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第40話 決意

 どうしてこんな事になってしまったのだろう…。



 ルプラさんが飛び去った後しばらくは何も考えられずに呆然としてしまっていた。


 何が悪かったのか、思い付きそうな要因が無い訳でもないがそんなのはどれも言い訳でしかないだろう。

 僕が悪かったんだなどと自惚れた事を言うつもりも無いし誰かに責任があるわけでもない。

 ただ少しだけ歯車が噛み合わなかった結果…そして魔核の魔力という不運に見舞われた結果なのかもしれない。


 しばらく立ち尽くしてはいたが当然の事ながらいつまでもこうしている訳にはいかない。

 怪我をしている2人の治療をしないといけないしルプラさんの捜索も必要だ。


 でも…見つけたところでどうしたら良いんだ? 何の手段も無しに挑んでもまた怪我人を増やすだけじゃないか?


 先ほどの一連のやりとりから魔核の魔力が原因なのは間違いないと思われる。

 だがシアさんの治療と時と同じ方法が効くか分からない上、そもそも抵抗するルプラさんを見つけて確保しない事には何も出来ないのだ。

 手段も居場所も分からないこの状況で僕に出来る事は…。



「私は…探しに行くつもりだよ」


「ロメットさん…」



 そう宣言するロメットさんは、悩むだけの僕とは違って自分のするべき事をしっかりと見据えているように見えた。




 ―――――――――――――――――――――――




「お二人ともこれをどうぞ」


「ありがと」

「ん…ありがとう」


 ロメットさんの家に戻って来たのでまずはカレンさんとシアさんの治療をする。


 荷物の中に保険として持ってきておいた魔法薬があるのでそれを二人に渡し、外傷も多いカレンさんには通常の治療も施していった。

 二人とも命にかかわったり後遺症が出る程ではないのだが軽傷とは言えないダメージを負っている。

 身に着けている防具に少量の魔力抵抗素材が使われているらしいのだが、それでもこれだけのダメージ受けた事に驚いたとの事だ。


 それだけあの精霊の能力が高いという事なのだろう、防具も無い僕が受けていたら…。


 下手をしたら命を落としていたかもしれないという恐怖が今になって襲ってきた。

 僕がルプラさんに向かった時には精霊も消えていたがルプラさん自身は魔法が使えない訳ではない。

 あの時ちょっとした気まぐれで僕に攻撃が来ていたら…やはり軽率な行動だっただろうか?


 でも、あの状態のルプラさんをそのままにはしておけないよな…。



「ルプラさん…どこに行っちゃったんだろうね…?」



 僕の治療を受けながらカレンさんが独り言のように呟くが、それは現在ここにいる全員が思っている事だろう。

 ロメットさんも探しに行くとは言っているが当てがある訳ではないようだし、そもそも正気ではなさそうなルプラさんの行き先なんて予想しようもないのだ。





 ………いやまて、本当にそうか? あれが魔核の魔力ならその行動には何かしら意図があるんじゃないのか?



「…ルプラさんが消えた方向、あちらにあるのはレオンリバーだ。

 あれが魔核の意思によるものであれば人の多い場所に行くんじゃないかな…」


「魔核?何の話だい?」

 

「はい、ルプラさんは…



 魔核の魔力が見えていないロメットさんとカレンさんに先の状況を説明し、併せてそれによってルプラさんがどこへ向かったのか行き先の予想を話した。


 ルプラさんが悲しんだ時に魔力が増していた事から、魔核は悪意というよりは負の感情を糧にしているのではと推測出来た。

 そしてそういった感情が集まるのはどこなのか? もちろん野生の生物からでも得られるだろうがより多く集めようと思った場合感情の豊かな人間が集まる場所が最適だと思われる。



「じゃあルプラさんはレオンリバーに居るの?」


「予想でしかないのでその可能性もあるという程度ですよ」


「なんの当てもない状況よりはましさ、私からしたらそれよりも魔力が見えるって話の方がにわかには信じられないね…まあ、あんな精霊魔法を使えるあたり嘘ではないんだろうけど」



