第42話 来客
「さむ…」
「そんな格好じゃ寒いのが当たり前だろ、ほら、これでも羽織っておけ」
季節は秋、夏の気配が完全になくなり最近は肌寒さを感じる事が多くなって来た。
それに加えて街全体には少しだけ物々しい雰囲気が漂っており、相変わらず軍の兵士が巡回している姿をよく見かけるのだ。
実際に何かが起こっているという訳では無いのだが、どうしても何かの前兆のような気がしてしまい不安が拭えないでいた。
「ん、ありがと。
あーまさかこんな寒いとは思わなかったよ」
「普段から外に出ないからそうなるんだ。
少しはピッセルを見習って買い出しくらいやってみれば良いのに」
そんな街中を現在リリナと共に歩いている。
店番はピッセルさんに任せているので問題ないが、別に遊びに来ている訳ではなく各々が仕事で使う品を買いに来ているのだ。
消耗品程度であれば良いのだが器具や工具なんかはやはり使う本人が見て選ぶ方が良いし、リリナを外に連れ出す良い機会だとも思ったためこうして一緒に出掛けていた。
実際ピッセルさんが来てくれた事はとても助けになっている。
面倒な仕事であっても率先してやってくれるし身体能力の高い彼女は力仕事であっても難なくこなす事が出来る。
買い出しなんかは僕よりも向いているくらいだし愛らしい彼女はお客からの評判も良かった。
もちろんそんな彼女の頑張りに報いるため僕も師としてしっかり指導を行っているが、彼女の頑張りに釣り合っているだろうか? と思う事もあるほどだった。
まあその弊害? とは違うかもしれないが、リリナが若干サボり気味になっていたりするのだが…ん?
そんな事を考えつつリリナの方に視線を向けるとその姿がなかった。
あれ? リリナどこ行った…?
…あ、あんな所に、あいつ何やってるんだ?
後ろを振り返ってみると数軒先の店の前で立ち止まり中を覗き込んでいるリリナの姿があった。
「リリナ、何やってるんだ?」
「え?」
近づいて声を掛けると自分でも無意識だったのか驚いたような声を上げた。
「何かあったのか?」
「ごめんごめん、別に何でもないよ、早くいこ」
だが特に何も話さず先を進み始める。
その足取りは何かを誤魔化そうとしているのが見え見えではあったが、わざわざその事を指摘する事もないだろうと思いこちらも何も言わないでおいた。
でも…何を見ていたのかは気になったので少しだけリリナが見ていただろう場所を覗いてみる。そこには…
へー…意外だな、リリナがこういった物に興味を示すなんて。
…でもこれ丁度良いんじゃないか? あっ、でも値段が少し…いや少しどころじゃないな。
でも今回だけだしなー…うーん…。
「兄さん、何やってるの! 早く行こ」
リリナが見ていただろうそれについて思考を巡らせていると当の本人から先を促す声が入る。
以降、お互いそれについて触れる事はなく用事を済ませていった。
ハンスから頼まれているミルス村への物品配送を含めた買い物を済ませ、ピッセルさんに店番を任せている自宅へと戻る事になった。
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あれ? 誰か居るな。
自宅付近まで戻って来たところだ。
この辺りは住人以外の人通りがあまり無く、昼間であってもたまに人を見かける程度で大体は見知った顔であった。
もちろん僕の店に来てくれる新規のお客さんも居たりするのだが、そのほとんどは冒険者なので現在目の前に居る二人、片方は冒険者っぽい出で立ちなのだがもう一人のいかにも街娘にしか見えない格好の人物が気に掛かったのだ。
二人はキョロキョロと辺りを見回しており道に迷ったかのように見える。
こんな所に何の用事だろ? 近所の人の知り合いか親族とかかな? 案内してあげ…あれ?
