお昼を買って移動しましょ」
それから僕たちはいくつか簡単に摘めそうな食べ物を購入した。
ユキノさんは季節野菜を挟んだサンドイッチが気になったようなのでそれを購入、ノアさんは意外にも肉類を中心としたラインナップだった。
曰く、美貌を保つにはこういう食事も大事なのだとか。
昼食は近くにある公園でとることにする。
北西エリアにある結構大きな所で、噴水等も設えられており景観も良い場所なので絶好のスポットと言えるはずだ。
さと、午後からはどこに案内しようかな?
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余談
「あの、ララさん」
北門前広場が見えなくなった辺りでユキノさんから話し掛けれられた。
少しだけ顔が強張っているように見えるのだが何かあったのかな?
「どうかしましたか?」
「いや、その…気のせいかもしれませんが。
先ほどのハイエルフの方が買い物の後こちらを…と言うかララさんの事を睨んでいるように見えたのが少し気になったので…」
え゛…ああ、見つかっていたのか。
「もしかしてお知り合いなんですか?」
「キノセイダトオモイマスヨ」
「なんで片言になるんですか…」
これは次に様子を見に行く時が怖いな…。