 そうかもしれないな、今は信じて貰うしかないけれど。



「どうしましょうか? 僕たちはどちらにしてもレオンリバーに帰らないといけないので領主様にお願いして捜索してもらいましょうか?」


「いや、それには及ばないよ、私もレオンリバーに越すつもりだから領主への依頼は自分でやるさ」


「えっ? そうなんですか?」



 その話は初耳だがどうやら元々引っ越す予定だったようだ。

 ルプラさんの為にも、という話でまた少しだけ暗い雰囲気になってしまったがもしレオンリバーにルプラさんが居るのだとしたらロメットさんが来てくれるのはとてもありがたい事だ。


 もちろん明日帰る僕達と一緒に行くというほど急な話ではない。

 レオンリバーでの住居の確保をしないといけないし荷物だって運ばなければならない。

 距離としてはそれ程遠い訳ではないし荷物の量にもよるが、きちんとした生活基盤を整えるには最低でも半月くらいは掛かる事だろう。


 ちなみに仕事は錬金術師ではなく魔法の講師をするつもりのらしい。

 元々経験はある訳だし魔導士協会経由で斡旋して貰えれば仕事には困らないだろうとの事だ。



「分かりました、では僕の住んでいる場所を教えておきますので何か困った事があったら連絡を下さい、可能な限り協力しますので」


「ああ、その時は頼む事にするよ」




 ―――――――――――――――――――――――

 カレン




 一つ気になっている事がある。

 今後の方針が決まったので明日からに備えて今日はもう休もうという事になったのだが、私は今、その気になる事を確認するためシアちゃんの部屋に来ていた。


 正直言えばその答えに予想はついているのだが本人に確認をしておきたいというのもあるし、もしかしたらシアちゃん自身が分かっていないのでは? という可能性を考えて一度話をしておこうと思ったのだ。



「…何か…あったの?」



 急に部屋を訪ねて来た私に戸惑っているようでもあるが、それ以上に先の出来事が尾を引いているようでひどく落ち込んでいるのがその声音からも伝わってきた。

 かわいい妹のような存在が落ち込んでいるのだ、慰めてあげたいという思いはあるのだがそれは話を聞いてからでないといけない。



「うん、さっきの事でシアちゃんに聞いておきたい事があるんだ」


「…さっきの…事?」


「そう、シアちゃんが精霊魔法を披露するって言いだした事ね」



 そう、気になったのはこの事だ。

 いつもは大人しいシアちゃんが自らああいう事をやると言い出した事が意外だったのだ。

 ただシアちゃんの気持ちを考えれば納得のいく部分もあったのでその時はあまり気にしていなかった。


 でも、もしその気持ちに気付いていないのであれば話は変わって来る。


 シアちゃんは自分がルプラさんに対抗した事が先の出来事の原因だと思っているようだ。

 もちろんそんな事はないのだが、そういった罪悪感は周囲からの言葉では解消しづらく最終的には自分の中で折り合いをつけるしかないものなのでこれ自体はしょうがない事だ。

 だが自分の気持ちも分からずに、理由もなく対抗してルプラさんを苦しめたのだと考えているのならその間違いだけは訂正してあげるべきだろう。


 

「あ、あれは!…あれは……私が…ルプラさんが……ララ…が…」



 シアちゃんは言いたい事、伝えたい事があるのに言葉が続かないと言った様子だ。


 うーん、やっぱりそう…で合ってるのかな? まあ確認もしておきたいしここはズバッと聞いてみましょ。



「シアちゃんはさ、ララさんの事が好きなんだよね?」


「えっ…?」



 今までのシアちゃんの行動を見ていればそうとしか思えなかった。

 魔法を披露すると言い出したのはルプラさんに対抗して自分の事を見て欲しいという想いからの行動だろうし、何よりララさんと会ってからのシアちゃんは今までほとんど見せる事のなかった普通の女の子らしい表情を見せてくれるようになっていた。