そんな事を考えながら二人の近くまで来たところで、その二人のうち冒険者の格好をした方が知っている人物である事に気が付いた。
「あれ、ユキノさん? …ですよね?」
「え? あっ! ララさん!」
その人物はレオンリバーに来たばかりの頃、暴漢に絡まれている所を助けてくれたユキノさんだった。
遠目に見た時からかなり身長差があるなとは思ったのだが小柄な彼女はある意味目立つ。
高身長なリリナと比べると胸元くらいの高さしかなく、そんな彼女が武装している姿にはどうにも不釣り合いな…ちぐはぐな印象を受けてしまう。
彼女の強さは実際目の当たりのしているので実力を疑うような事にはならないが、知らない人が見たら背伸びしようとしている子供にしか見えないだろう。
「お久しぶり…という程でもないでしょうか?でもまたお会いできて嬉しいです。
別の街に行くと言う話でしたし1年くらいは会えないかなと思っていましたよ」
「はい、私もララさんお会い出来て嬉しいです。
おっしゃる通りここに来るのは1年くらい先の予定でした。
…ですが…その…」
ユキノさんと再会の挨拶を交わすのだがその返答は少し歯切れが悪かった。
ちらちらと後ろ、初めて見る街娘風の人物を見ながら困ったような表情をしている。
「えっと…そちらの方は?」
それに合わせて僕も後ろの人物に視線を向ける。
ぱっと見の印象は先ほどから言っている通り普通の街娘と言った感じだ。
長い茶髪を左右で束ねてから後ろで編み込んでおり、可愛いと綺麗の中間のような顔立ちで普通に魅力的な女性だった。
年齢は僕より少し下に見えるくらいでどこにでも居そうな大人の女性だと思う…のだが、
なんでだろう…異様な程に特徴がない。
美人だとは思うけれど、逆を言えばそうとしか言えない風貌だ。
その女性はまさに無個性としか言い様のない容姿をしていた。
平均的な女性よりは若干身長が高いような気もするが、それ以外は何一つとして印象に残るものが無い。
以前にミルス村で見たコビという軍人にも似たような印象を持った気がするが、あちらが自然な無個性?なのに比べ、こちらは元々有った個性を全て削り取ったかのような違和感があるのだ。
「えっと、彼女はエ…あっ、えっと…ノアって言います。私の友人です」
「え? あ、ああ、ノアさんですか。
初めまして、僕の名前はララと言います、この近所で道具屋を営んでいる者です」
ユキノさんのどもりながら紹介に少し疑問を感じたが、初対面の相手なのだからまずは挨拶をするのが先決だろうと思い後ろの女性に話しかけた。
「へー…あなたがユキノのね…そう。
初めまして、私の名前はノア、呼び捨てでも良いし好きに呼んでちょうだい」
その女性は若干挑発的にも感じるがサバサバとした口調で挨拶を返して来る。
だがその言葉や目線からはこちらを品定めしようという意思がはっきりと伝わって来た。
「えっと、ではノアさんで良いでしょうか?」
「無難な選択ね、面白くはないけれどユキノはこんなのが良いのかしら?
まあ良いわ、よろしくお願いするわね」
そう言って手を差し伸べて来るノアさん。
その姿はとても様になっており言葉以外は社交的な対応だと思うのだが、こんな薄暗い裏通りでは逆に浮いてしまっているように見えた。
だが握手を求められて拒否するのは失礼が過ぎるので戸惑いながらも彼女の握手に応じる。
「はい、こちらこそよろしくお願いします……!?」
その瞬間だ、異様な魔力、いや魔法と言った方が正確だろう。
握った手を起点に彼女の全身を包むかのような魔法の存在が感じられた。
それは左手首を中心に広がっており、表面を覆いつくす魔力からなんらかの魔法を発動させているのは間違いないだろう事が分かった。
何らかの魔道具…偽装系…変装…?