 それが恋なのか、それとも憧れに近いものなのかまでは分からないが、少なくとも他の人に対するものとは違う特別な好意を抱いているのは間違いないだろう。



「私が…ララの事…を?」


「うん、ララさんの事が好きだから、だからララさんに可愛がられているルプラさんが羨ましくて張り合っちゃったんじゃないかな?」



 やはり気付いていなかったようだ。

 シアちゃんくらいの年齢なら恋の一つや二つはしているかと思ったがどうやら初恋のようだ。

 まあ恋多きシアちゃんってのも想像出来ないけどね。



「…………………………う…ん……多分、そうなんだと思う…………私は…ララが…好き……だと思う」



 シアちゃんは熟考してからそう答えた。

 まだ自分でもはっきりと理解出来ていないようだがこれだけでも十分な進歩だろう。


 

「…カレン、私は…どうしたら良いの?」



 シアちゃんは初めて理解した恋という感情に戸惑っているのか弱々しく問いかけて来る。

 しかし私もこの問いに対しては明確な答えは持っていないしどのように答えるべきかと悩んでしまう。

 これ以上の事は二人の問題なのだから踏み込み過ぎるのは良くないが、可愛い妹分の初恋なのだ、出来る限りの相談には乗ってあげたい。


 そもそもララさんって多分シアちゃんの事は子供として見てるみたいなんだよね。

 あーでも2年後には成人だしそうなれば異性として見てくれるのかな?

 でも異性として見て貰えたとしてもそれで好きになってもらえるかは別問題だし…。

 

 シアちゃんの問いに対する答えを模索しているがやはりそんな簡単に答えが出るようなものではない。

 そもそも自分自身の異性に対する恋の記憶がおぼろげなのだ。

 友人達と一緒に誰々は格好いいだのという話をした事はあるし、実際に話をして良い男だなーとか思った事もあるのだが逆を言えばその程度でしかない。



「そうだね…色々な事があったからまずはゆっくり考えてみるのが良いと思うよ」


「…考える…?」


「うん、それでシアちゃんがこの先もずっとララさんと一緒に居たいって思ったのなら…ララさんに気持ちを伝えてあげるのが良いと思う」


「ララに…伝える…」



 考えた末に出たのは無難な回答ではあったが今のシアちゃんには考える時間が必要だろう。

 それにシアちゃんの気持ちが本当の恋なのか、大人になるまでまだまだ時間はあるのだし結論を急ぐ必要もないはずだ。


 シアちゃんが成人してそれでも想いが変わっていなかったら…その時は私も全力で応援してあげようと思う。




 ―――――――――――――――――――――――

 ララ




 ルプラさんが失踪した日の翌日、僕たちはレオンリバーへの帰路に就こうとしていた。


 錬金術師としての仕事は問題なくこなせたし錬金具の作成も完了出来た。

 依頼として見れば完璧にこなせたと言えるのだろうが、やはりルプラさんの失踪という事態を招いてしまった事に心苦しさを感じている。

 その事態を解決するためにもレオンリバーに戻らなければならないのだが、やはりロメットさん対する申し訳ないという気持ちが強く出ていたようだ。



「そんな顔をするんじゃないよ。

 お前さんにはこれから先も世話になるんだ、しょぼくれていないで自分のやるべき事をしっかりと見据えておくんだよ」


「ロメットさん…すみま…いえ、ありがとうございます」



 でも、そんな僕にロメットさんが激励をくれた。


 そうだな、レオンリバーに戻ったらルプラさんを探さないといけないし仕事だって頑張らないといけないんだ。

 しょぼくれている暇があるのならまずは自分のやるべき事、自分が出来ることをしっかりと考えよう。


 ルプラさんを探すための手段、そしてルプラさんを元に戻す方法、すぐに実現出来るとは思えないがそれを模索する事こそが僕に出来る事なのだと思う。




 …もしかしたらあれが役に立つかもしれない、詳しく調べてみる事にしよう。

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