「もう! それくらいで良いでしょノア、ララさんも困ってるじゃない」
「はいはい、分かりましたー」
何か事情があるのかな…? あまり突っ込んだことは聞かないでおくか。
「ごめんなさいララさん、ノアがどうしてもララさんに会ってみたいって言うから」
「いえ、構いませんよ。
ではそうですね…立ち話もなんなのでとりあえず僕の店まで案内しますね」
「はい、お願いします」
そして、いつまでもここで話をするのもあれなのでとりあえずお店まで案内する事になった。
ちなみに道中やお店でリリナやピッセルさんの紹介をしたのだが、
リリナの紹介をした時は、
「おっきーわねー…」とノアさん。
「年下なんですよね…?」と見上げながらユキノさんが言っていた。
ピッセルさんを紹介した時は二人とも似たような反応で「可愛い!」と喜んでいたのだが、ノアさんの方が少し顔を赤らめて興奮気味だったのが不気味に映った。
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「えっ? では本当に僕に会いに来ただけなのですか?」
お店についてから二人に飲み物を出してしばらくは他愛のない話をしていた。
前に出会った時から何をしていただの、最近は少し物騒になってきただのという近況報告の様なものだ。
二人ともリリナが出したシュワシュワする甘い栄養剤を気に入って上機嫌で会話をしていたのだが、レオンリバーに来た目的を聞いた所ノアさんが僕を一度見てみたかったのが理由だと言う話を聞かされた。
いや…さすがにそれだけって事はないよね?
ノアさんはユキノさんから僕の事を聞いて会ってみたかったと言うが、そんな理由だけでほいほいと会いに来れる程簡単なものではないはずだ。
少なくともレオンリバーの住人ではないのだから南方の…仮に一つ隣の街から来たと仮定しても往復で考えると5日くらいの日程になってしまう。
何かのついでと言うのであればまだしもそんな興味だけで行動するのは無理があるように思えた。
「そ、ユキノがあんなに嬉しそうに話す事なんて滅多に無いのよ。
だから相応しい相手かどうか見極めてあげようと思ったわけ」
「ちょ、ちょっとノア、だからそんなんじゃないんだって…」
さらにノアさんはその話を聞いてユキノさんが僕に想いを寄せていると勘違いしているらしく、それもあってか僕を品定めしようとしているみたいだ。
さすがにそれは無理があると思うんだけどな…。
こうしてわざわざ会いに来てくれたのだから好意は持ってくれていると思うが、さすがに一度会っただけ、しかも助けられた訳ではなく助けた相手に想いを寄せるというのはあり得ないだろう。
ただノアさんくらいの年齢ならその手の話は好きだろうししょうがないかな? とも思うので僕からはコメントを挟まないでおいた。
ユキノさんが本気で嫌がっているようだったらフォローしてあげる事にしよう。
「ふぅ…でもそうね。
あなたの事を見に来たのが一番の目的だけどついでに少し観光して行っても良いかもしれないわね」
ノアさんはひとしきり話したい事は話し終えたようで最後にそんな事を言い出した。
その言葉を聞いてこの先の展開をなんとなく予想出来たのだが、その予想通り…
「あなた、明日は暇かしら? 暇でしょ? 良かったらこの街を案内してくれないかしら?」
普通であればこんな無茶なお願いは断ったのだろうが、ノアさんの背後で両手を合わせお願いのポーズを取るユキノさんの姿があったため、渋々とその申し出を受ける事にしたのだった。
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余談
翌日の予定が決まったため二人はとっているという宿に戻る事になった。
普通であれば送っていくと言うべきなのだろうが、僕よりもはるかに強いユキノさん相手にそれを言うのは的外れな気がしたので言わないでおいた。
まあそれでも女性相手には一応言うべきだったかもしれないが、それとは別に言いたい事があったためそちらを優先する事にしたのだ。
「お礼の品…ですか?」
「ええ、前に助けていただいた時に約束した通りユキノさんが望む商品をプレゼントしますよ」
前回は結局お礼をする事が出来なかったので、今なら丁度良いのではと思い約束を果たそうと思ったのだ。
「うーん、そうですねー…」
だがユキノさんもそれが目的でやって来たと言う訳でもなかったので今は特に思いつく物が無いという事だ。
「ならこれとかどうかな?」
そこに話を聞いていたらしいリリナがやって来てユキノさんに何かを渡し、何故かこちらに聞こえないようにこっそりとユキノさんに耳打ちをしていた。すると…
「ほ、本当ですか? それすごい助かります!」
ユキノさんはとても喜んでおりリリナと意気投合したかのように話し始めた。
なんとなく疎外感があったのだが何故だろう? この話には割り込んではいけないような気がして僕はこっそりと店の奥に退避したのであった。




